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Over Land  作者: 射手
第六章  ユーマ・シフォン
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第六章  ユーマ・シフォン ②

view:神阪 蓮



「うぅ~~……」

「蓮ちゃんも大変だね……」


 眠れないまま朝を迎えた俺は、いつものように起こしに来た、あすかに部屋から引きずり出された。あの後、二人をとっ捕まえて、縛り上げた。がたがたと震えながら謝るアルジールとは対照的に、どっしりと構え開き直るギルファード。挙句の果てに「引っかかる方が悪い」なんて言いやがった。

 ちなみに、二人が使ったのは『催夢薬(仮)』と呼ばれるもので、決して夢の中身が見れるわけではない。『Over Land』に存在する『スキル』の一つ、『錬金術』で作ることができる霊薬である。悪夢を見せて精神的に弱らせるものらしい。その薬を夕食に出た味噌汁に混ぜ、俺に寝小便をさせようとしたそうだ。


「あいつらは今頃寝てんだろーなぁ……」

「そんなに羨ましそうに言わなくても……」


 全て知ったみずきは、同情するように苦笑し、濃いめのコーヒーを俺に出してくれた。日当たりのいいテーブル席で飲むコーヒーは、いつも以上に苦く感じた。


「こんなに晴れてぽかぽかして気持ちいいのに、寝ちゃいけねぇのか……」

「頑張れ、おとーさん♪」


 辟易する俺の隣であすかは嬉しそうにホットケーキをつっつく。食べ方が下手くそなのか、幼いせいなのか、あすかのホットケーキはほとんど原型を留めていなかった。

 こんな子が本当に十数年後にはあんな女性になるのかねぇ……。

 悪戯ではあったが、いいものを見た気になった。


「ねね、おとーさん。そらはぁ?」

「ん、あぁ」


 暖かな目であすかを見つめていたら、いきなり顔が上がってビックリした。別にやましいことなんてないんだが、少しいけない気がして目を逸らす。


「いないな、今日って検査の日だっけ?」

「そうだよぉ、ふふ」

「なんだよ?」


 みずきに確認をとったら、生暖かい目で見つめられる。彼女は日本茶を一口飲み込むと、「あーちゃん可愛かった?」と、にこにこ笑う。いつもは、ほやん、としているくせに、こういう時は察しが良い。


「そんなんじゃねぇよ」

「ふぅん」


 どうやら何を言っても無駄なようだ。確かに可愛かった。それは認めよう。認めるが、これ以上のコメントは差し控えさせてもらう。苦いコーヒーを口に含むと、彼女は「ふふ」と微笑んで、苺大福を口に運ぶ。


「てか、待て!苺大福なんかあったか!?」


 今までのおっさんのレパートリーにはなかったはずだ。


「おっちゃん作ってくれたよ?」

「作ってくれたんじゃなくて、作らせたんだろ……」


 注文すれば何でも作れる技術に脱帽しつつ、彼女の甘い物に対する欲望に脱力する。


「洋菓子も和菓子も作れるってすげぇな」

「ねぇー」


 彼女も同意しながら再度湯呑を口に運ぶ。その様を目で追っていると、「これは自分で淹れたよ」と聞いてもいないことを主張してきた。


「聞いてない」

「ちなみに八女茶だよ」

「それも聞いてない」


「うんまいんだぁ」と、勝手にほっこりしている彼女に再度脱力。みずきと会話していると眠くなる。うとうととしていると、「それ」とあすかは苺大福を指さしておねだりする。


「いいよぉ、はい」とみずきは苺大福を一つ譲ると、すぐさま、あすかもそれを頬張り「んー」とおいしさに感動。それを見たみずきは「おいしいよねぇ」と、ゆっっったりとした口調であすかと頷き合った。


「もう寝ていいか」


 この二人の会話は眠くなる。


「だめ──」

「──やよぉ」


 なぜか二人はシンクロした。しかも、睡魔を擽るゆったりとした口調で。

 勘弁してくれ……。


 その後も、舟を漕ぎながら二人の会話を聞いていると、ようやく張り合いが取れそうな奴がバックヤードから出てきた。そいつはカリカリに焼けたトーストを齧りながら、片手でマグカップを持ってこちらにやってくる。朝食を摂るには、この日当たりのいいテーブルは大人気スポットだ。


「何?」

「交代」


 俺はテーブル席から立ち上がって、そいつとすれ違い様に肩を叩く。俺はもう眠くて限界だ。そいつ──薫がいれば、あすかも起こしにくることはないだろう。


「は?何、眠いの?」

「そ、あんま寝れてねぇんだ、俺」


 その上、あすかの早起きと、みずきのゆっっっっったりペースに付き合っていたのだから、さすがに限界だ。


「今から寝んの?バカなの?」

「バカ言うな」


 薫は時計を見て言う。時刻は九時過ぎ。普通の生活をしていれば『バカ』と言いたくなる気持ちは分かる。しかし、仕方がないのだ。夜中にはアルジールとギルファードに玩具にされ、朝にはあすかが起こしに来る。いつ寝るのかと聞かれれば、今しかない。


「もぉ……、これ食べたら『稽古』するよ」

「はぁ?いや、だから……」

「終わったら昼くらいになるから、そっから昼寝でもすりゃいいでしょ?」


 まぁ、今からガチ寝するよりは健康的かもしれない。


「ふむ」

「はい、決まり。んで、夜トイレで『何』あったの?」

「………」


 日当たりのいいテーブル席で、この日二回目の『トイレ事件』の話題となった。このペースなら、今日一日で何度話すことになるのか憂鬱になる。しかし、他人事であるみずきは「聞いて聞いて、あんねぇ」とノリノリで喋る気満々だった。


「みぃ!お前主体で喋るな!俺が話す!」

「えー……」

「蓮うっさい!んで?何々みぃちゃん」


 結局、『稽古』が始められたのは、昼前の事だった。

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