―それぞれの役割―
その日の帰り、俺は進藤を連れて家に帰ってきた。今日は母親が仕事で遅くなると言っていたので、夜の8時ぐらいまでなら冒険出来そうだ。シドに早速優歩の件を伝えて、仲間として認めてもらおう。
「おかえり~!あ、美紀さんも一緒なんだね!」
玄関を開けるとすぐに優歩が待ち構えていた。早く一緒に旅をしたくて待ちきれないんだろう。
「こんにちは。これからよろしくね」
進藤が優歩に挨拶をする。
「はいっ!一緒に魔王倒しに行きましょう!今すぐ!」
優歩が目をキラキラさせながら言う。
「慌てるなよ、優歩。先にシドに話をしないと」
「わかってる~!あ、お兄ちゃんの部屋にお菓子とお茶持って行くからちょっと待ってよ~」
なんとも気の利いた妹だ。俺は進藤を連れて先に俺の部屋へと向かった。
しばらくして、優歩がお茶とお菓子を持って俺の部屋にやってきた。
「はい、腹ごしらえしてからじゃないとね」
「ありがとう。いただきます」
そんなやりとりを見ながら、俺はボタンを押し、シドを呼んだ。
――――――勇生。呼んだか。
「はい。妹の優歩も仲間に入れることにしました」
――――――わかった。これが、優歩のボタンスイッチだ。受け取るが良い。
優歩の目の前に、紫色のボタンのスイッチが現れた。
――――――通常は紫色で、時空の歪みの中に入るとオレンジ色になる。
「わぁ!私のスイッチ!シドって人、ありがとう!」
優歩は自分のスイッチが手に入って嬉しそうだったが、進藤がふと言い出した。
「ねぇ、シドちゃん?」
――――――どうした、美紀。
「なんで優歩ちゃんのスイッチはそんなに早く準備が出来たの?」
――――――まぁ・・・それは・・・
「やっぱり。本当は私のスイッチもとっくに準備出来てたんじゃないの?」
進藤が驚くことを言い出した。確かに、進藤の時には数日間スイッチが準備出来ていなかったので、一緒に移動したり一緒に変身したり、いろいろと大変だったのだ。
――――――まずは、其方たちの仲間意識を確かめたくて、あえてスイッチを渡さなかった。
「そうなんですか。不具合が出て結構大変だったのに」
――――――済まない。今度からは、3人それぞれで変身し、うまく協力してやってくれ。
「わかりました。準備したら早速前回の続きから行ってみます」
―――――勇生。時空の歪みの中に入る時は、今回だけ優歩を一緒に連れて行かないと、優歩だけ別の空間からのスタートになってしまう。
「ああ、わかりました。俺か美紀にくっついて移動すればいいんですね」
――――――そうだ。そして着いたらまず、前回の記録ポイントに優歩のスイッチをはめて記録してから進んでくれ。
「わかりました」
――――――では、3人、真の変身を遂げて、協力して先に進んでくれ。時間切れだ・・・また会おう・・・
「シドって人消えた」
「5分しか持たないからね」
「真の変身ってなんだ?」
それぞれが同時に思い思いの発言をする。
「そろそろ行く?」
時計を見ると5時になろうとしていた。
「そうだな。7時ぐらいには終わらせて進藤を帰さないとな・・・鬼の居ぬ間に」
「鬼って・・・お母さん?」
「留守の間に女の子連れ込んだとか言われたら困るしな」
「私は困らないけどね~」
「美紀さん・・・もしかして・・・」
「とりあえず、出発!」
「優歩、俺か進藤のどっちかにくっつけ」
優歩が2人の顔を見比べて・・・
「そりゃあこっちでしょ。美紀さん!」
と、進藤にべったりとくっついた。
「じゃあ、行くぞ」
俺と進藤はボタンを3回押した。
「え~真っ暗で何も見えない~」
初めて時空の歪みの中に入った優歩が騒ぎ出す。
「変身したら周りが見えるようになる。いいか、ボタンを5秒間長押しして変身するんだ」
「わかったー!」
「じゃあ、みんな一緒に変身だ。行くぞ!」
それぞれが自分のスイッチを押した。1、2、3、4、5。虹色の光が俺たちを包み込み、変身が完了した。
「おお・・・」
「わぁ!」
「へぇ~!すごっ」
俺と進藤が2人一緒に変身した時のような不具合はなく、俺は戦士の姿に、進藤は魔法使いの姿に、優歩は僧侶の姿に変身した。
「すっごい!リアルRPGだー!」
優歩がすでに舞い上がっている。
「遊びのように思ってしまうけど、遊びじゃないんだからな」
「わかったー!ね、早く行こう!」
優歩が先に進もうとする。
「おい、ちょっと待て!記録して行け!」
俺は優歩に壁の穴の中にスイッチを入れてボタンを1回押すように説明した。優歩が言われた通りに素早く行動する。これで、次回からは同じ位置からのスタートになる。
「じゃあ、行こうか。すぐに戦いになるぞ」
「わかったー!」
優歩は相変わらず、楽しそうだ。
記録ポイントを出た俺たちは、すぐに戦いになった。今までのザコとは違う魔物が出てきた。小さい女の子が持つフランス人形のような・・・こいつは敵なのか・・・?
「なんか可愛いっ」
優歩が喜んだような声を出す。
「・・・油断するな」
俺が優歩に言うと同時に、人形の目が赤く光り出し、口から紫のモヤのようなものを吐いてきた。
「気をつけろ!毒かも知れない!」
「きゃああ」
俺は、剣を握りしめ、人形に斬りかかる。
「フレイム!!!」
進藤も、俺の背後から援護するように魔法を唱えた。俺と進藤の攻撃で、人形は倒れたようだが、進藤の体に紫のモヤがまとわりついて離れない。
「なんか・・・体中がズキズキ痛い・・・」
「まずいな。毒にやられたか。こういう時は・・・」
――――――優歩よ。回復魔法を唱えるのだ。全ての状態異常とスタミナ回復も兼ねての「ヒール」だ。
「わかったー!美紀さんに、ヒール!」
優歩の手から白く丸い光の玉が現れ、進藤の体を包み込む。光が消えた後、進藤の体にまとわりついた紫のモヤも消え、回復した様子だった。
「おお~」
「ありがとう、体が楽になった」
「えっへっへ」
こうして、俺たち3人はそれぞれの役割を意識しながら先へと進んで行った。




