青と赤の救出作戦!? 5
【シアン目線】
私たちが入ることにした所はA棟という四階建ての社宅だった。
他にもB棟があったのだが、A棟より小さくてボロかったためになんとなく後回しとなった。
それにマゼンタが言うには『A棟は高くて周りの景色がよく見えるだろうから、交渉とか見張りにはいいところだと思う』ということだった。
確かに警察がこないか見張りするにはもってこいなのかもしれない。
人が入らないように板張りされていたドアはとても簡単に開いた。というより、板が外されていた。
先客がいるらしい。それか、いたらしい。
誘拐犯か、違う人か。
どちらなのかは入ってみるまで分からない。
マゼンタと一度目を合わせ、頷きあってゆっくりと中へ入る。
窓が数メートル間隔で壁に備え付けられており、そこから光が差し込んでいた。
「懐中電灯いらなかったみたいだな」
「これから必要になるかもよ」
多少明るくても電気の通らない廊下はひんやりとしていて不気味だった。それに埃っぽい。
「…見て」
マゼンタが囁き声で足下を指差す。
見れば積もった埃の上に、たくさんの足跡があった。
マゼンタは屈んでひとつの足跡にすいっと指を滑らせる。
「埃が積もっていない。まだ新しいね」
「探偵みたいだな」
「身近にいるじゃん」
まあそうだが。
それから、できるだけ足音を立てないように気を配りながらまず一階を見ていく。
四つ部屋があり、鍵がかかっている扉とかかっていない扉があった。
外からも中からも侵入されやすい一階にはいないだろうということで私たちは二階へ移動する。
やはり真新しい大量の足跡がのぼったあと。
これをたどれば迷わずに着くとは思うのだが、あれだ、心の準備中。
それに一階にはいなかったが二階から四階にはそれぞれ見張りが潜んでいるかもしれない。
仮に救出して逃げている最中に出くわしたら大変だ。
だからそうならないようにもひとつひとつ見回っていく。見つけ次第ちょっと寝てもらう。
でも。
「……どうしたのシアン。なにか心配な事があるの?」
心配な事。
そう、私は今心配事を抱えている。
――自分の力はどこまで通用するのか?
武装している相手に私の力は敵うのだろうか。
手加減なんて、してくれるはずない。分かっている。
ぶたの言ったことが案外胸にきているのかもしれない。
『自分が死ぬ可能性』
考えていないわけじゃなかった。
今までだって、危ない目にあってきたわけだし。
ヤマトの時のバイク男に轢かれそうになったときとか。
私は特別な人間じゃない。
例えば、刺されればあっさりと死ぬ。
そんな存在が皆を救えるかふと不安になった。
さっさと先に殺されたら、皆を救う以前に守れないじゃないか。
そんなのは嫌だ。
「ううん…なんでもない」
ぴたりとマゼンタが歩みを止めた。
中途半端に言葉を濁らしたのがいけなかったようだ。
「シアン…嫌ならやめよう?」
「……」
窓ガラスを通した日光が彼女を照らした。
その顔はしかし暗い。
「もしかしてシュヴァインのお兄さんが言ったことが気にかかってるの?」
「…ああ」
「そっか…たしかにわたしたちは、何処かを間違えたら死んじゃうかもね」
率直な意見だった。
包み隠しのない素直な言葉。
だから私は、マゼンタを信用できる。
「私は戦えない。言うなればシアン、あなたしか戦える人がいない」
「そうだな」
「その人が躊躇うなら…わたしは迷いなく言うよ。やめよう、危険だからって」
迷いは危険。
「でもな、もう私たちは後戻りできないよ」
「どうして?まだ見つかっていないし、今なら抜け出せるよ」
「それなんだ、マゼンタ」
グイと彼女の腕を引っ張った。倒れ込むように私の胸へと抱きついてくる。
「悪かったよ、ちょっと不安にさせてしまって。もう大丈夫だから」
きょとんとした顔のマゼンタと共に後ろに少し下がった。
「私はそもそもここまできて逃げるつもりはないし――」
逃げたら誰が皆を助ける。
まぁ、ちょっとこれは自意識過剰かな。
マゼンタがちょうど居た位置の扉が開いた。
私たちがまだ確認していなかった、二階最後の扉だ。
出てきたのは金属バッドを持った男。
それを見てショルダーバッグの中のナイフを握りしめた。
「それに、心配するな。マゼンタは私が守るから」
どうしてかマゼンタがすごく真っ赤になった。
マゼンタは私が守るから」
どうしてかマゼンタがすごく真っ赤になった。