青と赤の救出作戦!? 2
「えっと……どういうこと?」
僕だけでなく、シュヴァインを除いた探偵事務所全員が驚いた顔をしている。
『犯人たちの所在地』へ『行く』というのだ。
まだ警察すら場所を特定できていないというのに。
「アジトを見つけた……ってことでいいの?」
「ああ」「はい」
二人がうなずく。
「……どうやって?」
現役小学生の彼女達が技術を持った大人達よりも先に見つけたと言うのだろうか。
例えマゼンタちゃんが並外れた頭脳を持っていたとしても、所詮は11歳の子供だ。
情報力やら統制力やらなんやらはまだそこまで培っていないのではないだろうか。
ところで現役ってつけるとそこはかとなくえろい雰囲気になるな。
いや今はそんなこと考えてる場合なんかじゃなくて。
シアンちゃんは至極あっさりと疑問に答える。
「探したら見つけたんだ」
……そりゃあ探せば見つけるだろうけど。
僕としては見つけた方法を聞いてみたい。
この町はかなり広いから、車もバイクも持たない小学生が一日そこらでしらみ潰しに探すのは不可能なのだ。
腑に落ちない僕らの顔をぐるりと見回し、マゼンタちゃんは補足に入る。
「ざっくり話せばそうなりますが、噂話を集めて纏めて気になるところを回ったら見つけたんですよ」
小学生…だよな。
「噂話?」
「最近あそこ変な人いるよとか、幽霊が出たとか」
「それで面白いことを聞いたんだよな、マゼンタ」
「うん。近くにある団地の側に、誰も住まなくなった社宅ありますよね」
「え?ええ、そうね」
主に犬猫捜しで地域を動き回る姉さんたちはすぐにそこを思い浮かべられたようだ。
今は廃墟当然と化した、元車工場の社宅。現ハトと野良猫の家。
あそこはたまに近所の子供が忍び込んで遊んでいるようだ。
「……もしかして、そこ?」
「うん」「はい」
ガタタッとライスさんが椅子から転がり落ちた。
さすが常識人、事の重大さが分かったらしい。
僕も立ちくらみがした。
まさかの近所かよ。
「警察には?」
僕が問うと二人は首を振った。
「まだだ。確定的じゃないし」
「変なことやってアンジュたちを傷つけたら嫌ですからね」「じゃあこれからどうする……ああ、それがあれなのか」
居場所が分かったから、みんなを助けに行く。
それだけなのだろう。
しかし、それはあまりにも単純明快であまりにも危険極まりないことだ。
例えシアンちゃんが強くても、マゼンタちゃんが頭が良くても。
どう相手がアクションしてくるのかわからないんじゃ意味がない。
だからなのか、なんなのか。
止めるつもりなのか後押しをするつもりなのか。
臆させるつもりなのか勇気づけるためなのか。
「甘ぇよ」
シュヴァインはこの会話が始まってから初めて口を開いた。
挑発するように。
全員の注目がいっせいに彼へと注がれる。
「甘いって?」
シアンちゃんは小さく口を尖らせ聞き返した。隣のマゼンタちゃんはふっとその瞳に陰を落とす。
「別に、お嬢ちゃんたちの行動を否定してるわけじゃない。だがな」
ため息をついて二人を見る。
「お嬢ちゃんたち、自分が死ぬ(・)可能性を考がえてるか?」
「……」
「してなかったんなら、止めておけ。お嬢ちゃんたちが思うほどこれは甘くねーよ」
覚悟が足りない、ということなのだろうか。
幾多の修羅場(姉さんも知っているようだが教えてくれない)を越えてきたらしき彼は、だからなのかそれなりに説得力がある。
だけど、シアンちゃんもマゼンタちゃんも、それで折れるほど簡単な子供じゃない。
そうでなければ、彼女たちは僕に会うことも今シュヴァインに取っ捕まることもなかったはずだからだ。
「でも、私たちはいかないといけないんだ」
はっきりとした曇りのない眼差し。
それがまぶしく感じて僕はそっと彼女から目を逸らした。
「何故そこまでする?」
駄目押しのようにシュヴァインは聞く。止めても無駄だと察したのだろうか。
シアンちゃんもマゼンタちゃんも迷わない。
「あいつ(あの子)は私たちの大事な友達だから」
友達が困ってたら助けるべきだ、と。
多分、彼女たちの行動原理としてはそれだけなのだろう。