表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Over Land  作者: 射手
第二章  アルジール・クライ
20/249

第二章  アルジール・クライ ⑥

 view:アルジール・クライ

 time:三年前


 火柱が立ち昇る町の隅を、人目につかないように僕は歩きながら、ギルファードを探した。

炎の熱は熱く、更に雨が蒸発して湿気までも纏わりついてくる。まるで、誰かに圧し掛られているかのように、体が重い。


「ギルぅ、どこ行ったんだよぉ」


 小さな声はすぐに掻き消された。家のほとんどは木造だったため、この炎で崩れていく。


「はぁはぁ、うぅ、どこだよぉ」


 何度目か分からない泣き言を言う。そう言えば、今日はずっと歩きっぱなしだった。すでに両足は筋肉痛を訴えていて、動きたくない。でも、座り込むことなんてできなかった。どんなことがあっても、ギルファードだけは見つけないと帰れない。そう思っていた時だった。今まで聞こえていた音に新しい音が混ざった。それは、銃声。『黒装束』が持っている武器は、どれも音の鳴らないものである。銃もサイレンサー付きで銃声が聞こえることはない。と、いうことは、敵?


「ぎ、ギルぅ!どこだよぉ!」


 叫んでも返事はない。そして、また銃声が鳴った。


「ひっ!ぎ、ギル!」


 耳を抑えて蹲る。こんな事なら『ナインクロス』で待っていれば良かったと思えてくる。しかし、もう引き戻せない。僕はもう知ってしまったんだ。『黒装束』は『町の悪い人』を倒していたんじゃなかった。無関係な人も、子供も関係なく殺戮を行なっていたんだ。父さんは、正しくなんかない。そんな事を思うと、涙が溢れてきた。あの優しい父さんが、こんな酷いことをできるはずがない。信じられるはずがない。いつも帰ってきた父さんが、いつも落ち込んでいたのは、こういう事をしていたからなのか?考えが巡って、辻褄が合ってしまう。それが何より、悲しかった。『ナインクロス』の為とは言え、こんな事をしていたなんて。そんな後悔と絶望に苛まれている間にも銃声が鳴り響く。


「駄目だ、ギルだけは連れて帰らないと。ギルだけは、ギルだけは」


 そう自分に言い聞かせる。何度も何度も口にして、帰ることだけを考える。絶対にギルファードだけは見つけ出さないと。


「ぐっ、あ、アル」


 しばらく炎の熱に炙られながら歩くと、背後から声を掛けられた。そこには『黒装束』が倒れていた。もしかして、ギルファードか、と思い駆け寄って抱き寄せる。しかし、ギルファードではなかった。真っ黒の『黒装束』は泥水に濡れていた。


「え、エルスさん?」

「逃げ、ろ。アルジール」


 絶え絶えの言葉で『黒装束』は言う。


「あいつらは、強、すぎる」

「ねぇ!ギルはどこ!」


 『黒装束』の言葉を遮って聞く。相手が強いことなんて分かっている。今知りたいのはそんな事じゃない。


「分からない、しかし、お前は逃げろ。『OLRO』に捕まれば、殺される」

「殺っ……」


 確かに、こんな事をしていれば死刑は免れないかもしれない。しかし、『ナインクロス』の人を助けてくれない『OLRO』のどこにそんな権限があるのだろう。僕にはもう、何が正しいのか分からなくなっていた。


「逃げろっ!アルジール!」


 突然、エルスが叫び、僕を押し飛ばした。その瞬間、銃声が鳴り、エルスの腕を貫いた。「ぐあっ」と、エルスのうめき声が聞こえる。視線を巡らせると、炎の熱に揺らめきながら人影がこちらに向かって歩いてきていた。


「う、うぅ……」


 分からない。何が正しいのか。


「あんた達に仲間を庇おうとする意識があるなんてね、笑わせるわ」


 女の声が炎の轟音に紛れながらも、しっかりと耳に届いた。そして、次弾を装填する金属音も聞こえた。その銃口は、間違いなく僕を狙い澄ましている。僕は迷っていた。この弾を受けるのが正しいのか、逃げるのが正しいのか。父さんなら、どちらを選択するのだろう。


「逃げろっ!」


 エルスさんの叫び声に、僕は、ハッと我に返り、無心に走り出した。背後では、銃声が再び鳴り響いた。


 view:アルジール・クライ END



 view:神阪 蓮

 time:三年前


 そこには俺一人が立っていた。そう錯覚せずにはいられないほどの速度と鋭さ、そして、気配の無さ。『死神』は無言、無音で俺に強襲をしかけてくる。

 刃を振り下ろす、左手の短剣で受け止めると、逆に石突が右下から迫ってくる。それを受けずに流すと、その反動をそのまま利用し、『死神』は反転、その際に気配を追えなくなり、見失ってしまうが、刃のヒリ付いた気配を後頭部に感じて、前転。風斬り音が後頭部で鳴るのを感じた。


「くそっ」


 すぐに振り返り、『死神』を探す。すでに風景と化している『死神』を見つけ出すのは、もはや不可能に近い。視覚による認知は、ある程度予測を元にしている。相手の容姿、行動パターンを予測し、どこにいるか、何をしているかを認知する。不意をつかれるのは、予測が外れているということだ。しかし、予測をするための容姿や気配が曖昧な今、『死神』を見つけ出せない。ならば、他の気配有るものを頼りにするしかない。例えば、炎の光に反射する鎌の刃。それにさえ当たらなければいい。


「ふっ」


 刃をサイドステップで躱し、姿の見えない『死神』に剣を振るう。もちろん、当たることはない。次は視界の端から光る気配を感じた。それを仰け反ってなんとか回避する。しかし、鎌の刃に付着していた雨粒が、振り回した風圧、遠心力により飛び散り、俺の目に飛びかかった。


「っっっ」


 視界は完全なる闇に包まれた。人間は反射、無意識には逆らえない。雨粒が目にかかったことで無意識下に、俺は目を閉じてしまった。


「っそたれ!」


 闇の中で俺は毒づく。どこに来る?何を狙う?奴は自らを『死神』と言っていた。『死神』は『首』を狙う。その理由は、その武器にある。鎌とは本来、無反応、無抵抗の植物などに使われることが多い。それは鎌の形状。湾曲した金属の内側にのみ刃が付いているからだ。その武器で反応、抵抗する人間を攻撃するのであれば、一撃で殺すことができる『首』を狙うはずだ。もちろん、違う可能性もある。この状況で脚を攫われれば、動くこともできずに一方的に殺されるだろう。しかし、奴は『死神』と言った。そこに奴の『矜持』があるはずだ。そう考えた俺は、首の前に短剣を構えた。


 ガキィィ──ンンン!


 金属がぶつかり合う音、衝撃に俺は短剣を手放し、体を反転させて、後方へと飛びかかった。そこに刃は無い。そう信じて飛び込むと、『死神』を捉えることが出来た。すぐに地面へと押し倒し、馬乗りになる。視界を開けた瞬間に、再度短剣を取り出し、『死神』の目の前に突き立てる。眼前に輝く鋼は恐怖の象徴であり、力のそれでもあった。


「終わりだ『死神』、トドメは刺さねぇ。『OLRO』の裁きを受けろ」


 『死神』の手からは長柄鎌がなくなっていた。おそらく、俺のタックルを受けて手放したのだろう。『死神』からは抵抗を感じなかった。


「はぁ、はぁ。そうか」


 『死神』はどこか遠くを見る目で、俺を見た。


「なぜだ、なぜ『町』を巻き込んだ。話をしようと思わなかったのか?」


 乱れた呼吸を整えながら、『死神』を抑えつけながら聞いた。今も『町』は赤く燃えている。悲鳴と断末魔、そして、銃声が鳴り響く。一体どれだけの人が犠牲になっているだろうか。


「話、か。この町に『ジェラード』という男が来なかったか?」

「『ジェラード』?来てないな、使者か何かか?」


 答えると、『死神』は「なんだと?」と反応を見せた。


「じゃあ、『ナインクロス』の住人の受け入れの要請も、物資支援の要請も聞いていないのか?」

「なんだ、それ?そんな話があれば、聞いている。いきなり武力行使してきて、何だその話は!」


 『死神』の胸ぐらを掴む。後出しにも程がある。先に聞いていれば考えることもできた。


「この辺りのモンスターは、数は多いが力は弱い。他の町は知らねぇが、俺たちならばモンスターが襲ってきても、町を守れるだけの力はある!なぜ、それを先に言わない!」

「『ジェラード』が来ていない、のか」


 『死神』は放心していた。信じられないことだったのだろうか。しかし、彼ら自身がしたことの落とし前は付けてもらわないといけない。


「『OLRO』で罪を償え!それから、もう一度話をしに来い!」

「………、そうか。しかし、私は『死神』だ。自分を裁くのに、他人の力は必要ない」

「なにを?」

「『ジェラ』……、絶望するな……。お前の罪は、私が償う……」


 『死神』は一度だけ笑うと、自らの首をナイフで切り裂いた。吹き出す血飛沫に、一瞬何が起こったのか理解できなかった。


「すまな、な。ある、ーる。わた、はただ、くな、った」

「おいっ!逃げるなっ!」


 『死神』の首に手を当てるが、血は収まることはなかった。そして、『死神』から力が抜けた。雨も強くなり、火の手も収まり、悲鳴が収まり、『死神』の体が冷えた頃、もう一つの戦いが始まった。


「父さん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ