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副会長と僕と窃盗事件 副会長目線

「―――ムトン」

朝のホームルームの後、親友が神妙な表情で話しかけてきた。

朝から陰気な顔をされるとこちらの気分も下がるのだが。

まあ、今は話の腰は折らない方がいいだろう。

「どうかした?」

「あのさ、ペンサーレ君と話してたの見たんだけど…」

「彼とは恋愛関係ではないよ。利害が一致…というか、押し付けているだけ」

先手を打つ。

色恋沙汰は勘弁だ。非常にめんどくさい。

あと、窃盗事件を解決したところで彼にはなんら利などないということに気づいた。

……害ならありそう。


「ううん、そういうのじゃないの。あのね――」

違ったようだ。

言い出しにくいように。押し出すように。すまなそうに。

親友は言った。

「彼とは、関わらない方がいいよ?」

「なんで?」

「うーん…なんというかあの子あんまり噂よくないの、中学の時とか」

中学か。

中学で一体彼に何が起きたのだろう。

あの時から彼はだいぶ――変わってしまった。

彼に一番近かったアネモネちゃんは転校したそうだから、彼女には原因を聞けない。

あんまり親しくないし。

彼の友人に聞けばいいのだろうか?小学校からの幼なじみの。

でも素直に教えてくれるとは思えない。

「暴力沙汰とかそういうのがあったの?」

「そういうのはないよ。ただね、言いにくいんだけど――」

周りを見て、声をさらに落として。

「すごい不気味だったんだって」

「……不気味?」

彼に直接聞かせたらどんな反応するのか。ちょっと気になる。

「うん…」

「それってどういうこと?」

「えっとね、ペンサーレ君が通ってた中学生の頃、事件があってね」

「事件」

「知らないかな、中三だったかの女の子が四階の窓から飛び降り自殺しちゃったの」

中学生の時に県外に一旦引っ越してしまったのでそのことは知らなかった。

正確には自殺した、とニュースは知っていたがまさか生まれ故郷だったとは。

「その飛び降り自殺となんの関係が?」

「その女の子ね、ペンサーレ君の先輩だったらしいよ」

あのひと部活してたんだ。

不謹慎だが自殺以上にびっくりした。

「実は殺人事件で、カル…ペンサーレ君が犯人に疑われたオチ?」

「ううん。んー…、いや、なんか複雑な感じだった気がするんだけど…」

「?」

「まあいいや」

まあいいのか。

「ちゃんと遺書もあったし数日前から様子がおかしかったって証言もあって、自殺だと断定されたよ」

「それがペンサーレ君と何の関係が?」

同じ部活だから、やはり自殺原因を疑われるのか?

時間がなくなってきたねと少し焦りながら友人は話を進める。

「第一発見者だったようだけど、すごく落ち着いていたんだって」

「は?」

「女の子が落ちるのをたまたま見かけた人が、先生呼んでそこに行ったらね――」

飛び降り自殺。

四階からだとすると、人体の損傷は激しいものだろう。

「――ペンサーレ君が、無表情でそこに立っていてね、言ったんだって」



『先生』



『部長が死んでいます』



ここまできてやっと、「彼は異常なんだなぁ」と思った。

表情を動かしもせず、そんな客観的な評価をただの中学生はできるのだろうか。

動揺とか、焦りとかある程度は滲み出ていてもおかしくはない。

救急車を呼んでと私なら言うかもしれない。


―――しかしねぇ。

どこまで信じればいいのか。

もちろん親友を疑うわけではないけど。

『ようだ』『らしい』で話されるとは、生ける都市伝説なのだろうか、彼は。

どこまでが嘘で、どこまでが本当なんだろう。

話には必ず尾びれがつくのだから。


全てが嘘なのか。

全てが本当なのか。


私には、分からない。きっと彼しか答えは知らない。

――でも。あの時の彼から見れば、あながち間違えてもないんじゃないか。

「…ありがと。心配してくれたんだろうけど、私は大丈夫だよ」

「うん……」

「私も馬鹿じゃないし、ほどほどの距離でやっていくよ」


そこでチャイムがなった。

親友はあわてて戻り、ガタガタと立っていた生徒が机に戻る。

私は教科書を引っ張り出して広げ、顎をついた。

想うのは彼のこと。

「そっか」

まだあの時なら、きっと近寄れると思ったけど。

気がついたらもう追い付けないところまで行ってしまったんだね、君は。

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