黒猫+探偵+僕=事件 9
右手で拳を作り、ヘルメットを殴った。
力ないパンチだったけれど後ろへとバランスを崩して転ばせるには十分だった。
馬乗りになって見下ろす。
ヘルメット、外すべきかな。
「なんとなくあなたが犯人な気がするんですが、理由あげていいですか?」
さっき自白っぽいこと言ってたしな。
「まずマンション。あれってセキュリティがありますからまず見知らぬ誰かがいきなり侵入なんてできません。
「それに四階ですからね。泥棒するとしたら、僕なら一階に忍び込みますよ。
「しかし、彼女は――ヤマトの飼い主さんは殺された。どうやら一人暮らしだったようです。「セキュリティマンションに住んでいるということはある程度の警戒があるはず。ましてや一人暮らしですから。
「なら警戒心のない人の犯行ではないだろうか?そこで身内ですよ。
「…まあ、こうなるまで兄弟がいるとは考えられませんでしたけど。
「現実はうまくいかないですね。刑事さんはすごいと感心しますよ。
「話が脱線しましたね――だから、身内を名乗り僕たちからヤマトを取り上げようとした。
「僕の顔、インターホンで見たんでしょう?だから容易に追いかけられた。
「あの後に殺人事件が露呈しましたからね。ヤマト奪回もそうですが口封じのつもりもあるんでしょう?
「というか、今この状況、僕たちを逃したらどうなるか分かったもんじゃないですよね。
「と、ここまでが僕の考え……妄想ですかね。どうなんですか?実際のところ。
「あなたは犯人なんですか?」
矢継ぎ早に推理してみた。
本当は事件が起こった時に犯人候補を集めて行ったほうが探偵らしくていいんだけど、バイトですし。
「犯人だったところでどうする?」
「さあ。あなたから逃げましょうか」
バイクも壊れてるしさっきよりかは楽勝だろう。
「そうかよ!こっちはバレされたら困るんだよ!」
「かはっ」
「にく!」
脇腹に拳を突っ込まれた。
あ、これ犯人確定か?
「ガキ二人の処分ぐらいどうってことねえよ…ペラペラペラペラ話しやがっ、ぐっ!」負けじと気管を親指で圧す。
左腕が熱を帯びてきたのであまり酷使はしたくない。
「な゛に゛を……!」
「殺されかけた分、お返しをしなくてはと思いまして」
指を埋めていく。相手の心拍数が伝わるほどになってきた。
払い除けようとしてきたので膝と地面の間に両手のひらを固定した。
少しずつ少しずつ体重をかけていく。
ヘルメットの下の表情は多分見ても気分の良いものではないだろうからやっぱり外さないままにする。
だいぶいったかな、という時にシアンちゃんが横から抱きついてきた。
親指が気管から離れる。
「何をやっているんだにく!そいつを殺す気なのか!?」シアンちゃんが叫んだ。
彼女の青い瞳はこの上なく冷たく、赤い瞳は燃え盛るように光っていた。
気まずくて目をそらす。
なんだかな。なんだか僕の醜いところを見透かされているようだ。
「お前は今、何をしようとしていたんだ!」
「……絞めようと、してた」
「なんで!」
「だって……」
だって。
「この人、僕たちを殺そうとしたから…」
言って後悔した。
まるで彼女もこんな事態を起こしたと言わんばかりじゃないか。
むしろ僕が巻き込んだほうだろ。責任転嫁も甚だしい。
「ダメだよ。それだけの理由で、人を殺しちゃダメだ」
優しく抱き締めてきた。
抱き締めてくる前、シアンちゃんはとても泣きそうな顔をしていた。
初めてみるかもしれない表情。
「にく、私は、大丈夫だから」
「……そっか」
シアンちゃんが無事なら。
もう僕はこいつにかまう道理なんてない。
さっき彼女のことを散々言いまくっていたけどもういいや。疲れた。
彼女が気に病んでたらもうちょいするつもりだったんだけど、そうでもないし。
咳き込む男から立ち上がって右手で携帯を取り出す。
「アスマルトさんの携帯番号分かる?」
「うん」
聞いてなんだけどどうして知っているんだ。
友人の兄というカテゴリーでも普通知らない人のほうが多くないか。
「教えてくれないかな。…ここから先は警察に丸投げするから」
あと病院行かないと。