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Rebellion of Luraunt  作者: RY
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第3話


翌日、カルメはメリザ婦人に連れられ厨房に入り、僕とヴァズは部屋の掃除やシーツの洗濯、倉庫の整理等々。雑務兼仲居業務に従事することになった。

「ひー、普段はこの仕事を夫婦二人で切り盛りしてるのかよ」

ヴァズが額に汗を浮かべてぼやく。

「お母さんとお父さんだけじゃないよ!私達もお手伝いしてるもの」

すると自身の身長程もある大袋を危なげに抱えるマナが応えた。すぐ後ろには同様に洗濯籠をカナが運んでいる。マナとカナは双子だが、マナがおてんばであるならば、カナは引っ込み思案の恥ずかしがり屋である。

「ほー、ちびっ子の癖に根性あんな」

ヴァズがマナの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「ちびっ子じゃないわ!子供扱いしないで!」

するとマナはヴァズの手を振り解き言った。

「そうだよ、ヴァズ。一人前に仕事をこなしてるんだ。立派なもんだよ」

妙な親近感を抱いた僕は、そう言いながらつい頭を同じように撫でてしまった。身長が僕の半分程なので、頭の位置的についつい撫でてしまう。撫でやすい位置に頭があるのだ。

「えへへ…」

しかしマナは気持ち良さそうに目を細め、猫の様に咽喉を鳴らすだけだった。するとカナも僕に頭を差し出してくる。健気な可愛さにクラッときながらもカナの頭も撫でてやる。

「おいおい、反応が違くないか?」

「ロランはいいのー!ヴァズはダメー!」

「な、なに~」

「ヴァズに撫でられたら馬鹿になるって言われたもの!」

「だ、誰がそんな…」

「カルメお姉ちゃん!」

「あの女…!」

「がさつな男~ヴァズー♪ヴァズー♪」

などと意味不明な歌を口ずさみながらマナとカナの二人は仕事に戻っていった。唸るヴァズを宥めて、僕達も早々に仕事をこなしていく。部屋は次々にチェックアウトされ、チェックインまでの僅かな時間で清掃し整えなければならない。目の回る忙しさだったが、夕方になるとそれも落ち着いて来た。


休憩を取りに一階の食堂に行くと、コーヒーを用意してメリザ婦人とカルメが待っていた。

「お疲れ様、ロラン」

カルメが労いの言葉を僕に掛ける。

「別に疲れてなんていないよ」

素っ気無く答えるも、メリザ婦人がにこやかに話しを続けた。

「さぁさぁ、今日はお客様も少ないし夜はゆっくり出来るわよ」

メリザ婦人の言葉にほっとする。

「夕食は豪華にするわ。後でマナとカナを連れて買い物に行ってくれるかしら?」

「買い物…大丈夫でしょうか。僕達はこの街の人間じゃない」

僕が不安を口にするとメリザ婦人は一度頷いてから口を開いた。

「大丈夫よ。いくら審問官が目を光らせてるとは言っても、街全体の人間の顔を把握してる訳じゃないわ。街に一度入ってしまえば、よほど目に付く行動をしなければ怪しまれるなんて事はないわ」

「なるほど」

事は僕が思っている程、喫緊の事態ではないのかも知れない。

「それに…さっきお客様もお迎えに広場まで行ったのだけれど、今日は珍しく審問官があまり街に出ていないみたいなのよ」

その言葉が決定打となり、僕達のお使いが決まった。

「俺はパス。お使い兼お守りなんて出来るかよ」

ヴァズが言う。

「あら、せっかくだからハーティの街並みでも見学してくれば良いのに」

残念そうにメリザ婦人が言う。

「それなら私と行きましょう、ロラン。私、街を見て回りたいわ」

「いこーいこー」

カルメに続きマナが僕の裾を引っ張りながら言う。カナもマナの後ろで僕を見ている。

「それじゃあ案内してくれるか?二人とも」

「うん!」

マナが元気よく返事を返し、カナが後ろで頷く。

「それじゃあ、行きましょう」

そう言ってカルメが立ち上がると、メリザ婦人は買出しのメモとお金を渡してくれた。


ハーティの城下町は小さい頃に父に連れられて一度来たきりだ。その後、グリタリア家の人間が島に侵略し、あっという間に征服された。父が鉱山に連れて行かれ、僕達は路頭に迷った。僕は角を切られ、姉さんは免れた。泣きじゃくる僕は、姉さんに手を引かれ当て所なく逃げ続けた。

やがて路地裏で寝起きし、鉄屑を拾い、衣服食料を盗む様になった。そんな折に、僕達はヴァズと出会ったのだ。それからは三人でつるむようになり、当時リューゲンの戦線メンバーであったグレン・ジャーマイルに保護される事になる。


あれから十年以上が経つ。

街並みは当時のあやふやな記憶と相まって、とても新鮮に映った。敷き詰められた石畳の道、両脇には煉瓦造りの建物が並ぶ。時刻は夕暮れ、街並みに炎の魔法で照らされた街灯がぽつぽつと灯り始める。

よく喋るマナに、シャイで無口なカナ。そんな二人を前に、僕は荷物を抱えながら姉さんと二人歩く。

「ねぇねぇロラン!」

マナが僕の袖を引っ張りながら言う。

「うん?なんだい、マナ」

「あのねー、カナがロランお兄ちゃんカッコイイって言ってたよ!」

「それは光栄だな。カナちゃんもすっごく可愛いよ」

カナを方も見て微笑む。

「なっ…」

カナは顔を真っ赤にして、俯いてしまった。

「ねぇねぇ!私は?」

マナが僕の顔を覗き込んで尋ねてくる。

「勿論、二人とも可愛いよ。お母さんに似てよかったね」

「えへへ…」

カナの様に真っ赤にはならなくとも、頬を染めて恥らう姿は幼いといえど十分可愛かった。

「ロラン」

後ろから声を掛けられ、振り向くと姉さんが立ち止まっていた。

「どうしたのさ、姉さん」

不審に思い、尋ねる。

「私はどう?」

「はい?」

「私は可愛い?」

「え…」

「どうなの、ロラン」

「僕に聞いても意味ないよ、姉さん」

「そんな事はないわ」

僕は姉さんの機嫌がどんどん悪くなりつつある事を察した。出掛ける前と、今とでは声音も表情も段違いだ。翡翠色の両目が釣り上がりつつある。

「姉さんはすごく美人さんだよ…身内贔屓かも知れないけど」

「そう?それならいいの、ふふ」

姉さんは驚くほどに機嫌を直し、僕とマナの間に割って入る。

「さあ、行きましょう?」

実際姉さんはその漆黒の長髪に、翡翠色の瞳をして容姿端麗なかなりの美人である。リューゲンを出てからは帽子で隠しているが、その純白の一本角も綺麗な曲線を描き、とても魅力的なのである。ギノアの男ならば到底ほっとかない女性だ。但し性格に難があると僕は評価してる。

なまじ美人なために、自分以外の女性を見る目が少々キツイ。

僕が過去家に連れてきた女の子の友達は、皆例外無く姉さんに泣かされている。

それからというもの、僕は女の子の友達は家に招かないことにした。

それ以前に、姉さんを恐れて女の子は僕に近づかない様になってしまったが。

そんな過去を思い出しながらも、そのまま僕達四人はマナとカナに案内されるままに街並みを歩き、買い物を済ませた。

「今夜はきっとオム貝の塩バター焼きよ!」

嬉しそうにマナが言う。

「そうなのかい?」

「うん、絶対そうよ!」

僕が尋ねると、マナは僕が抱える紙袋の中身を覗きながら頷く。

「カナの好きなりんご入りのサラダもきっと献立に入るわね!」

マナの言葉にカナもこくりと頷く。

「お母さんの作るオム貝の塩バター焼きとりんごサラダはすっごく美味しいのよ!」

「それは楽しみだ」

「私も手伝わなくっちゃね」

カルメも子供達に微笑みながら言う。

敷き詰められた石畳の道を僕達は歩く。

沈む夕暮れを背に、自分の影を踏みつけながら進む。街灯が薄暗い道を照らし、四人で歩くその道。

方や戦場で生死を掛ける時代、今この時がとても優しい時間だと思った。貴重な一時。

姉さんもそんな風に思っていたのだろうか。

「ねえ、ロラン。家族って素敵ね」

「うん」

そんな姉さんの言葉に、僕は素直に頷くことが出来た。いくら煩わしくても姉さんは僕の事を何時だって心配してくれる。それは家族としての愛。僕はそれを大切にしなければならない、邪険にしてはならない。何時死んでも可笑しくないこんな時だからこそ、たった一人残った僕の唯一の家族。

「私達、ずっと一緒よ」

「うん」

そんな時だった。

突然、街に警鐘が鳴り響いた。


――カンカンカンカン


鳴り響く鐘の音は、街全体に広がっていく。直後、街の前方で轟音が響き、砂塵が舞った。



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