第九章 ポール・ネイザー ⑩
Time:九年前
「ふざけるな!」
俺は決して、こちらへ振り返ることのない背に向かって叫んでいた。
「何のために俺たちは戦っていたんだ!」
高級スーツに身を包み、白髪混じりの髪をオールバックに固めた男に向かって理不尽に対する説明を求めた。男は口を開くことなく、亡骸を抱いたまま軍用車に乗り込んでいく。
「何のためにっ!何のために、あいつらは死んでいったんだ!!」
閉まりゆく扉を引き留めようと車に飛び掛かるが、要人警護の人間に取り押さえられてしまう。
「説明を!俺たちに!!遺族たちに!!!全世界に説明しろっっ!!!!」
結局、俺の叫びに反応を見せることはなく、男を乗せた車はタイヤを回して離れていく。拘束され、腕関節を絞められたまま、「ふざけるなあ!!」という叫びがファルクリーズの森に消えていった。
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View:クリストフ・アルバー
見えるもの全てが白と黒に染められた雪道を、俺たちはひたすらに登っていた。空には真っ白かつ重々しい雲が敷き詰められ、雪塵を降らせている。針葉樹の枝の先にまで雪は積もり、雪の白とのコントラストにより木肌は黒く見える。
そんな白銀の世界の中、俺たちは白い息を吐きながら、山道を登っていく。
「ぜぇ、はぁ、っふへぇ、ねぇ、蓮ちゃん……」
背後から弱りに弱ったみずきの声が漂ってくる。言葉を宛先は違うが、彼女は倒れてしまうのではないか、と不安になり、名を呼ばれた男と同時に振り返る。そこには膝下まで雪に埋もれたみずきが重い呼気を吐いて、針葉樹の幹に手を添えて自身のバランスをとっていた。
みずきを始め、蓮たちはどうやら『現実世界』では雪の少ない土地の出身だったようだ。出発当初はまるで布団のように積もった雪の中での散策に心を躍らせていた。しかし、雪の中で心はものの三十分でジャンプはおろか、ステップすらも刻めなくなっていた。平坦でかつ広い場所で踊ることをお勧めする。
ちなみに、アルジールたちは三十分ほど前より『スキル』を駆使して「僕、先行ってるね!」と体を浮遊させて雪から脱出し、「おい!待てよ!!」とギルファードも『スキル』を使ってアルジールを追いかけていった。そして、いつもなら腕に引っ付かれて雪以上のハンディキャップとなるミノ虫も「ライガ!あたし達も行きますよー」と嬉々として二人を追いかけていった。今になって思えば、尻尾にでもしがみついて行けばよかったと心から思っている。
みずきは言葉の合間に重い息を挟み込みながら「これって……さぁ、訓練……な、の?」と尋ねてくる。
その疑問をそのまま受け流すように蓮は視線をこちらに寄越す。それを更に受け流すと、薫と目が遭って、睨まれた。皆、肩を上下させて、白い息を顕現させている中、やたらと元気そうなポールが目に入ったがトリミングして風景から除外しする。
「ただの移動だよ。トレーニングじゃねぇ……」
半ば言い訳のように答えると、薫の方角から、はぁ……、という大きな溜息が聞こえた。しょうがねぇだろ、そこまで行かねぇと始まんねぇんだから!と言い返そうとする間際、「じゃ、じゃあさ……」と絶え絶えながら、みずきは言葉を挟む。
「階段……、作ってもいいよね……?」
「よろしくお願いします!」
俺は皆を代表して頭を下げた。積雪のため、彼女の下へ駆け寄って感謝の意を伝えられないのが、本当に残念だ。
再び、薫の方角が殊更大きな溜息が聞こえてきたが、その不満は受け入れようと思う。
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「お前ら……、今のはどういう事だ?」
先に目的地に着いていたジェラードが俺たちの雪中行軍を見て、目を丸くしていた。それもそのはず、もはや腰高にまで積もっている雪の上を俺たちは歩いてきたのだから。ちなみに、ジェラードやキャンサーはあらかじめユーマに運んでもらっていた。
「みずきが『スキル』で階段を作ってくれたんだ」
雪中よりも幾分マシとはいえ、階段コースも中々にタフな行軍ではあった。躓かないように階段の段間隔を調整したり、スロープにしてみたら滑って転んで雪の中にダイヴしたり、急な斜面では無駄に迂回したり、と想定よりも調整事が多くて楽し——苦労した。
そんな功労者である彼女をジェラードは「ふ〜ん……」と一瞥するが、鋭利な視線にみずきは「ひっ……」と小さく悲鳴をあげ、体を震わせた。その所作に蓮はすぐさま壁となって彼女の前に立ち、こちらは「睨むな」と切り裂き眼光の発生源を小突く。
「目付きが悪いのは生まれつきだ」と口答えしつつも、「まぁ、やるな」と笑みを見せる。どうやら蓮やみずきのことを認めつつ、『レンド組』には負けたくないという気持ちが表に出ているようだ。しかし、切れ味の鋭い眼光を放ちながら笑うのは、痛ぶるタイプの捕食者のそれであるため、彼らの前では仮面でもつけさせようかと考えてしまう。
それでも、ジェラードにポジティブな感情が芽生えていることを嬉しく思いつつ、全員が揃っていることを確認して、咳払いを一つ。
「この度は、蓮や薫を始め、レンドの皆が参加してくれて本当に感謝している」と初めだけの畏まった言葉を並べると「今回の目的は……」と本題に入る。
俺たちの拠点『ナインクロス』の近くにあり、ずっと脅威であったダンジョンである『氷の洞窟』のマッピング、それが今回の目的である。ここの主であった『エンブレム:タウ』の討伐に成功し、ずっと謎であった『氷の洞窟』を解明し、資源や資材、出現する獣達の把握し、今後増えていくであろう『ナインクロス』の住民たちへの安定した物資の供給、さらには『レンド』との交流のためのインフラ整備にも役立てるようにするためだ。
——と、もう一つの目的としては『Over Land攻略』に向けた戦力・連携の強化だ。先の『エンブレム:カッパ戦』での経験不足、連携の悪さ、知識不足が浮き彫りになり、今から省みても全滅の可能性だって大いにあった。
そして、利用されていた可能性さえも……。
それらの打開のためには、俺たちは様々な意味合いとして『力』をつける必要がある。
そのために、俺たちは『氷の洞窟』の攻略を目指す。




