第11話 佐久間萌亜は念願のラッキースケベを体験する
あー、やっぱりだ。
女の子がかずっち見てた。私のかずっち見ちゃだめ。
もう、もう、本当にぃ亮のやつぅ、余計なことして!
思わず、ぎゅっと腕を組んでしまった。誰にも渡したくなくて。かずっちのこと。
「次はどこへ行くんですか?」
かずっちの言葉に、いろいろと計画していたことが頭から抜けててて、慌てる。
「えっと、えーっと、そう、観覧車!」
あ、違う観覧車の前にテレビ塔じゃないやミライタワーに行って、行きはエレベーター、帰りは階段!
階段でこわぁーいなんて抱き着きながら写真を撮る予定だったのに!
飛ばしちゃった。観覧車はその次、クライマックスの予定だったのに……。
「ああ、観覧車で高いところからの形式を背景に写真を撮るんですね!」
何の疑いも持たないかずっちをだますように観覧車に乗り込んだ。
「今、こんな写真が流行ってるみたいなの……」
拒否されるかなと思いつつも、集めたたくさんの口元を本や花やカードなどで隠してキスをしている風……いや、実際にしているものもあるんだろうけど、……の写真を見せる。
「ええええっ」
かずっちから素っ頓狂な声が出た。
うう、やっぱり、これは、だめか……!
「いいんですか?」
「え?いいんですかって?」
「だって、これ、キ、キ、キスしてるように見えるんですが……」
そりゃそう見える風に撮った写真だよね?
「ほら、こういうのもみんな真似して遊びで撮ってるし……」
あらかじめ用意しておいた、飲み会で悪乗りで真似して撮っている男同士の写真を見せる。口元を隠している品は、ビールだったり、靴下だったり……。
かずっちがあっと声を上げた。
「キスしているわけじゃなくて、顔と顔を近づけて……キスしているように見せているだけ……あ、そうですよね」【びっくりした。萌亜さんとキスするのかと……!】
「もちろん協力しますよ」
かずっちがにこりと笑う。
「本当?ありがとう!んじゃ、さっそく~って、何で隠そうかな。そこまで考えてなかった」
本当は考えてたよ。脳内あざと先輩と相談の上、何もなぁーいとかいう体で。持ち物からできるだけ小さいものを取り出すのだ。
「何か持ってないかな、かずっち」
かずっちが私と会う時には気を遣ってあまり荷物を持ち歩かないんだよね。
何かの帰りとかに会う時はものすごく大きなカバン持ってるのにさ。
私にはわからないアニメのキャラのキーホルダーがぶら下がっていたり、鞄を開けると、美少女が前面に描かれたタオルだったり、薄っぺら本だったり、ガチャのカプセルだったり一杯なんか入ってるのが見えたりしてたんだよね。
……私と会うときはオタクっぽくならないように荷物を置いてきてくれてるのかな?って思うんだけど……。
持ってきてくれてもいいのに。
もっと、好きなことの話してもいいのに。
自分の好きな物のあるところに連れてってくれていいのに。
かずっちが、私の好きな服のことを認めてくれて知ろうとしてくれるように、私もかずっちが好きなこと否定したりしないのに。隠されているみたいでちょっと寂しい。
「えーっと、こういうのどうですか?」
かずっちがスマホを取り出した。
「スマホの画像をスマホで撮るんです」
「おお、エモっ、いいじゃん、そうしよう!」
口元をスマホで隠してなんちゃってチューをもう一台のスマホで撮影。そのスマホに映っている画像と観覧車の外の景色が口元を隠しているスマホで撮影。
「ほら、かずっち!」
かずっちが構えたスマホで口元が隠れるようにすると、真っ赤な顏をしたかずっちが顔を近づけてきた。
口はついてないけれど、体温を感じるような近くにかずっちの顏が……。ひゃーっ。思った以上に恥ずかしい。
って、何言ってるの。スマホで撮影。
「写真を確認してみよう!」
何気なさを装って顔を離してスマホを触る。
「あー、画面を見ないでシャッター押してるから、うまく撮れてないなぁ。もう一度。今度はスマホ、連写にして角度を変えながら撮るね。1枚くらいちゃんと取れるかなぁ」
そうして、4回目。
「あ、結構いい感じに撮れたんじゃないですか?」
まだ、ラッキースケベが発動していないのに、いい感じの写真が撮れてしまった。
「で、でもほら、スマホの画面を獲ろうとした口元カメラではうまく撮れてないから……」
と、かずっちのスマホの画像を見て言う。
「そうですね。じゃあ、続けましょう。僕のカメラも連写にして角度変えながら撮影します」
観覧車はそろそろてっぺんに到着する。折り返しだ。
5回目。
息がかかるほどの近くにかずっちの顏がある。あと1センチ。
その時は突然訪れた。
風が吹いたのか、突然観覧車のゴンドラが大きく揺れた。
ぐらりとかしぎ、バランスを崩してかずっちの肩に手をついた。そして、唇が触れる。
グラグラと揺れるゴンドラの中、倒れないようにとかずっちの片手はゴンドラの椅子。スマホを持っていた手で私の肩を支え。
唇が重なったまま、時間にして1秒か、2秒か。
やたらと長く感じる。
「大丈夫ですか?」
揺れが少し収まると、かずっちは隣の席から向かい側の席へと移った。
「片側に寄っていたから余計に揺れたのかもしれないですね」
何事もなかったかのように話すかずっち。
そして、数秒の沈黙。
「ご……めん……」
かずっちが謝った。
それは、唇が振れたことを、ラッキースケベを謝っているの?
「嫌だった?」
このきき方はずるいと自分でもわかっている。嫌だったなんて答えられないよね。かずっちは優しいんだから。
「迷惑だった?」
かずっちが答えない。
「ごめんね……私の、せいで……」
答えないのは、嫌だったから?迷惑だったから?世の中にはセックスレスの夫婦だっている。
恋人だって夫婦だって、肉体的な交わりはしたくない人だっているんだ。
かずっちはそういうタイプなのかもしれない。だから……。
キス、したいなんて、思わなければよかった。
嫌われちゃう……。
「い、嫌でも、迷惑でもないですっ、萌亜さん、謝らないでください、びっくりしただけで。それに、その……大丈夫ですか?萌亜さんこそ……ぼ、僕なんかと……その……」
「い、嫌じゃないなら、キス……して」
「はいぃ?」
かずっちが裏返った声を上げる。
まずい、すごく驚いている。これって、やっぱりビッチだと思われたってこと?
「ほ、ほら、もともと、ラブラブを見せつけるために写真撮ってたでしょ?メンドクサイことせずに、キス写真なら分かりやすいんじゃ、ない、かな……って」
語尾の声が小さくなる。
苦しい言い訳?




