青と赤の救出作戦!? 11
さあ行こう、で行けたら良かったのだが。
どうやら今日はとことん運に見放されているようだ。
「……ついてない…」
私は頭をかかえた。
出ようとした矢先に、また新たなるボスが登場したからだ。
左手には拳銃。はじめて本物を見た。
「……」
そいつは覆面マスクを被っていたが、それを脱ぎ捨てる。
期待したほどかっこよくはなかったのが残念だ。むしろにくのほうが…。
そんな場合じゃなくてだな。
「…帰して、くれませんかね」
マゼンタが探るように口を開いた。
「暴れてさえいなければな」
冷たい言葉。
ああ、この言い分だと帰してくれなさそうだな。
マゼンタが口をへの字に曲げた。ちょっと警戒しはじめたな。
「小学生をいじめて何が楽しいんですか」
「こちらとしちゃあ社会にいじめられてるんだがな」
自己責任……とは言えないな。
生まれとかそういうので影響するっていつだったか両親に聞いたことがあるからだ。
私が会話を引き継ぐ。
「……いじめられているなら抵抗しろよ」
「これが抵抗している結果だよ」
「これって――誘拐か?私たちがなにをしたんだ?」
「ヘラヘラ笑って生きているのが気にくわなかったんだよ」
小学生のうちから将来について神妙に考えるやつとか逆に嫌だと思うが。
「……」
マゼンタと、アンジュと目配せしあう。
もうこの人とは話が通じないだろうな。
世の中が悪いと一方的に決めつけている。
リーダー……かな?
だからずば抜けて暗い顔しているのだろうか。
「……人から、社会から否定されたのか?」
ぴくりと相手の肩が動いた。
なら彼と私は同じだ。
「だから、怖くなって、逃げたのか?」
「シアン」
「なんで真っ当な方法で見返そうとしないんだよ」
私のは真っ当とはとても言えないけど。
「シアン!」
「そんなんじゃ、負けっぱなしで終わりじゃ―――」
私は最後まで言い切れなかった。
「ガキが調子こいてんじゃねぇよ!!」
気づいたときには壁に押し付けられていた。後頭部が痛い。
「ぐぁ……」
「分かったフリしやがって――!!」
フリじゃない。分かっているから言ってるわけで。
そう言おうとしても、声は出ず。
首を圧され息が苦しくなってくる。
次第に意識が淀む。
マゼンタとアンジュが何か言っている。
「化け物になにいわれても慰めにもならねぇんだよ!!」
化け物といわれたのは何回目だろう。
誰かを珍しく説得しようとしたのが馬鹿だった。
あ、これ、死ぬな。
『自分が死ぬ可能性は――』
見えていたさ、ぶた。
こういうことをしていればいずれこんなことになるって。
疲れちゃったんだよ。
目の色が両方違うだけで嫌われることにさ。
――いっそ、諦めちゃおうかな。
――でもマゼンタとアンジュたちが。
ぼんやりと考えるのは私に普通に接してきてくれる二人の友達の行く末。
――無事に逃げられるかなぁ。
――お母さんたち、なくだろうなぁ。
頭が白く塗りつぶされていく。
狭まる視界の端、何かを捉えた。
松葉杖だった。
それが私を掴む腕にぶつかり、男が反射的に指を離し私を解放した。
地べたに転がり、距離を置いて咳き込む。うう、気持ちが悪い。
「シアンちゃん大丈夫!?」
アンジュが心配そうに私を抱き締めた。
守るように。
「うん、大丈夫だよ……多分」
ドアのほうを向く。
誰が来たのかは、分かっていた。
「年下を絞めることは楽しいですか?ねぇ、誘拐犯さん」
一切の表情を排した声。
…ああ。あいつ相当怒ってる。
後が怖いや。
松葉杖を投げた張本人、足を引きずりながら登場したのは、にくだった。