ラブレターはほどほどに 5
ざわりと空気が動いた気がした。
「そ、それはおかしいですよ!わたしなんかとくっついたら迷惑だと思います!」
「そうだな、それはおかしい。カルネなんかとくっ付けられる身にもなってやれよ」
「まったくだ、それはおかしい。コーレアと添い遂げるのはあたしだ!」
ちょっと待て。
一部どさくさに紛れて大変なことを口走ったやつがいたぞ。
あいにくコーレアさんは気づいていないみたいだけど。このまま何も言わないで良いかなぁ。
とりあえず友人の頭を叩いてから僕は頬をかく。
「……なんでムトンさんは不機嫌なわけ?」
「いつもよ」
「僕がコーレアさんと恋人ごっこすることに不満があるんじゃ」
「違うわよ。というか言い出しっぺは私なんだから不満とかないわ」
「そんな睨みをきかせながら言われても…」
これなんていうんだっけ。ガンつけじゃなくて。
あ、『メンチ切ってる』か。なるほどしっくりくる。
しっくりきたところで現実は何も変わらないわけですけど。
「ま、まあまあ」
コーレアさんが困りきった顔で止めてきた。
その横で友人は手をあげた。
「副会長、質問が」
「はい、なんでしょう」
「なんで俺じゃなくカルネなんだ? 別に人選に文句があるわけじゃなく、ただ純粋な疑問で」
「あー。ほら、あなたガタイがいいじゃない」
「そうだね」
今はワイシャツに隠されてるけど、脱ぐとすごい。筋骨隆々。
理由を聞いたことがあるのだが、小さい頃からジュウドーをやっているかららしい。
幼少期の頃は草野球をたまにやるぐらいだった僕とはまるで大違いである。
「仮に犯人が『おのれオレのコーレアとイチャラブしやがって』と壁からハンカチ噛み締めてるとするじゃない」
ハンカチネタは古いんじゃないかな。
「ま、こんだけラブレター出す相手なら何らかのアクションを起こすはずよ。――あまり良い方向じゃないアクションをね」
みんなでうなずく。
ここまでラブレターを書く根気、またそこまで想う気持ち。
それを純情だと言う人もいるだろう。
しかし、本質は狂気に片足を突っ込んでいるようなものだ。
いつどのようなことでラブレターを出した相手の理性が吹っ飛ぶかも分からない。
そのことを予感してコーレアさんは相談しにきたんだろうし。怖かったというのもあるだろうけど。
愛は、狂気の一種だ。
「確かにね。で、なんで僕なの?」
「カルネ君なら犯人も油断して出てきやすいかなって」
「……なんで?」
「だって、言っちゃ悪いけどあなた簡単にボコボコにできそうだもの」
「うわぁ……わぁ……」
本日何回目かになるだろう頭をかかえる動作に入る。
しかも反論できないというのが、また。