第3話 佐久間萌亜はひらめいた
もんじゃ焼き屋に入って愕然とする。
こ、個室……。そうだ。奈々ぴょが言ってた。「人目のないところで二人きりになれば、かずっちもちょっと大胆になるかもしれないじゃん?二人で行ってきなよ」と教えてくれた店だ……!
食べ物屋の個室で何をするって言うのよ!とむっとしたら「あはは、何を想像したの。いろいろあるでしょ、あーんするとか、ほっぺたについてるわよチュッとか。ああ、あと膝の上にのせて口に運ぶのか最近の漫画で流行ってるらしいよ~」って奈々ぴょが言っていた。
ひ、膝の上にのせて……。
電車の中で見た何かの漫画の広告に描かれていた絵を思い出す。
え?あれを?
絵のキャラクターを自分たちに置き換えて思わず想像してしまった。いや、ないない。かずっちと私って、あんまり体格変わらないし。漫画のように対格差ないから……って、そうじゃないよ!
そうじゃなくて。
もし、私が一番初めに想像したように「個室に連れ込んで何をするつもりだ」みたいにかずっちが思ったらどうしよう。
どうしてこんな店知ってるんだ?何が目的だ?ビッチなのか?って思われるっ!
そうだ、個室だって知らなかったことをアピールしよう。
奈々ぴょに聞いてたけどすっかり忘れてたんだから、知らなかったのと同じだよね?無罪無罪!
「個室っ!かずっちと二人っきりだ!」
ってまって、奈々ぴょに教えてもらったって私、言ったんだ……。矛盾してる?
「どうしよう」
思わず漏れたつぶやきに、かずっちが不審げな顏を私に向けた。
本当に個室だって知らなかったんだよ、知らなかったの。っていうか、忘れてたの。忘れてたんだから知らないのと一緒だよぉ。
言い訳、言い訳、えっと、言い訳……。
あ、そうだ!
「周りの人が焼いているのを見ながら真似しようと思ってたけど、かずっちも私ももんじゃ焼いたことないのにどうしよう……」
私の言い訳を本気にして、かずっちがすぐにスマホでもんじゃ焼きの作り方の動画を探してくれた。
ほっ。よかった。個室に連れ込んで二人きりになっていい雰囲気になってあれやこれしようとするビッチだと思われて嫌われるのを回避できたみたい。
っていうか、かずっちは知らないだろうけど、実際こんな回りくどい手を使うのって、あざとい女の方だよっ!かわい子ぶった女のがよっぽどビッチが多い。
ギャルはさ「オシャレが好きでオシャレしてる」から、男受けとか気にしてない。
でもあざとい系ビッチって「男にもてるためにオシャレしてる」から、男受けを常に意識してるし、行動もそう。
ふわふわ清楚系服着てさ、「わー個室なんて知らなかったぁ。でも二人きりになれてちょっと嬉しいかも」なんて言っても、ビッチだと思われないのっ。
かずっちが画面をこちらに向けて見せてくれたけど、よく見えなくて前のめりになったところで事件は起きた。
そう、大事件です。
鉄板に火が入っていて熱くなっているから触らないように気を付けてはいたけれど、髪の毛まで気が向いていなかった。
背中に回していたロングヘアがあわや鉄板で焼かれるところでかずっちが守ってくれた。
……まぁ、ヘアアイロンで普段から焼いてるようなものだから、ちょっこっと鉄板に触れたからってどうにかなるわけではないんだけれど。
でも、かずっちは、私の髪までも大切にしてくれるんだ。私のすべてを守ろうとしてくれてるんだ!
そう思うと、きゅーんが止まらない。
かずっちに押された胸を押さえる。
あ、胸?
私、胸を触られ……って、助けるためにちょっと触れちゃっただけで、触られたってほどでもないけども。一瞬だし。まぁこれが知らない男が道端で突然ってなら何すんのよ!痴漢っ!って当然叫ぶし、警察も呼ぶけどさ。
人助けのためなら全然無罪でしょ?
それに、そもそも……。
私たち付き合ってるわけだし。しかも、5年も。さらにもう大人だし。
ちょっと胸に手が当たっただけでぎゃーぎゃー言うわけがない。
っていうか、このままいい感じに仲が深まりたいなぁ~なんて思うんだけど……と、かずっちの顏を見ると、真っ青だ。
ええええ!えええええ!
まさか、汚らわしいものに触ってしまったみたいな?
そういえば、女性恐怖症の男性とかもいるんだよね?
かずっちが私に手を出して来ないのって……まさか……。
「ご、ごめん、わ、わざとじゃなくて、髪が鉄板で焼けちゃうと思って、その、綺麗な髪が……あの……」
き、綺麗な髪っ。そう思ってくれてたんだ。
かずっち好き!大好き!
好きすぎて気持ちが超新星爆発しちゃう!
って、喜んでる場合じゃないよ。
かずっちは、私の胸を断りもなく触っちゃったことを気にして青くなってるんだよね。
彼女なんだからいいだろう!なんて言わないところも好き。私の体と心を気遣ってくれる。
大事にされてる。ああ、もう、好きっ。
でも、青くなんてならなくたっていいんだよ。キスして欲しい。ぎゅっとしてほしい。今日は手をつなげて嬉しかったけど、私からじゃなくてかずっちから私の手を握ってもほしい。デートのたびに手をつなぎたい。恋人つなぎしたい。
って、私が思っている間もかずっちは青い顔をしている。
こんなに私のことを大事にしてくれるかずっちを傷つけちゃだめだ。
大丈夫だよ、気にしないで……なんて言葉じゃ伝わらない気がするし。
もっと触っていいんだよなんてセリフは絶対にダメだ!ノービッチ!
あ、そうだ!かずっちなら、こう言えばいいかも……。
てなわけで、思わず笑いが漏れる。
ラッキースケベなんて単語があってよかった。
でも実際はラッキーなんかじゃないよって奈々ぴょに教えてあげよ。男側は真っ青になるよって。ラッキーなんてニヤニヤする男がいたら縁切り確定!
そのうち「わざとじゃないんだ」っていいつつ「わざとそうなるように」仕組むかもしれないし。「わざとじゃないって言ってるだろう、大げさに騒ぐなよ、意識過剰なんだよ、お前みたいな女が痴漢痴漢って冤罪を生むんだよ」とか言い出しそうだもん。
てなわけで、真っ青になったかずっちはやっぱり素敵な人。流石私のかれぴ。
かずっちがほっとした表情を浮かべている。
ラッキースケベ……なるほど。
この場合は仕方がないという理由があってのスキンシップならば、それは誘っていると思われないという話ですね?
私の中の普段は砂をかけたくなるようなあざとい女子の行動が頭の中にむくむくと膨れ上がる。
ワントーン高い声を出し、男の前でくねくねするあっち系の……。
……あざと先輩!勉強させていただきやすっ!
隣に座ってボディタッチですね!了解ですっ!




