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黒猫+僕+探偵=事件 4

「どうするんだ、にく。一度事務所に戻るのか」

「いいや――現在進行形で巻き込まれているかもしれない。だったら早く助けにいかなくちゃ」

「分かった。場所は?」

「近い。走れば五分ぐらい」


今いる地区と、依頼人のマンションの最短ルートを考える。

下手に近道はしないほうがいいか。急がば回れって言うしな。

シアンちゃんに付いてくるように言って走り出す。


「あ、ヤマト」


シアンちゃんの腕からすり抜けてヤマトが僕らの先頭を走り出す。

まるで飼い主の危機を察して、僕たちを急き立てるみたいに。


----


高級マンションの四階。


依頼人は女性。

だからなのか、警備がそれなりに頑丈そうだ。


エレベーターを使い、再びヤマトを抱っこしたシアンちゃんと共に目的の部屋に行く。

名前は…よし、合ってるな。

深呼吸してチャイムを押す。

中から見ているという合図のランプがついたのでインターホンに向かって喋る。


「えっと、こんにちは」


顔の見えない相手に話すのは苦手だ。


「電話したのですが、留守番電話だったので直接来てしまいました」


違和感。


「…依頼されたヤマトくんを見つけたので、……」


言葉を止めた。

だって変じゃないか。

ここまで相手は――一言も発していない。

普通、何か言うはずだろう?

どれだけ非常識な人でも、「あーはいはい」ぐらいは言いそうなものなのに。

喋れないとかは聞いていない。

いや、所長によれば明るい女性だと聞いたのだが。


その『明るい女性』がいつまでも『黙りこくる』ものなのか?

先ほどの電話の事もあって警戒が高まる。


「あの、あなた……何をしているんですか?」

『………』


ザァァとノイズのみがインターホンから聞こえるだけ。


「………」

「………」


ニャア、と焦れるようにヤマトが鳴いた。


瞬間、インターホンの向こう側が騒がしくなり、玄関へ全力で走ってくるような物音がした。

本能がこれはヤバイと警告した。


「行くよ!」

「お、おう!?」


エレベーターなんて悠長に使ってられない。

非常階段を使いシアンちゃんを先に行かせて掛け降りた。


上から見ている可能性もあるのでしばらく隠れた後に、僕たちはマンションの敷地から抜け出した。


「何がなんだか……。にく、どうしたんだ?」


近くの公園のベンチ。

息を整えながらシアンちゃんが聞いてくる。


「依頼人じゃない誰かが、いたっぽいんだ」


確証はない。

確定できない。

もしかしたら依頼人さんがあんな人なのかもしれないとか、色々あるけど。

だけど、直感的に思ったのだ。


違う。なにか、違う。


「ヤマトの声聴いたとたんに反応したのも気にかかるけどね…」


あれはただ単に条件反射とか、きっかけとか、そんなものかも。

まさか誰かさんがヤマトを狙っているとか、そんな展開ないだろう。


しかし、顔をばっちり見られたわけだから下手に動かないほうがいいかもな。

どうして僕ばっかりハンデが溜まっていくのか。


「……む」

「シアンちゃん?」


唸るように声を洩らし、公園の出入口を見るシアンちゃん。

つられて見ると、


「………わお」


どう見てもガラの悪いお兄さん達がこっちに向かって来ていた。

…もうちょい、遠くまでいくべきだったな。


僕たちから二メートルほどの距離を置いてお兄さん達は止まった。


「…ベンチに座りたいんですか?ならどうぞ」

「ベンチになんか用はない。その猫を寄越せ」


まさかのヤマト狙いかよ。


「依頼人以外には渡せない決まりになっていまして。すみません」


真っ赤な嘘だ。真っ赤な誓いではない。嘘。

決まりとかさっぱり知らないし、分からない。

せいぜい他人の敷地に入らないとかそういうのぐらいだ。


「んだよガキの癖に偉ぶって。何様のつもりだ?あ?」

「どうやら痛い思いしないと分からないみたいだな?」


あれれーなんか選択肢ミスったよー。

しょうがない、シアンちゃんとヤマトだけでも逃がすか。


「にく、ヤマトを」

「え?」


ぽんっとヤマトを渡された。

ちょっと引っ掻かれた。どこまで僕が嫌いなんだよお前。


シアンちゃんはショルダーバッグから鞘付きのフルーツナイフを取り出す。

そして、鞘をはらって抜き身の刃が現れる。

そのままぴたりとお兄さん達にナイフを向けた。


「な…」


お兄さん達がどよめく。

当たり前だ、銃刀法違反してるんだから。じゃなくて。


「そっちが暴力で来るなら、私も武力で行く」

「シアンちゃん………」



彼女は――いつもこうなのだ。

逃げない。

退かない。

強くあり続けようとする。


「シアンちゃん、危ない。逃げよう」

「追ってくるぞ」

「追うなら逃げ続けよう」

「……ヘタレ」


うっ。

まあそうなんだけどさ。


お兄さん達が、ようやく小学生にナイフを向けられたショックから立ち直ってしまったらしい。

こちらがわに凶器があるので下手に行動できないみたいだ。


「……けっ」


お兄さん達のリーダーっぽい人が唾をはいた。汚ない。


「猫を寄越せばそれでいいんだよ、グダグダ言いやがって」

「何故、猫を狙うんですか。関係ありませんよね、あなた達に」

「頼まれてんだよ。無駄話はいい、怪我なんかしたくないならさっさとしろ」

「嫌です。なら、その人が来ればいいじゃないですか」

「はあ?ふざけんじゃねーぞ、そっちに刃物があるからって調子のんな」


調子のれません。

ヤマトの爪が地味に痛い。


「ったく、なんたてめーは。気持ち悪い」


リーダーさんはシアンちゃんを見ながら、吐き捨てた。

彼女は動揺したように切っ先を震わす。


「なんだよその目、色違いで。呪われてんのか?」


余裕が出てきたのか、後ろのお兄さん達もせせら笑う。


「親も大変だなぁ、こんな変な子供生んで。ははっ、よく生きていこうと思え――」

「謝れよ」


僕にしては、ずいぶんと低い声だ。


「謝れ。訂正しろ。彼女は気持ち悪くない」

「……は?ふざけてんのか?」

「1ミクロンもふざけていない。いいから謝れよ」

「にく…」


お兄さん達は顔を真っ赤に指をならした。

ああ、マズイかな。

反省も後悔はしていない。

シアンちゃんをなんとか逃せればいいや。自分のことなんてどうでもいい。


「謝るのはそっちだろ?散々コケにしやがっ…へぶっ」


突然リーダーさんが前のめりに倒れ込んだ。

ざわ…ざわ…とお兄さん達が驚く。


「そんな年になってまだ女の子いじめか――将来が不安だ」

「てめっ、よくも!」


リーダーさんを後ろから蹴り倒した男にお兄さんの一人が掴みかかる。

綺麗な一本背負いで放り投げた。


「きりもみ回転式土下座ぐらいはしてもらわないとな」


相変わらずのだるそうな顔。

お兄さん達の攻撃を避け、蹴りを叩き込みながら僕らの前に来る。

彼の後ろは死屍累々。


「……なんでここにいるんだよ」

「たまたまだ」


探偵事務所の一員。

僕のちょっと苦手な奴。

――シュヴァインだった。


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