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Over Land  作者: 射手
第四章  ジェラード・アイスラーム
71/250

第四.五章  ティア・アルバー ⑤

View:クリストフ・アルバー

Time:五年前



 数が多く、周りを囲もうとするモンスターの出方を『自警団』のリーダー代理であるジムの号令によりガトリングやマシンガンで牽制する。彼らの背後では『自警団』の『スキル:錬金術』を持つチームがそれらの弾薬を精製、提供する。相手が数にモノを言わせて押し寄せてくるのに対し、俺たちは物量で勝負を挑む。物資、資材の貯蓄をここで使い切る勢いで、『自警団』はガトリングをフル回転させる。その効果は絶大で、俺たちの背後を取ろうとするモンスターを足止め、撃退していく。


 背後の心配がいらなくなった俺たちは前に出る。アランは『スキル:身体硬化』で鎧を身に纏い、単身特攻。モンスターの攻撃を一身に受けながらも、傷一つ負うことなく、ダイアモンド級の硬度を誇る拳、足でモンスターをなぎ倒す。その威力は、スノーベアの分厚い胸板に穴を開け、ホワイトタイガーの首をへし折るほどだ。

 その『最強の壁』に続いて、短剣を持つン・バールと並んで俺が立つ。ン・バールは『スキル:幻影』を大量に作り出し、相手を混乱させ、その隙に首を掻き斬り、体を貫き、モンスターを屠っていく。また、その隣で『スキル:絶対的集中』を駆使してン・バールの攻撃に同調、共鳴し、彼女の幻影に気をとられているモンスターを薙ぎ倒す。そして、俺はモンスターの攻撃を躱すことで、隙を作り、その隙をン・バールが突く。

 さらに、その取り零しを後方に控えるティア、圭一が撃ち抜く。その弾丸が及ぶのは、何も前方だけではなく、『自警団』の牽制を潜り抜けた左右のモンスター、更には上空から迫り来るグリフィンにも目を向ける。グリフィンにはキャンサーが精製した『電撃弾』を使用し、着弾と同時に放電、全身を感電、痙攣させ地面に失墜させる。その後は、俺たちの仕事だ。


 いける———、誰もがそう思っていた。

 このまま押し切り、壁の修復を行えば、いつも通りの日常に戻れる。

 そう信じていた。


 しかし———、『この世界』は残酷である。



 急に世界が暗転した。薄暗い雲が四六時中空を覆う『ナインクロス』は、いつも薄暗い。しかし、それとは別の類。物理的な理由で、世界が暗転した。


 瞬時に、俺たちは空を見上げる。


 白銀の鱗を全身に覆うドラゴンが『ナインクロス』の上空で旋回を繰り返していた。全長ニ十メートル級のドラゴンが、実に三頭。それらの視線は、俺たちを見下ろしていなかった。

 正反対、『サウスウエスト』の壁の上。『ナインクロス』の大多数が集まる場所。


「ティア!圭一!行かせんな!」


 言うが早いか、二人とも上空に銃を向けていた。いち早く反応したのは圭一だった。彼の銃口は次々と火を噴いて、ドラゴンを撃ち抜き、凄絶な電撃を迸らせる。


「ティアは前との連携に集中して」

「っ!圭一!?」


 総計三頭のドラゴンを次々と撃ち抜き、墜落には至らないが、飛行困難な状態を引き起こすと、ドラゴンは巨大な翼を水平に広げて、地面にへと降り立つ。三頭が次々と上げる咆哮を、圭一は一身に受けていた。


「『自警団』の半数はこっちに!ドラゴンを足止めする!」


 圭一は銃をショットガンに持ち替えると、『自警団』に呼び掛けて、ドラゴンに詰め寄る。無謀とも思える彼の特攻を、俺たちは止めることができなかった。


「机の上だけの男だと思うなよ」


 そう呟くと、圭一はショットガンで乱雑に並び立つプレハブ小屋をぶっ放した。そのプレハブ小屋は五階建て(五つのプレハブ小屋を上に積んでいる)で一階部分にはいくつもの筋交いが備わっている。圭一はその筋交いの中心部分をショットガンで撃ち抜いては次々と筋交いを破壊していく。

 そして、筋交いの破壊を終えると、壁面積の中心点、一番モーメントの掛かる点をショットガンでぶち抜く。


 建物の重心が一気に傾き、プレハブ小屋はドラゴンの方へと倒れていく。所詮、プレハブ小屋であるため、重量は知れているがそれでもドラゴンの鱗を剥がす程度のダメージにはなる。


 さらに直立して駐車している五十メートル級のクレーン車にもショットガンで攻撃。ロッドを固定していた油圧ホースを破壊、ワイヤーも破断させ、ドラゴン目掛けてブームを振り下げさせる。五十メートルものクレーン車のロッドが倒壊し、二頭のドラゴンが下敷きとなり、またその影響で数軒のプレハブ小屋が巻き添えになった。


「今だ!」


 プレハブ小屋とクレーン車の倒壊により巻き上がった粉塵のせいで、腕で口を覆ったまま圭一は叫んだ。その声を受けて、数十人の『自警団』の青年たちはガトリングを回転させる。動きが制限され、最強の防御力を誇る鱗を剥がされたドラゴンにとっては、たった七ミリの弾丸でも致命傷になり得る。それが雨のように押し寄せるとなれば、尚更だ。


「どうだ!」


 三頭のドラゴンが絶叫する中、無数の銃弾が飛び交う。翼も損傷し、飛べなくなったドラゴンは、もはや巨大な的でしかない。


「このまま押し切———え?」


 突然、物理的な暗闇が彼らを覆った。すぐさま圭一と『自警団』の十数人は上空を見上げる。そこにはプレハブ小屋が数軒、浮いていた。自身の真上で滞空するそれは、徐々に崩れながら落下してくる。


「全員!はな——」


 圭一の言葉は最後まで続くことなく、彼と『自警団』の十数人はプレハブ小屋の下敷きとなった。



ーーーーーーーーーー



 圭一がドラゴンと交戦していた同時刻。


「うぅらああああああっ!!」


 アランは雄叫びを上げて、モンスターの群れへと特攻する。ダイアモンド級の硬度を誇る彼の体は傷一つなく、戦場の最前線に君臨し続ける。


「つぁあああああっ!」


 ホワイトタイガーの首元に拳を突き刺し、スノーベアの膝を蹴り折る。モンスターにとっては、かなりの脅威の存在となったアランには、かなりの負担がかかっていた。

 『スキル:身体硬化』を発動し続ける必要のある特攻。それは間違いなく彼の集中力を蝕んでいる。


「まだまだぁああああっ!」


 しかし、彼の根底にある怒りが、集中力を繋ぎ止める。それが如何に危険な状態か、全員が理解していた。


「ンバ!アランを援護だ!」

「わかってる、っよ!」


 しかし、彼の元へはたどり着けない。モンスターを掻い潜るにはかなりのリスクが伴う。まず間違いなく、全方位からの攻撃に晒され、躱しきることは不可能だ。俺の『スキル:絶対的集中』を持ってしても、死角からの攻撃まで把握はできない。また、ン・バールの『スキル:幻影』を駆使しても、すぐさま消されてしまう。

 彼の元にたどり着けるのは、彼のみであった。


「っく!アラン!下がれっ!」


 彼に向けて叫ぶが、彼には届かない。かと言って、アランが前線から下がると、間違いなく、戦線を留めておくことが俺やン・バールにはできない。徐々に後退し、背後で圭一と交戦しているドラゴンに挟まれることになる。

 アランは下げられない。そのことは、アランもわかっていた。


「どうしたあああ!こんなもんかよっ!」


 次々とモンスターを屠るアラン。しかし、徐々に彼の体に傷が刻まれていく。浅い切り傷が徐々に深くなる。細い血筋がみるみる太くなっていく。


「下がってくれ!アランンンンっ!」


 彼の元にたどり着こうとモンスターの間をすり抜ける。しかし、目の前にはスノーベアが立ちはだかり、鋭い爪で切り裂かれる。


「ぐっ」


 肩口を切り裂かれ、血が噴き出す。すぐにン・バールの援護を得て、後退する。


「クリス!無理しないで」

「しかしっ」


 彼を助けに行けない。こんな時、フェルトが居てくれたら……、と悔やんでしまう。彼ならば、アランの元までたどり着けるのに、と。

 しかし、彼はここに居ないのだ。


「うぉおおおおおおおっ!!」


 アランは雄々しく叫び、スノーベア、ホワイトタイガーに拳を振り続ける。彼の体は血塗れになり、肉も削げ落ち、骨が至る所から見えていた。


「やめろおおおおおおっ!」


 俺が喉を枯らし叫んでも、アランはそこに立ち続けた。筋肉が削げ落ちても、彼は腕を振り、ホワイトタイガーの毛皮を掴む。骨が折れても、アイスウルフの体を蹴り上げる。


「下がらんぞ!てめぇらごときに、『ナインクロス』を潰されてたまるかあああああ!」


 絶叫と共に、アランは戦い続けた。

 しかし、さらなる『絶望』が彼に迫っていた。


 ズズン、という地響きと共に、真っ白の体躯をした巨大なモンスターがアランの目の前に現れる。


「はっ!てめぇがボスかよ」

《……人間ごときが、私に話しかけるな》


 全長十数メートルはあるだろうか、真っ白な体毛に覆われた人型の『そいつ』は、人の言葉を発した。


「へっ、しまったな」


 アランは『そいつ』を見上げて、膝をついた。ぜぇぜぇ、と息をして苦笑する。


「こんな奴がいんなら、もうちっと『スキル』温存しときゃよかった」


 膝をついたまま、アランは後ろを振り返る。多くのモンスターがいる中で、俺と目が合ったのは奇跡という他ない。

 目が合うと、アランはいつもの笑顔を俺に見せ、「わりぃな」と口が動いて見えた。


 直後、その場に、真っ白な体毛に覆われた『そいつ』の足が踏み下ろされた。


《まったく……、人間ごときに手間取るとは……》


 低い声で『そいつ』は言うと、手近にあったプレハブ小屋を持ち上げ、こちらに向かって投げる。そのプレハブ小屋は、俺たちの頭上を越えると、背後に落下した。

 ドラゴンと対峙していた圭一と『自警団』の十数人が、その下敷きとなった。

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