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黒猫+僕+探偵=事件 10

それから。

ひびの入っていた左腕にギプスを巻かれ、それから事情聴取を受けた。

何がどうしてどうなったのかすべて覚えている範囲で話す。

僕がしたことは、正当防衛ということで片付けられた。

そりゃそうか。こっちは怪我してるし。

過剰な正当防衛をしていたら逮捕されていに違いない。本当に彼女には感謝だ。


そして今は、通路に置かれたベンチでシアンちゃんを待っている。

窓の外はすっかり茜色。

だいたいあれから二時間は経っている。

「まだかな」

待っているのはシアンちゃん。

女の子だからとあちらが気を使い、に若い女の人が相手のほうがいいだろうということで探し回っていたようだ。

結果時間が遅くなっているという本末転倒具合。僕?僕はばっちり怖いオジサンが相手だったけどね!


「何度やっても事情聴取は疲れるな…」

何度も事情聴取受けているというのもアレだけど。

あ、そういえば彼女は帰りどうするんだろう。親の迎えが来るのかな。

僕は姉さんが仕事が終わり次第迎えに来るとのこと。

叔母さんでも良かったんだけど、叔母さんは…あの人、いい人なんだけれどお節介だから苦手なんだよなあ。

あと、ヤマトはシアンちゃんが署内に入れようとしたけど駄目で、外に待たせることにした。

ここを出るときにもしまだ彼がいたら僕が引き取ろうか。相性最悪でも。

あのアパート、ペット大丈夫だったはずだし。

あいつもなかなか悲惨だよな。飼い主は死ぬし、狙われるしで。


「あ、事情聴取終わってたのか」

物思いに耽っていると、シアンちゃんが向こうから歩いてきた。

「終わったんだ」

「うん。カツ丼は食べられないって言ったら笑われた」

「あはは、そうなんだ」

特に気分を害した様子もない。厳しく詰問されなかったようでホッとする。

ぽすんと彼女は僕の横に座った。

「お母さん来るまでもうちょっとかかるって聞いたから、ヒストリー話すか」

「ああ…あれか」

ちん入者のおかげでシアンちゃんの話がお預けになっていたことを思い出した。

「暗い話になるぞ」

前置きしてから、彼女は後ろの壁に背を預けて天井を見上げた。

「小学生ってさ、残酷なんだ」

「残酷というと」

「常に弱い生き物を探している。なんかきっかけさえあれば、奴らは食いつきにかかるんだ」

「……」

僕が小学生の頃は食いつきすらされなかったな。

子供心に関わったらまずいと思われていたようだ。

「私は目がこんなだから、入学してすぐに標的になった」

彼女は言いながら自分の目の下をなぞる。

「悪口は当たり前。目を抉られそうにもなったな」

それはあまりにも淡々とした語りだった。

感情を感じさせない無機質な話し方。

「二年生頃かな。兄貴が毎日そいつらをボコボコにして、職員室に連れていかれるのが見ていられなかった」

シスコンはその時から始まっていたのか。いや、始まってしまったのか。

今のあの変態兄からは、妹を守るために人を傷つけていなんてみじんも考えられない。

「だから私は強くなろうと決めた。そのために――あ、迎え来た」

シアンちゃんのお母さんらしき女性がこちらに歩いてきていた。

立ち上がってあわてて礼をする。

「こんにちは」

「あなたがシアンのフィア――」

「お母さん!」

シアンちゃんが顔を真っ赤に叫ぶ。

「え?ええと…この度はすいません、娘さんを危険な目に合わせてしまって」

「あら、大丈夫ですよ」ウフフとお母さんは笑った。

「シアンが怪我をしたらあなたの身が大丈夫じゃなかったですが」

「ひぃ」

怖ぇぇぇぇぇ!!

お母さん怖ぇぇぇぇぇ!!

良かった!僕が怪我をしただけで良かった!

シアンちゃんが巻き添え食らってたら明らかにここで殺人事件が起きていた!

「ともあれ、これからもシアンをよろしくお願いしますね」

「は、はい…」

暗に『手を出したら殺す』と言われた気がした。頼まれても出さねーよ。

「話の続きはまたな。バイバイ、にく」

「うん。バイバイ」

手を振って別れる。

あのお母さんじゃアレルギー持ちじゃなくてもペット許してくれなさそうだ…。


見送ってまた座る。

「………」「シアンが自分の話するなんて珍しいな」

「アスマルトさん…どこから聞いてたんですか?」

「ヒストリーから」

ほぼ初めからじゃねーか。

盗み聞きしていたのかよ。

「珍しいって…知っているんですか、彼女の…その、さっきのこと」

「知ってるもなにも。俺の妹を助けたのはあいつだったから」

妹って、マゼンタちゃんのことか。

右目を眼帯で覆ってる子。

「見て分かる通りめったに他人には心開かないあいつが過去話するとは、信用度アップしたみたいだな」

「…買いかぶりすぎですよ」

僕も過去話したから自分も話さないとフェアじゃないとかそういう理由だろうに。

「…シアンは自分を変えようと必死でな」

「……?」

「小学生はもちろん、中学生高校生のチンピラに構わずケンカを売りにいっていたようだ」

「無謀!?」

「びっくりしたよ。しかも俺の妹もそれを止めないで逆に参謀してたらしい」

「参謀!?」

参加じゃなくて参謀かよ!

「今や『破壊神コンビ』とか言われている騒ぎだ」

「あ、それ聞いたことがありま……まさかの彼女たちかよ!」

オチがとんでもねえ!強いわけだよ!

アスマルトさんは「どこで妹の育て方を間違えちまったんだ」とため息をついた。

「そうだ、カルネ」

「はい」

「お前がなにやったとして、『過去が過去だから』という同情はしない」

「……」

「人を殺すなよ。殺したら全身全霊かけて批難してさけずむ」

「僕が人を殺してしまうようなゲスで最低な人間だと思いますか?」

「うん、思うから言ってる」

乱暴に言い切った!?

「迎えも来たようだし、俺も仕事に戻るよ。じゃーな」

「ほんとだ。えっと、さよなら」

「ん……あと、首輪は預かっといたから。猫はまだそこにいるんじゃないか?」

ひらひらと赤い首輪をポケットからだすアスマルトさん。

すっかり忘れていたけど首輪が狙われていたんだよな。

中身なんなんだろ。

というかよくヤマトが大人しく外させたな。

「気になるか?」

僕の気持ちを読んだのかアスマルトさんはニヤリと笑った。

「はい、少しは」

「教えなーい」

「ええ!?」


とんでもないフェイントかけられて裏切られた!

「…金だよ金。こんなもんの為に犯罪が起きたんだ」

「お金?」

「ま、明日の新聞に載ると思うからそんときにびっくりしとけよ」

そんなことを言って立ち去る。

なんだ一体。

アスマルトさんを見送って、僕は反対方向の出入口に向かう。


「ごめんね、姉さん」

「はぁ、全くカルネ君は。入院しなかっただけ良かったわよ」

デコピンされる。

甘んじて受け入れた。

ニャアと足元から鳴き声がして姉さんが不思議そうにそちらを見る。

「あれ?猫?」

「今回の中心人物のヤマト」

いたのか。姉さんが抱き上げる。

ヤマトは大人しかった。

大冒険のあとで絆が深まっていると思い指を出してみる。

引っ掛かれた。溝が深まる一方だ。

「身寄りないからさ、飼おうかと」

「相性が凄く最悪そうなんだけど?」

「まあ…保健所に連れていくよりかはいいかと」

「私飼うわよ」

高い高いをしながら何でもないように姉さんは言った。

「いいの?」

「武士に伝言はないわ」

「二言だよね」

伝言ゲームでもするのか。

「そうともいうわね。さて、帰りましょうか」

「うん」


今日のお風呂どう入ろう。


「アスマルト?なんで首輪なんか持ってきたんだよ」


「よく見てみろ。これ、袋状になってるだろ?」


「そうだな。何かいれるのか?」


「ご名答。俺たちだけじゃどうにもならないから上司のところ行こう」


「え?何が入ってたんだよ」


「耳貸せ」


「ほい」


「五千万の小切手」


「………」


「父親に渡されたらしい。たしか被害者の父親は最近亡くなっている」


「じゃ、じゃあ娘にその金をそっくりそのまま渡したってことか?」


「遺産相続で揉めるとでも思ったらしいな。でも兄貴には渡したくない。だから先手を打った」


「でも死んじまったじゃねえかよ……」


「だよなぁ。それでも加害者の手には渡らせたくはなかったから、猫の首輪に偲ばせたんだろうな」


「でも猫、逃げたんだろ?やばいじゃん」


「もしだ。もしわざと逃がしたとしたら?」


「は?」


「四階だぜ?それに見たろ、玄関に逃げ出し防止の網あったの」


「お、おう」


「だからさ、自分が殺されると分かって逃して――安全な人間に預けたんじゃねえの?」


「あっさり渡される危険もあったのにな」


「それは賭けだったろうな。あいつらは良くやったよ」


「切ないな。自分の死を覚悟してたとか……」


「あくまで予想だがな。ひとつ分かるのは、あの猫はかなり大事にされていたことだ」


「なんで?」


「デブでもなくガリでもなく、毛づやが良かった」


「へえ」


「余程大事にされていたんだろうな――」


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