副会長と僕と窃盗事件 副会長目線2
職員室前にて生徒会の顧問と話していたとき、数名の一年から三年までの男子が職員室に神妙な面持ちで来た。
何事かと思っていたら、真ん中にいたガタガタと震えている一年男子が側の教師に言った。
「人を突き落としました」
職員室はにわかに騒がしくなった。
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「あなたに声をかけられて、もうおしまいだと思ったそうよ」
保健室のベッドに横たわるカルネ君に話す。
「だから自首しようとあなたのいう不良君…――同級生だったわよ、彼――に提案したんだけど、さらに脅されたってわけ」
「なんか…脅されるようなことしたのかな」
「みんなそれぞれカンニングとか万引きとか覗きとかしてね…それをネタにおどしていたみたい」
呆れたものだ。
カルネ君は一年の子を可哀想に思っているようだが、軽犯罪を犯しているのだ。あまり同情できない。
「ふぅん」
「で、それぞれの教室から金目のものを盗ませて売りさばいたそうよ」
「鍵がかかっていたのに窃盗があったってあれは?」
「簡単なことだったわ」
私は肩をすくめてみせる。
「教室の、壁の下に小さな扉あるじゃない」
「うん」
「あれを開けておいただけ。あとはこっそり侵入できるでしょ?」
「なるほどね…皆、あいていたことを見落としていたのか」考えつかなかった、と彼は苦笑いした。
天井を見上げたままカルネ君は視線を動かさない。
ハイライトの少ない瞳は何を見ているのだろう?
「ムトンさん」
「なに?」
「結局、僕らいつ会ったの?」
「……はぁ、思い出していないのね」
大袈裟にため息をついてみせた。
ごめん、とすまなそうに謝られる。
「小学校の時…女の子のブランドものの文房具が盗まれる事件があったの」
当時、ブランドの文房具なんか持っていなかった私が真っ先に疑われた。
泣きべそになりながらも無実を訴えていたら、普段目立たないクラスメイトが助けてくれたのだ。
『直感で決めるなら、けいさついらないよ』
確かこんなこと言いながら。
その日からクラスメイトが色々みんなに聞き込んで犯人絞っていたらしい。
で、犯人だった子のランドセルから大量の文房具が見つけ出されて終わったのだが。
「そのクラスメイトが僕か…ぼんやりとしか覚えてないなぁ」
「すぐ終わったしね」
「シャーロックホームズにでも影響されてたんだろうね。冤罪吹っ掛けていたらと思うと恐ろしい」
大きく変化しない表情や抑揚のないしゃべりかたが、あのときとはずいぶん違う。
やはり昔に何かあったのだろう。
「……痛くないの?」
「熱いってだけかな」
「骨折なら、すごく痛いはずだけど」
「昔色々あってね。ストレスとトラウマで痛みを感じにくくなった」
無痛症みたいなものだろうか?
それ以上突っ込めなかった。
「そろそろ救急車来るよ。大丈夫?」
保健の先生がカルネ君に声をかける。
大丈夫ですと答えた。
階段から落ちたので万一のこともあり救急車を手配したのだという。
「カルネ君、親御さんは病院で?」
「姉さんが来るよ」
「お姉さんが?」
忙しいのだろうか、ご両親。
そう言えばさっき最後に撮った写真だとか言ってたけど…。
「そ。いないんだ、親」
なんてことないように彼は言った。
なんといえばいいのか分からなくなる。
「カルネ君…」
「ま、君に色々巻き込まれたけど楽しかったよ」
「また巻き込んでやるわ」
「…やめて」
じゃあまた縁があったらと言い、カルネ君は救急車に運ばれていった。
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後日談。
窃盗に関わった人たちは停学や退学処分を。
主犯の人は、前科が余りにも多すぎたために退学のちに少年院に連れ去られたようだ。
僕は足を骨折するわ右腕捻るわなんやかんやでまた不便な生活を強いられていた。
友人には呆れられたし、ムトンさんにはまた謝られた。
しばらくはうまくノートがとれないだろう。非常に憂鬱だ。
そうそう、写真のこと。
捨てたというのは虚言で、不良君の部屋の隅に財布ごとほっぽかれていたらしい。
戦利品を集める趣味でもあったんだろうか。
手元に戻ってきた写真に安堵をしたのは言うまでもない。
もう少し足がよくなったら墓参りにいこう。