―プロローグ―
―7月。梅雨も明け、本格的な夏が来ようとしていた。学校帰りにダラダラと歩く、俺の背中にはもう汗がじわじわと出てきて、なんとも言えない不快感だった。
「アッチー・・・」
こんな日には、プールか海に行きたい気分になる。制服は夏服だけど、カッターシャツがくそ暑い。頭にかいた汗がおでこを伝ってこめかみに流れ落ちた。制服のままでいいから、どこか水の中に入りたい気分になっていた。
そんな時、ジュースの自販機が目に留まった。そうか、冷たい飲み物飲めばちょっとは暑さもマシになるかも。俺はカバンの中から財布を取り出し、中身を確認した。よし、500mlのペットボトル買うお金は持ってるぞ。
「どーれーにしよーかなー」
暑さで頭がまいってるから、子供っぽい言い方で俺は自販機を眺めた。炭酸系にしようか、それともスポーツドリンク系、渋くお茶か・・・ん~、やっぱ、コーラがいいな。俺の乾いた喉が炭酸のシュワシュワを待っているっ・・・
財布から、150円を取り出し、チャリチャリと自販機に入れる。150円で買える商品にランプが点く。
「・・・ん?」
俺は、コーラのボタンを押そうと思ったが、一つだけ気になるボタンがあることに気が付いた。他の点いたランプは緑色なのだが、一つだけ・・・虹色に輝いているのだ。
「なんだ?これ・・・」
虹色に妖しく輝くボタンは、コーラではなく、お茶のボタンだった。まいったな~、お茶の気分じゃないんだけど、なんだか無性にこの虹色ボタンを押してみたくなる。もしかして【当たり】が出る前ぶれか?それならお茶もコーラも両方ゲット出来そうだ。
意を決した俺は、虹色ボタンを押してみた。
・・・・
「あれ???」
何も出てくる音がしない。え、何で?俺は慌てて釣り銭口を確認する。お金は戻ってきていない。返金レバーをガシャガシャ回してみるが、何も起こらない。
「なんでだよ~~~!出てこいよ~~~!!!」
と、俺が言った時だった。
シュッ――…――…
自販機のジュースの取り出し口から、何やらペラペラとした物体が飛び出してきたのだ。
「わっ」
驚いた俺の前に、現れたのは・・・
白く長い髪に、白い顔。目の周りには黒い縁取りがあって、唇も黒い。黒いマントを身にまとい、に虹色に光る杖を持っていた。
「あ、あ、悪魔・・・」
俺は、その場にペタンと座り込んでしまった。
――――――違う。
「え?」
――――――私は悪魔ではない。時空を操る者、シドと申す。
「時空を操る・・・?何のために?」
――――――其方に我々の力になってもらうべく、この時空にやってきた。
「そなた?ソナタ?ん?」
俺の頭の中に韓流ドラマのワンシーンが浮かんだ。・・・違うな。次に、もののけ姫のワンシーンも登場する。確か、アシタカがサンに向かって『そなた』と言っていた。ってことは・・・
「・・・俺?」
――――――そう。其方のことだ。ぜひ、我々の力となり、この世界を救ってほしい。
「ええええええええええええ~~~~~~!」
いやっ無理!無理無理無理!俺なんて、喧嘩も強くないし、体力にも自信ないし、汗かきだし、世界を救うとか戦闘とか絶対ありえないから!
「俺じゃ無理です。力もないし、きっと役に立てないから他を当たって下さい」
――――――其方じゃないと駄目なのだ。
「なんで俺なんだよ~」
――――――其方がボタンを押したからだ。
俺は、時空を操る者だと名乗るシドの持つ杖に目をやった。虹色に妖しく輝いている。それは、俺がさっき押した自販機の虹色ボタンと同じ色をしていた。
「え・・・そんな・・・」
―7月。
俺、朝倉勇生、高校2年生。学校帰りに、突然【時空を操る者シド】と出会い、世界を救うように言われたのだった。
俺、この先どうなってしまうんだっ!?




