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Rebellion of Luraunt  作者: RY
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第1話

グリタリア家の私兵団から強奪した荷を選別していると、声が掛かった。

肌黒く屈強な体型をした男。常にバンダナを額に巻いている、元漁師のグレン・ジャーマイル。

「なんだよ?グレンさん」

ヴァズが尋ねる。ヴァズは基本的に誰に対しても敬語を使おうとしない。ヴァズとはそこそこ長い付き合いだけれど、彼が敬意を露に畏まっている姿を見たことはない。

「うむ、実はお前達に頼みたい事がある」

グレンが話し始める。彼はこの港町リューゲンの市長にしてリューゲンにおけるレジスタンスのトップでもある。

「頼みたいこと?」

「ああ、実はな…」


要約すれば、グレンの話はお使いを頼みたいという事だった。

レジスタンス活動を続けるには、武器や防具・食料や衣服といった諸装備は必要不可欠だ。

白銀の甲冑に、作業服。鋼鉄の剣に青銅の剣。やっていける筈もない。

魔虫の鱗粉を混ぜた、一時的に眩暈や吐き気を催す毒煙り玉も、在庫はそうない。

先の兵站強襲戦以降、いよいよグリタリア家は本国から私兵の増援を要請し、本格的に解放戦線を潰しにかかる準備を整えているという。

水面下での戦いが終わり、島が本格的な闘争状態に陥るのなら、それ相応の準備が此方にも必要となる。

しかし山々を越えた先、ハーティ城跡地に広がる城下町のレジスタンスから届く筈の武器防具の物資が遅れているという。

その理由を確認し、武器防具を持ち帰ることが与えられた任務だ。


「必要な路銀や物は用意させる。道中目立つ言動はなるべく避けろ。同じ理由から少人数で行ってもらう」

「俺とロランで行ってこい、という事か」

「ああ、お前の無鉄砲とロランの臆病さはいい組み合わせになる」

グレンの言葉に僕は不満を露にする。

「で、何時までに発てばいいんだ?」

何か言うとするも、ヴァズが制するように会話を続ける。

「明日の朝にハーティに向けた荷馬車隊が北門から出発する。その荷物に紛れて町を出て、次の検問を通る前に山に身を隠すのだ。山間から隙を探り、街に潜入しろ」

「分かった」


その後、僕とヴァズは荷物を纏めると、朝を待った。当然、この任務に関して姉さんの猛抗議があったのは言うまでも無い。


明朝、懸念はあった。リューゲンの北門前に姉さんの姿があった。

「当然、私も着いていくわ」

姉さんが素直に引き下がるとは思っていなかった。僕にしてみれば想定の範囲内だ。しかしヴァズは気に入らなかったらしい。昔からだが、この二人は折り合いが悪いのだ。

「おいおい、カルメ。これは極秘の任務なんだ」

「だから?」

姉さんの言葉は発音からして棘がある。姉さんはヴァズに対して何時も攻撃的なのだ。

「分かるだろ?人数が増えては目立つ」

「二人も三人も変わらないわ」

ヴァズは溜息を付くと口を開く。

「お前には怪我人看護という大事な仕事があるだろう?」

「ロランの方が大事よ」

「ロランは俺が責任を持って守る」

「貴方じゃ心配だわ、その役目は私が担う」

「グレンの旦那に正式に任命されてないだろう」

「怪我人看護の仕事は頼まれているだけで、正式には任命されてないわ。そもそも私が良心で手伝ってあげているだけ。ロランが戦線を抜ければ、すぐにやめるわあんな仕事」

「あんな仕事だと…?」

「ええ、決して気持ちのいい仕事ではないでしょ?」

「ギノア人として島を取り戻したくはないのか!?」

「殺し合うことが、戦いの全てではないわ!死に急ぐ事は愚かなことよ!」

「ロラン…何とか言ってやってくれ!」

ヴァズが怒りに歪んだ顔で僕に言う。僕は無表情のまま二人を見つめてから、口を開いた。

「三つ、言いたい事がある。まず一つ、僕は誰に護られなくても一人で任務をこなしてみせる。誰のお荷物にもなるつもりはない」

「…ああ。そうだな、悪かったよ」

「二つ、僕は戦線を抜けるつもりは無い」

「ヴァズの真似をする必要はないのよ、ロラン。少しは姉さんの意見に耳を傾けて」

「三つ、姉さんは言い出したら聴かない」

最終的にヴァズが折れ、僕とヴァズとカルメは、カシューナッツの匂いが漂う荷馬車の中に乗り込んだ。


ガタガタと揺れる荷馬車の中で、僕は目覚めた。どうやら眠ってしまったらしい。ギスギスとした空気が流れ、沈黙が支配していたから無理もない。板の隙間から夕暮れの陽射しが射し込む。流れる風が肌に心地好い。

ふとヴァズと目が合った。どうもパッとしない表情で、苦虫を噛み潰した様な眼差しで僕を見ている。訝しむのも束の間、僕は現状を把握し勢い良く頭を上げた。

ヴァズが苦い表情をする訳だ。僕は知らずの内に、姉さんに膝枕されていたらしい。


「おはよう、ロラン。よく眠れた?」

と微笑む姉さんを睨み付ける。

「なあに、その反抗的な目付きは。実の姉に向ける眼差しでは無いわね。姉さん、感心しないわ」

そう惚ける姉さんに向かって僕は口を開く。

「姉さん、僕はもう小さい子供じゃない。昔とは違う。15歳の大人だ。戦場にも出た。こういうコトはやめてくれ!」

僕の言にヴァズも賛同する。

「その通りだ。あまり弟を甘やかすな、カルメ。素質は良いんだ。立派な兵士に成り損ねる」

すると姉さんは穏やかな表情を一変させ、目を吊り上げた。

「弟は兵士になんてならないわ!貴方と一緒にしないで!」

ヴァズは辟易した様に肩を竦める。

「また始まったか。これだから嫌だったんだ。女はヒステリーが多くて困る…」

「なんですって!」

「ちょっと二人とも…」

言い合いが始まり掛けた時、荷馬を操る男が声を上げた。


「オイ!!!積み荷が喋ってどうする!バレちまうだろ!黙ってろ」


三人はお互いに顔を見合わせると、視線を落とした。

検問の前に着くと荷馬車は木陰に止まった。

「検問から先は、グリタリア家に雇われた者が荷馬車を引いて行く。此処までだ。鹿ノ蹄亭って宿の主人にコレを渡せば話が通る」

そう言って男にメモを渡される。

場所は山深い木々の生い茂る獣道。日は遠に沈み、暗闇と静寂が辺りを支配している。

「さて、進むか…」

荷物の引渡しも終わり、検問所は静まり返っている。

ヴァズの一声に僕等は静かに頷いた。此処から徒歩で三日は掛かる。ヴァズと二人でならここまで気が重くなることもなかっただろう。振り向き、後ろを歩く姉さんを見る。

姉さんは僕の顔を見ると微笑みを浮かべてきた。僕は笑顔を返さずに、再び前を向いて足を上げた。


一日、二日と度々姉さんに心配されながら、黙々と道無き道に足を踏み入れていく。

山々の連なる木々の合間を唯ひたすらに歩を進め、上下する月日を数えて二日目の夜。

「今日は此処らで野宿しよう」

先頭を歩くヴァズが言った。正直、足が棒のようだったので、是も非も無くその提案を受け入れた。後ろでも姉さんがどさりと座り込む。僕ですらキツイのだ。体力的にも姉さんは更に厳しいだろう。

「ほら、姉さん」

僕は座り込んだ姉さんに、水筒を差し出す。

「ありがとう、ロラン」

姉さんは嬉しそうに水筒を受け取ると、ごくごくと咽喉を鳴らした。暫くして太陽が沈み、暗くなり始めた。焚き火を起し、囲む。寒い訳では無いが、火の明かりは心に安心感を抱かせてくれる。当たり障りの無い雑談を交わし、ヴァズは早々に寝入ってしまった。

ヴァズが寝ると話すことも特に無い。見張り番の僕は、薪を汲みながら星空を眺めていた。

「綺麗な星空ね」

姉さんが言う。姉さんは僕が見張り番の時、必ず起きて僕に話しかけてくるのだ。

「姉さん、寝ないと明日辛いよ」

「大丈夫よ、私朝は強いもの。それに比べてロランは弱いわよね」

その後小一時間、嘗て姉さんが僕を毎朝起していた頃の話を延々と聞かされた。ちなみにこの話は姉さんのお気に入りの話の一つで、もう三十回は聞いている。


漸く、姉さんがうとうとし始めた頃、幾つもの荒い息遣いが聞こえてきた。

「…ヴァズ」

僕は周囲に気を配ると同時にヴァズを起す。ヴァズは飛び起きると、すぐに剣を引き寄せた。

「サーベルウルフか?」

「多分…群れが近くまで来てる」

姉さんを起し、三人が警戒態勢に入ると、あちこちから遠吠えが鳴り響いた。

「会話してる・・・?」

カルメが言う。

「来るぞ!」

ヴァズの声と同時に、木々の暗がりから魔物が飛び出してきた。

サーベルウルフ、狼としての牙が無い代わりに、その伸縮自在の舌がサーベルの如き切れ味を誇る、山間に潜む魔物だ。群れで行動し、統率力のとれた連携を得意とする。


――ガルルルルルル


唸るサーベルウルフ数体を前に、僕は青銅の剣を構える。噛み付かれる事は無い。その舌で切り刻むのがコイツ等の常套手段だ。サーベルウルフが涎を垂らし、口を大きく開いた。

空を斬る音、その刹那青銅の剣が火花を上げた。サーベルウルフの硬化した舌の切先を弾いたのだ。

冷や汗が流れる。

「暗闇の中、漆黒に染めた血で闇夜に身を潜めようとも……」

カルメが補助魔法を唱えている。恐らく視界強化の魔法だ。この暗がりで、黒い毛皮を纏うサーベルウルフは捕らえ辛い。

「汝、その姿を現せ」

温かい魔力が流れ込んでくる。すると、まるで昼間の様に視界が明るくなった。

暗がりに紛れていたサーベルウルフの姿がはっきりと見える。更に、弾くのが精一杯だった伸縮する舌の刃が捉えられる。

「身に滾る力、その怒りをして道を開け…」

次々に補助魔法が僕に掛けられる。腕力・脚力倍加、重力軽減、視界強化、自然治癒力向上からまるで無関係の幸運の加護、呪術解除、魔力壁構築まで。

「貴方は私が守るわ!」

姉さんは更に何かの呪文を唱えようとしている。

ほぼ無双状態となった僕は、次々にサーベルウルフを始末していき早々に撃退に成功した。

「凄いわ!ロラン、流石は私の自慢の弟ね」

傷を負ってすらない僕に治癒魔法を掛けながら姉さんは言う。空は仄かに明るみ始める中、僕はヴァズが薬草を腕に塗る姿を見つけた。

「姉さん、僕は平気だからヴァズを見てあげてよ」

「……そうね」


三日目の昼、ついに獣道を抜けた。ハーティの城下町を一望出来る場所に出た。

此処まで来れば街までは後一息だ。



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