青と赤の救出作戦!? 10
埃がもうもうと舞い、何度か咳き込む。
「あいたた…大丈夫かマゼンタ」
「なんとか大丈夫かな…」
よくこの高さから落ちて生還できたものだ。もしかしたら言うほど高くはないかもしれないが。
下に柔らかいクッションがあったおかげで大きな怪我はしていない。
「……クッション?」
なんだか、ふにふにしているような…。まるで人みたいな。
「む……」
「どうした、マゼンタ」
マゼンタが目を細めながら周りを見る。砂ぼこり、だいぶ晴れてきた。
「…間違えたかも。ここ、押し入れじゃなくて――」
「シアンちゃん!?マゼンタちゃん!?」
「――部屋の真ん中だったよ…。まだわたしも甘…あれ、今なにか声が」
「アンジュ!?」
位置がちょっとずれてマゼンタがへこんでいるが、まあ勝手に回復するだろう。
ずっと探していたアンジュが目の前にいた。
二つ結びで前に垂らした髪がポイントの同級生。
「な、なんで二人とも……?」
「助けに来たんだ。怪我は?」
「ううん、ないけど…」
とりあえず手首を胸の前で縛られていたのでそれをナイフで千切りとった。かなりびびっていた。
班としては一人だけの六年生男子に嫌な顔をされたので黙ってアンジュにナイフを手渡す。
嫌われているのは分かってる。
「アンジュ、何人か大人いた?」
マゼンタが聞く。
「あたしがみた限り五人かそこらかなぁ…みんな覆面してたから顔は分からないや」
三階の人は外の見張り担当かなにかだったのだろうか。
「そう……なんとか撒けないかな…」
「あの、マゼンタちゃん。悩んでるところ悪いんだけど」
アンジュは困った顔をして足下を指差す。
私とマゼンタは意味がわからなくて下を向いた。
人が伸びていた。
ばたんキューと。
「きゃあ!?なんだこいつ!」
思わず叫んだ。
「シアンちゃんとマゼンタが落ちたときに下敷きになったんだよ…」
「そうなのか……」
一応息はしていた。良かった良かった。ありがとう。
なんてやっている暇はない。生きていたなら撤退だ。
「とりあえず逃げよう。みんな心配してるから」
「おっと、逃がすか」
振り向くとドアの前にはとっても人相の悪いお兄さんが立っていた。
…全く、次から次へと。
「好き勝手邪魔やってくれているようだな、餓鬼共」
「まっとうな稼ぎ方をしていればわたしたちは介入しませんが」
マゼンタが私には少し難しい言葉で反論する。こういうのは彼女にまかせたほうがいい。
私はアンジュ達を守るように一歩下がった。
「まっとうだ?小学生ごときに何が分かるんだよオラ!言ってみろ!」
「うるさいですね」
マゼンタは剣幕に負けず言い返す、というよりキレた。
「どうせ仕事なくてフラフラしてたらクスリを覚えてしまってお金がないからそうだ誘拐しよう身代金だ身代金だとか思い立ったんでしょう?どれだけこちらが迷惑してると思っているんですか?あんな宣誓布告しちゃって立て籠って。それにこんなとこじゃ警察に囲まれて終わりじゃないですか脳みそ溶けてるんですかあっすいません溶けてるんですよね失礼しましたてへっ」
「…………」
その場の全員が押し黙った。
怖かった。
今はマゼンタが怖かった。
「……う、う、うるせぇ!!ぶっ殺してやる!!」
それに、どうも図星だったらしい。
マゼンタは慌てず騒がずなにかを拾い上げた。
「ライト、か……?」
「ギャハハハハハっ!そんな代物でどう倒すんだよ!?あぁっ!?」
悪役すぎてドン引くような物言いだったが、マゼンタは気にするでもなくライトのスイッチを入れた。
「バルス」破滅の呪文を唱えながら。
LEDライトの光はまっすぐ薄暗い部屋の空間を進み、誘拐犯の目を直撃した!
「目がァァァァ!!」
「やぁっ」
悶えるリーダーの股間に容赦なくLEDライトを叩きつけるマゼンタ。
クリティカルヒット。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?」
倒れた。
え、えげつねぇ……。ここに外道がおる。
本当に色々と破滅させとるやないか……。
「さあ行こう」
マゼンタが爽やかな笑みで言ったが、それも今は恐怖の対象であった。