青と赤の救出作戦!? 9
カルネ視点
…ちょっとカルネ君が暴走したような
「……うーん」
僕は会話を一旦中断して天井をあおぐ。
さすが廃墟、あちこちが脆そうだ。
「多分、今は僕がでしゃばる時期ではないよなぁ」
シアンちゃん達が頑張っているなら、僕は裏方に徹しておくか。
ちょっとしたことではくたばるような子たちじゃないし。僕みたいに。
…嘘ついた。僕みたいなやつじゃないし。
今年のおみくじ大凶だったんだよなぁ…。ある意味レアだけど喜んでいいものなのか。
出産の運勢とか難産だからね。やめてくれよって話だ。あ、そういえば僕男だった。
さて。こんな無駄な思考をしてるんじゃなかった。
ほどいた紐を手に弄びながら、僕は彼に向き直る。
「大人は大人しく、子供の後始末でもしますか」
足元で転がるその人はすでに目が明後日を向いていた。
ちょっとキツく言い過ぎたかな。なかなか力加減が難しい。
それにさっきから喋りっぱなしだったから喉が地味に痛い。
「クスリを使用すると幻覚や幻聴が見えるだとか聞きます」
「……」
まだうすら寒いというのに半袖でそこから露出した腕には大量の注射痕が残っていた。
「それはクスリを使ったひとしか分からないんでなんともいえないんですが…どうですか?幻覚、見えますか?」
「……」
「思ったんですが、外部から刺激を与えれば好き勝手に幻覚を操作できると思うんです」確証はない。思考遊びみたいなものだ。
例えばクスリによって幻覚を見やすい人にただのペンをみせて「これは包丁です」と言ったらどうなるのか、みたいな。
ペンは包丁と上書きされて、脚色されて見えるのだろうかとか。
そしてそれを心臓に刺すフリをしたとき――脳はどう認識するのかなとか。
あ、今気づいたけど『思う』が重複している。
まあいいや。いちいち目くじらをたてることもあるまいと自分に優しくしておいた。
というより優しくしないと死ぬ。とくに肉体が。とくに骨が。
毎日牛乳でカルシウム摂取しているからか傷の治りは早い。
でも牛乳飲めば骨は折れないと言っていた小学校の保健室の先生に文句の一つは言いたい気分だ。
なんか、『それどう考えても自己責任だろ』とか開き直られそうだが。
治ったと思ったらすぐ何かしら被害にあうからな。僕の体内、栄養足りてるのかな。
最近一般の人の平均値より体を酷使しすぎている気がする。
よく考えたらそれ全部自業自得じゃね?とか言わない。
確かに判断ミス――というよりそもそも事件に首突っ込まなきゃ怪我とかしていないはずなんだよな。
別に僕は好き好んで事件に突っ込むマゾじゃない。命いくつあっても足りねーぞ。
「だからさっきみたいなことを言ったんですがね。効き目は…あったみたいですね」
「……」警察にこんなことしてるの分かったら僕までしょっぴかれそうだが。
あきらかに僕の行為は言葉攻めをこえてる。
「……でもさぁ」
薬物乱用者に拳銃は、危険だろ。
こういうのどこで入手するのかな。この国は銃刀法違反なはずなんだけどな。
よほど暴れたのか紐がほどけかけていた。
そして、このまま放置していればシアンちゃんとマゼンタちゃんを殺しにいっていた。ついでに僕も。
現にそう口走っていたし。
だからまぁ…体力のない僕が、言語だけで必死で止めた、みたいなね。
「…全く、言い訳もいいとこだ」
罪の意識から逃れようとしている。悪い癖だ。
「ヒーローじゃないな。これじゃ悪者だ」
自嘲する。
ま、完全に壊れてはないかな。完璧に壊れていたらこうやって大人しくないだろうし。
……クスリ使う時点でどうかな。大量に使ってたみたいだし、それだけでも社会復帰は絶望的だが。
アイツは普通に精神ボコボコにするけど。僕はその粗悪コピーみたいなもんだからそんなに力はないはずだ。
力加減は一応した。また(・・)死なせたら、僕の精神もやばい。
「……かあちゃん」
彼はぽつりと言った。
虚空のなにかを見ながら。
「生きているんですか?あなたのお母さんは」
「……」
「だとしたら、うらやましいです」
上の階からすごい音がした。
そろそろ行かないと。