第24話前編:エラーの果て
神殿の中枢ドームを貫いた異様なノイズは、やがて地鳴りのような低音へと変わり、足元から崩壊の振動が伝わってきた。
システム・コアの中心に突き刺さった【ただの木の棒】から、赤黒いエラーの奔流がドーム全体の配線網へと逆流していく。
青白く神々しく輝いていた中枢ネットワークはみるみるうちに輝度を失い、幾重にも張り巡らされていた特権カードの光の帯が、パチン、パチンとガラスの割れるような音を立てて消滅していった。
「ばかな……私の……私たちが構築した絶対の理が……こんな、管理外のバグごときに……ッ!」
膝から崩れ落ちたバルドの身体は、すでにシステムからの魔力供給を断たれ、ただの「データ上の存在」へと成り下がっていた。
その瞳から冷徹な光が完全に消え失せ、彼の衣服や周囲の空間までもが、砂のように細かなコードの粒子となってパラパラと剥がれ落ちていく。
レイは荒い息を整えながら、システム・コアから【ただの木の棒】を引き抜いた。
手元の【 ????? 】のカードは、激しい戦闘の役目を終えたかのように、静かな熱を帯びたまま微かに明滅している。
「理なんてのはな、都合のいい人間が勝手に決めたルールに過ぎねぇよ」
レイが冷ややかに吐き捨てたその言葉を最後に、バルドの形を保っていたデータは完全に霧散し、虚空へと溶けて消えた。
「……終わったのね」
腕の生体回路からデバイスを引き抜いたエリスが、床に膝をついたまま呟いた。
彼女の口元や腕からは痛々しく血が流れていたが、その表情には長年縛り付けられていた呪縛から解放されたような、どこか晴れやかな色が浮かんでいる。
だが、最高管理官バルドの消滅とシステム・コアの崩壊は、これで全てが解決したことを意味していなかった。
神殿の天井が大きくひび割れ、王都全体を覆っていた巨大な管理ドームの結界が、次々と音を立てて剥がれ落ちていく。
外の世界――王都の空が、歪み始めていた。
システムの最上層が崩壊したことで、これまで隠蔽されていた「本当の空」が、むき出しの巨大な演算コードの群れとともに顔を覗かせる。
それは、この世界が人間たちの知る自然の理ではなく、完全に何者かによってプログラミングされた巨大な「箱庭」であったという真実の露呈だった。
「……おい、エリス。のんびり座ってる暇はなさそうだぞ」
レイは崩落を始めたドームの出口を見据え、その手に【ただの木の棒】と、名もなき進化したカードをしっかりと握り直した。




