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Over Land  作者: 射手
第六章  ユーマ・シフォン
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第六章  ユーマ・シフォン ⑦

View:神阪 蓮

Time:二年前



 翌日、朝霧が抜けきらない早朝。俺たちは薫を加えて、再び畑へと向かった。


「どうかなぁ」

「効果があるといいんだけどな」


 ぞろぞろと山道を登る。緩やかな斜度の山道を延々と歩く。穏やかな波の音と、肌寒さを伴う風、そして、風に揺られる木々の葉擦れ音。太陽は昇りきっておらず、薄っすらと赤っぽさを引きずる青空が広がっている。今日も良く晴れそうだ。


「この辺りに出るモンスターには地中に潜る奴もいるからね」

「そっちから来られるときついなぁ」


 山道を登りながら、今後の対策を練る。ダメだった時のことを考えておくことは大事だ。たとえ今回が大丈夫でも明日はダメかもしれない。先々のことを考えなければならない。

 地中にいるモンスターの場合はどうするか?とか、知性の高い妖怪型のモンスターの場合はどうするか?などと議論を重ねていると、あっという間に有刺鉄線にて頑丈に防護した畑にたどり着いた。


「どうして?」


 みずきの悲しそうな声が、早朝の山に小さくこぼれ落ちた。

 畑は再び無残にも荒らされ、芋が掘り起こされていた。大きく掘り返された感じはなく、芋の蔓を的確に抜いていることが見て取れる。つまり、相手は知性の高いモンスターの可能性が高い。


「この辺りに出る妖怪型のモンスターって何がいる?」


 さほど落ち込んでいない様子の薫に尋ねる。すると、「んー……」と唸って、「妖狐、化け狸、コボルト、『グランタリア』まで森が続いてるからエルフとかもいるかもね」と答える。


「エルフはきついなぁ」


 人、もしくは人以上の知能と身体能力を持ち、統率のとれた動きで狩りを行う種族。普段は『グランタリア』周辺の『迷いの森』と呼ばれる樹海に生息しているのだが、大陸のほぼ中央に位置している樹海であり、すべての森の発生源として大陸全土に根を伸ばしている。その為、遥か遠くの樹海に生息しているはずのエルフが『レンド』周辺に現れても不思議ではない。


「てか、エルフって芋食べんの?」


 突然、薫は真顔で言った。その瞬間、俺の頭の中で指令が下された。


【Mission!ボケろ】


 いやいや、んな無茶な……。そう思うが、薫は『何か』を待っている気がする。(コンマ二秒)


「そりゃまぁ、食うんだろうな。フライドポテトとかにしてさ」


 「皮付きでね」と付け加えると、「エルフって油使うの?」と疑問を続け、ツッコんで来なかった。その瞬間、俺の頭の中で指令が下された。


【Mission!連鎖しろ】


 あんまり面白くなる気がしないのだが……。そう思うが、薫は『何か』を待っている気がする。(コンマ二秒)


「そりゃまぁ、使うんだろうよ。軽油やガソリンが主燃料だろ」


 「もちろん、低公害車仕様さ」と付け加えると、「なるほど!環境にも優しい!って、おいおい、それはい◯ゞのトラックやないかぁーい」とはツッコんでくれなかった。それどころか「軽油で揚げたらどうなんの?」とさらなる飛躍を求めてきた。


 バカな、これ以上は泥沼だぞ!と思わず彼女の顔を二度見するが、彼女は素知らぬ顔で荒らされた畑を見続ける。真剣な表情で。


 け、軽油で揚げる、だと!?ディーゼル、ディーゼルでボケろってか?んー……ディーゼルねぇ……。と、二秒ほど悩むと、隣から「はぁーっ」と強烈なため息が吐き出され、カチンときた。


「む、無茶言うなや!てか、さっきのでオチとった話やろが!!」


 耐えきれず薫に凄むが「うっさいな!そんな低レベルなボケでつっこむか!アホ!!」と、ようやくツッコミを得ることができた。許容できるものではなかったが。


「アホやと!?やったらお前ボケてみろや!!」

「軽油ゆーたらディーゼルやろが!ディーゼルゆーたら◯◯マーやろ!ヤ◯◯ーゆーたらセ◯◯ソやろが!!サクッと香ばしく桜色に揚がりますぅ〜、とかあるやろ!!」

「アホかっ!そんなに飛躍したら、誰も分からんでキョトンとしてまうわ!!んでそれに「それセレ◯◯やんかぁー」ってツッコむんか!?大阪の人しかピンとこんわ!!!」


「蓮ちゃぁーん?薫ちゃぁーん?」


 ついムキになってしまい薫とどつき合い漫才を繰り広げていると、とても冷ややかな目でみずきから幕が引かれた。その隣には、涙目のアルジールが並んでいる。


「全然面白くないよぉ?ほら、アルちゃんも寒くて震えてるでしょお?」


 おっとりと微笑みながらも、凍てつくようなオーラを纏って俺たちと正対する。寒くて震えているのは貴女のせいではないでしょうか、とは口が避けても言えない。


「ご、ごめん」

「ごめんじゃないでしょぉ?今は畑のことが大事だよね?ふざけてる場合なのかな?」

「ご、ごめんなさい……、お願いだから、標準語はやめて」


 薫はがたがたと震えながら、懇願する。スベった時と、怒られている時の標準語ほどキツイものはない。(経験談)


「標準語?ううん、これは『自動翻訳システム』のせいだよぉ?ウチはいつも通りだよぉ」

「ご、ごめんなさい……」


 『自動翻訳システム』は確かにその言語の標準となる言葉に変換するシステムである。そのため、たとえ関西弁バリバリで喋ろうとも標準語に変換されるのである。すごく小さな声や、マシンガンのように言葉が入り乱れる時などにはバグが発生し、翻訳が追いつかないことがある。

 しかし、間違いなく彼女は標準語で話しているに違いない。


「こほん、それでどう対策するの?」

「うーん、『何』が来てるのか分かんないしなぁ、妖怪型に賭けてみる?」


 さっきまでの極寒の空気は一瞬にして消え去り、対策を考える。妖怪型は頭が良い上に道具を使ったり、特殊な能力を持っていたりする。「うーん」と四人揃って頭を悩ませていると、山の上の方から麻袋を肩から下げた女の子が下りてきた。特殊な能力とは炎を生み出したり、風を起こしたりと厄介極まりない。強力な遠距離攻撃が可能な上に、ここは山である。炎なんて出されでもすれば山火事などの大惨事にもなり得る。女の子は脇目も触れずに山を降りていく。以上の点から妖怪型モンスターの対策は非常に困難なのである。………?


「………」

「ねぇ、蓮ちゃん?この先に畑の収穫ってまだだよね?」


 四人揃って山を降りていく女の子を眺める。たしかに、ここから上の畑の収穫は一ヶ月ほど先のはず。そんなことを思い返しながら女の子を眺めていると、大きな麻袋を担いだ女の子はこちらに振り返る。


「………」

「………」


 通じ合う目と目。女の子は、ぺこり、と会釈すると、麻袋を担ぎ直す。条件反射で会釈を返すが、麻袋に穴が空いていたのか、芋、人参が数個、転がり出てきたのが目に付いた。途端に女の子の目は斜め上に泳いで、いそいそと歩き出す。


「そういえば、こんなアニメ映画あったよな?」

「あぁー、あったねぇー」

「となりの何とかだっけ?」

「僕それ見てないよ」


 こちらが女の子の方に近づこうとすると、ビクーンッ、と体が跳ね、それを合図にして、女の子は全力で走り出した。麻袋から芋を撒き散らしながら。しかし、こちらとしては慌てるほどのことではない。


「よぉ、どうして逃げんだ?」

「わっ!わわわっ!!」


 『スキル:瞬間移動』を使い、女の子の目の前に現れると、彼女は酷く驚いた。まぁ無理もないことである。彼女の肩を掴んで問い質すと、動揺しながらも「しゅ、出荷だよ!」と胸を張った。


「上の畑の収穫は一ヶ月後のはずだが?」


 瞬間、女の子の体はビクーンッと跳ね上がった。彼女の肩を掴んでいた俺の腕が十度ほど上下するほど顕著に跳ね上がった。出会いがこんな感じでなければ、非常に面白い子だな、と思う。


「え、えとえと、じゃじゃじゃあ、戻してくる、ね?」

「もう遅いでしょ?」


 くるり、と反転する女の子の後ろの正面に回り込んでいた薫が現実を突きつける。でもまぁ、種芋としては遅くはないのかもしれない。それでも、女の子は薫が突きつけた現実にか、それとも突如として現れたからなのか、またしても、ビクーンッと跳ね上がる。


「え、えっと、その……」


 再び俺が女の子の右肩を、そして、薫が左肩をぐっと掴む。とりあえず、今回の犯人では無いにしても、何かしらの情報は得られるだろう。薫は犯人と決めつけているみたいだが。


「んじゃ、とりあえず逮捕な」


 冗談ながらに大袈裟な言葉を口にした瞬間だった。途端に女の子の表情が変わり、それまでとは比べものにならない力で反発される。


「え?」


 その力により彼女を掴んでいた手が弾き飛ばされた。それは、人のものでは考えられない力と動きで俺と薫の手から離れると、女の子は宙に舞った。


「ごめんなさいっ!『それ』返すから!!」


 そう言いながら、女の子は麻袋を下ろして、両腕を擬態させた翼を羽ばたかせて上昇を続けた。


 『スキル:身体変化』——自身の身体をモンスターのものに変化させることができる。体の何割を変化させることができるのかは、そのモンスターと関わった時間による。モンスターと遭遇する程度の時間では片手を変化させる程度のことしかできない。


 女の子の変化に呆気に取られていると、女の子はそのまま空を滑空し山の奥へと飛んで行った。


「なんだったんだ?」


 弾かれた手を見つめていると、山から大きな遠吠えが聞こえた。

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