副会長と僕と窃盗事件 5
放課後。
僕は帰りのホームルーム終了と同時に筆箱をバックに放り込み立ち上がった。
今日は掃除もない。
「なんだカルネ。急ぎか」
「うん、ちょっとね」
「ふーん。なんだか知らんが、気を付けろよ」
「ありがと。部活がんばってね」
「おう」
軽い挨拶を交わして教室から抜ける。
僕はムトンさんの言うことに従い生徒会へと向かっていた。
お気軽に生徒会へどうぞなんて書かれているけど僕みたいな小心者からしてみればヒノキ棒ひとつで魔王城に入るようなものだ。
深呼吸を三回ほどしてノックする。
重い鉄でできた扉を叩いても鈍い濁った音しかしない。いたずらに僕の拳へダメージを与えられただけだ。中に人の気配はあるので仕方がないからそのまま入る。
「失礼します」
「ん?部活動関係のコ?」
優雅にカップ内の液体を啜っていた先輩――上履きから分かる――が僕に気付いた。
初めて見る生徒会だが、絶句せざる得なかった。
近くに位置しているパソコンの上にはフィギュアが乗っていた。
ホワイトボードには『今期アニメの萌えキャラ議論』などと書き込まれている。
思いっきり私物化だなオイ。
それでいいのか生徒会。
まあ、全校生徒の前で月に一回はスピーチするという羞恥プレイさを考えると許したく…ならねーよ…。
とにかく、目下の問題は生徒会室内が汚いとかではなく、ムトンさんの不在確認だ。
視線で探るも、それらしき人物はいない。
「副会長さんに用事があったのですが…どこにいますか?」
「ああ、まだ来ていないかな?」
「そうですか」
「ところがどっこい、今来たわ」
居た―!!
一体どんな歩方を使ったのか分からないが、メリーさんよろしく後ろに居た。
ゴルゴなら『俺の後ろに立つな』と言ってぶっ飛ばすところだが、僕はそんな危ない世界に体を置いていない。
頭一つ分小さいムトンさんを振り向いた。態度は高飛車でも身長は低かったりする。
「はい、例のもの」
「ありがとう」
二三枚のコピー用紙。あとで目を通すとしよう。
「やだっ、彼氏?」
優雅にカップを置き上品に頬に手をあてる誰かさん。
「違います。…あと会長、ここでお茶を飲むなと何度いえば分かりますか」
ぴしゃりと言い切った。厳しいお母さんになりそうな予感。
というより、会長なのか。すごい軽いノリの会長だな。
なんだか雰囲気がお嬢様っぽいけどどうなんだろう。
盛んな部活動と難関大学コース、それと制服の人気のお陰もあってかこの学校には色んな人が来るからその可能性もあるっちゃある。
「ああ、会長が高貴だなぁとか思ってる?」
ムトンさんが僕の思考を読んだようにそう言ってきた。
否定する意味はないので素直に頷くと、彼女はやれやれと首を振った。
「普通の女の子だから」
「えっ」
「あれ、素なの」
「えっ」
「つまりは素がとてもお上品ってことよね、私」
「そーですね」
気のない返事をしながら半目で会長を見たあと僕に視線を向ける。
「――そんなわけで、よろしく」
「…うん。出来るところまではしてみるよ」
かくして。
僕はなんとか無事に魔王城から出ることができたのだった。
もう行きたくない。
遅くなってすいません