おんぼろオモチャのクリスマス
街外れのゴミ置き場に、人形がひとつ捨てられてありました。使い古されてもうボロボロ。手や足もグラグラとしていて、今にも取れそうです。人形は、自分がボロボロで、もう子供達に笑顔を向けてもらえない事を悲しみ、神様にお祈りをしました。
「神様、今日は年に一度のクリスマスの日です。どうかボクの願いを聞いてください。もう一度ボクに子供達の笑顔を見せてください」
人形は、何度も何度もお祈りしました。その真剣なお祈りに心を打たれた神様は、人形の願いを聞き入れる事にしました。
神様は、彼にサンタの衣装と袋いっぱいのプレゼントを手渡し、今日一日サンタの役を演じるよう言いました。それを聞いて、人形は大喜び。
「神様ありがとうございます!これでもう一度子供達の笑顔が見れます」
喜ぶ人形に、神様は一つだけ条件をつけました。それは、子供達に渡すまでは、絶対にプレゼント袋の中を見てはいけないというものでした。
人形は、
「わかりました、絶対に見ません」
と答えましたが、嬉しくて嬉しくてもうすでに舞い上がっています。神様は少し心配しましたが、人形を信じて送り出しました。
***
人形は、神様の力で人間の姿に変えてもらうと、サンタの衣装を着込んでプレゼントの袋を抱え、ウキウキしながら街へと向かいました。
その途中、彼は袋の中身がとても気になり出しました。見てはいけないと言われたら、つい見てみたくなるというもの。でも神様との約束があったので、我慢して街へと向かいました。
ところが、もう少しで街へ到着するところまで来て、ある不安が人形の頭をよぎりました。
「もし袋の中のプレゼントが、ボクみたいな使い古しのオンボロおもちゃばかりだったらどうしよう・・・」
そんなものあげても子供達はきっと喜んでくれないし、ボクが捨てられたようにすぐ捨てられてしまうに違いない。そう考え出すと、いてもたってもいられなくなって、人形はついに袋の中を覗いてしまいました。
なんとそこには、彼の心配していた通りオンボロのおもちゃばかりが入っていました。少し汚れた着せ替え人形や、ネジの取れかかったロボットなど、どれもこれも使い古されて、くたびれたものばかりです。今までの喜びがまるで嘘のように、人形はすっかり落ち込んでしまいました。
「どうして神様は、こんな使い古しのおもちゃしかくれなかったんだろう。こんな事なら、あのままゴミ置き場で眠っていたほうが良かったよ・・・」
街外れの木の下で、人形はプレゼントの袋を抱えたままシクシクと泣き出してしまいました。
***
泣いている人形のところに、一人の女の子がやってきました。
「ねえサンタさん、クリスマスなのにどうして泣いているの?」
人形は答えました。
「街へプレゼントを配りに行くはずだったのに、行けなくなってしまったのです」
言い終わると、またシクシクと泣き出してしまいます。そんな人形を可愛そうに思った女の子は、
「もし良かったら、わたしの働いている孤児院に来てくれませんか?クリスマスを寂しく過ごしている子たちがたくさんいるの。サンタさんが来てくれたら、きっとみんな元気になるわ!」
最初は気が進まなかった人形も、彼女の笑顔を見ていると断りきれず、一緒に孤児院に行く事になりました。彼女はすごく喜んでくれましたが、人形は複雑な気持ちです。ボクはホンモノのサンタではないし、プレゼントも使い古しのオンボロばかり。こんなボクが行っても、喜んでもらえないんじゃないかなぁ。
孤児院に着くと、たくさんの子供達が歓迎してくれました。
「わーいサンタさんだ!」
「私たちのところにも来てくれたのね。ありがとう!」
さっきまで心配ばかりしていた人形でしたが、子供達が大喜びで歓迎してくれたのですっかり元気になりました。子供達と一緒に歌を歌ったり、お絵描きをしたりと、人形はとても楽しい時間を過ごす事ができました。彼が元気になったので、女の子も嬉しくてニコニコしています。
***
しかし、人形はある事に気がつきました。なぜか子供達は、みんなプレゼントを欲しがらないのです。普通サンタが来たら、子供達はまずプレゼントを欲しがるものなのに。どうしてだろう。
すこし考えて、人形は「もしかしたら、子供達はプレゼント袋の中身を見てしまったのではないか」と思いました。それで、中身が使い古しのオンボロおもちゃばかりだったから、みんな欲しがらないんじゃないだろうか。
やっぱりボクは、ホンモノのサンタさんみたいに子供達を喜ばせてあげられないんだ・・・。そう思うと、楽しかった気分もしょんぼりとしぼんでしまい、人形は部屋の隅に座ってため息をつきました。そんな悲しそうな人形の姿を見て、女の子は
「サンタさんどうしたの?何か悲しい事でもあったの?」
と話しかけました。周りに子供達も集まってきて、みんな人形の事を心配しています。人形は口を開きました。
「実は、ボクはホンモノのサンタじゃないんだ。神様の力で、今日一日だけサンタの役を演じさせてもらっているだけなんだ。だから、ホンモノのサンタと思って喜んでもらっているのが、何だか申し訳なくて・・・」
すると女の子は、人形の手をとってこう言いました。
「ホンモノかそうじゃないかなんて、そんな事関係ないわ。あなたはみんなをこんなに幸せにしてくれているじゃない。クリスマスに幸せを運んできてくれたあなたは、誰が何と言おうとサンタさんよ!」
周りの子供達も、笑顔で頷いています。
「ありがとうみんな。でも、やっぱりダメなんだ・・・」
部屋の隅に置いてあるプレゼント袋を見つめながら、人形は悲しそうに言いました。
「サンタといえばプレゼントを配るのが決まりだけど、ボクの持っているプレゼントは使い古しのオンボロおもちゃばかり。これじゃあきっと誰も欲しがらないよ。ここの子供達も、ボクのプレゼントが使い古しだから、誰もプレゼントを欲しいって言ってくれなかったもの・・・」
人形の手を握っていた女の子は、子供達のほうを振り返って、サンタさんからプレゼントもらいましょうと呼びかけました。
しかし、さっきまで笑顔だった子供達の顔が、みるみると暗い表情に変わっていき、みんな下を向いて黙ってしまいました。その様子を見て、女の子は更に呼びかけました。
「みんな、どうしたの?プレゼント、欲しくないの?」
女の子の表情は不安に満ちています。それを見て、人形もいっそう落ち込んでしまいました。
***
「やっぱりみんな、使い古しのおもちゃなんて欲しくないんだよ・・・」
うつむいて涙を流す人形。
それを見かねて、一人の男の子が口を開きました。
「ちがうよサンタさん。ボク達、プレゼントがいらないんじゃないんだ」
目に涙を浮かべながら、男の子は続けました。
「ほんとはすごく欲しいんだけど、プレゼントもらっちゃうとサンタさん帰っちゃうと思ったから、みんなでプレゼントもらわないように我慢しようって決めたんだ。悲しませちゃってごめんなさい・・・」
それを聞いて、他の子供達も
「ごめんなさい、サンタさん!」
「ずっといて欲しかったの。ごめんなさい」
と口々に謝りながら、人形の元に駆け寄ってきました。みんな、ボクともっと遊びたくてプレゼント我慢してくれてたんだ。人形はすごく心が温かくなって、涙でぬれた顔がいつの間にか笑顔に変わっていました。人形の笑顔を見て、女の子もホッと一安心です。
「みんなのおかげで、街に行く勇気が沸いてきたよ、ありがとう。街の子供達みんなにプレゼントを配り終えたら、もう一度ここに戻ってくるよ。そうしたら思う存分遊ぼう!」
そう約束すると、子供達はみんな声を上げて喜んでくれました。人形はプレゼント袋を担ぎ、幸せな気持ちで孤児院を出て行こうとしましたが、彼にはまだひとつ心配事がありました。
「でも、ほんとにこんなオンボロおもちゃでも喜んでくれるかなぁ・・・」
心配する人形の背中を、女の子や子供達が押します。
「大丈夫!みんなサンタさんが来てくれるだけで幸せになれるのよ」
「そうだよ、自信を持って!サンタさん」
「がんばってね!みんなで応援してるよ」
みんなに励まされて元気をもらった人形は、サンタとして街にプレゼントを配りに行く事を決心しました。
***
街に行き子供達にプレゼントを配ると、孤児院のみんなが言うとおり、男の子も女の子もキラキラの笑顔で喜んでくれました。
「こんな使い古しのおもちゃでごめんね」
「ううん、サンタさんがくれたものですもの。大切にするわ!ありがとう」
「ちょっとネジが取れかかってるけど、大丈夫?」
「ぼく修理するの得意だから、全然平気だよ!ありがとう!」
古いおもちゃでもすごく嬉しそうに喜んでくれる子供達を見て、人形の心に希望が沸いてきました。ボロボロになって捨てられた自分でも、頑張ればまだまだ子供達を喜ばせてあげられるかもしれない。
そして、ゴミ捨て場で落ち込んでいた自分にチャンスをくれた神様に、彼は心から感謝しました。神様、本当にありがとう。
街中の子供達にプレゼントを配り終えた後、約束どおり人形は、再びみんなの待つ孤児院に戻りました。
***
クリスマスが過ぎ、しばらく経ちました。孤児院の子供達は、日々の暮らしは相変らず貧しいけれど、みんな以前よりも目がキラキラと輝いています。手には使い古したオンボロおもちゃ。
そんな彼らのまぶしい笑顔を、古ぼけた人形が窓際から嬉しそうに眺めています。手足のぐらつきも直してもらい、手作りのサンタの衣装を着せてもらっています。季節外れの衣装ですが、みんなそれが一番似合うと言って、着せたままにしてあるみたいです。
もう一緒に歌ったりお絵描きしたりは出来なくなったけど、あのクリスマスの出来事は、彼らにとって忘れられない素敵な思い出になりました。
そしてあの日以来、この街では、使い古されたおもちゃが捨てられる事は、ほとんど無くなったのだそうです。
-おしまい-