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オタク君が好きすぎるギャルの6年目  作者: 有
第一章 キスまで3万文字

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第10話 目黒和也は変身に失敗する

◇和也◇

 うえええ!

 萌亜さんが、泣いてしまった。

 泣くほど似合わないのだろうか?

「ハンカチ、どこに入れたかな……えっと、ポケットが多くて」

 カーゴズボンというらしい。いや、カーゴパンツだっけ。ハンカチをスマートに差し出すことすらできないなんて、情けない男だ。

「あった。萌亜さん、あの、本当にごめんなさい」

「ううん、かずっちは何も悪くないよ……私のために、オシャレしてくれたんだよね?」

 萌亜さんのため?いいや違う。偽装彼氏を何としても続けたいっていう自分のためだ。

 どうしよう。馬鹿な僕には萌亜さんがなぜ泣いているのか分からない。

 ハンカチを渡すと、萌亜さんは両目にハンカチを当てた。

「私の方こそ、ごめ……ん……ね、その、嫉妬……して……我儘を……」

 嫉妬?誰に?

「あっ!も、もしかして……嫉妬って……亮くんに?」

「え?」

 萌亜さんが顔を上げた。

「そ、そうだよね。萌亜さん、将来自分のデザインした服を売る店をやりたいってくらいオシャレが好きで、ファッションにも造詣が深いのに……亮くんじゃなくて、萌亜さんに相談するべきでしたよね」

 ……なんて言いつつ、萌亜さんに相談したくなかった。

 いかにもオタクな見た目の僕と、オシャレでかわいい萌亜さんと並んだ写真。あまりにも不釣り合いで、伊達先輩の言うようにお金を出して写真を撮ってもらったファンとアイドルみたいだ。

 それを萌亜さんにはとても言えなかった。言っても言わなくても事実は変わらないのに。やっぱり僕には偽装彼氏として。

 萌亜さんが首を横に振った。

 違うの?

「えーっと、今日はどうしましょう……また仕切り直しましょうか?」

 萌亜さんががしっと僕の手を掴んだ。

「行くっ!かずっちと写真撮るために、いろいろ調べてきたからっ!」

 涙を拭いた萌亜さんが顔を上げた。

「今度は今度、今日は今日!」

 萌亜さんがスマホを取り出した。

 それから、僕の手を握り……握り直した。

 普通のつなぎ方ではなく、指と指の間に指を入れる、恋人つなぎっ!

 うわー。密着度が違う。エロい。なんだろう、ただ手をつなぐだけなのに、恋人つなぎってつながりが深いというか……。ああそうか。普通のつなぎ方なら握手でも使うけれど、恋人つなぎは特別なんだ。つないだ手を顔の前に持ってきて、萌亜さんが顔を寄せてスマホを構えた。

 あ、もうすでに彼氏とのラブラブ写真を見せて男がらみのあれこれ撃退しよう作戦のための写真撮影開始なんだ。

 よし。せっかく亮くんが協力してくれたんだし。

 っていうのは建前で、偽装とはいえラブラブ写真名目で萌亜さんとイチャイチャできるのは役得でしかない。断る理由なんてひとっつもない。


 電車の中で萌亜さんは写真を見せてくれた。

「こんな写真が流行ってるらしいの、まずはこれマネしてみよーよ!」

 公園のベンチに座る肩を寄せ合った白い像の隣で、像と同じポーズをとって撮影した写真だ。

 ヒサヤオオドオリパークへと移動すると、すぐにベンチは見つかった。

 先約の恋人同士がいて、ポーズを真似て自撮りをしている。

「写真、獲りましょうか?」

 萌亜さんがすぐさま声をかけた。人見知りの僕にはできないことをさらっとできちちゃうところすごい。

 ますます好きになっちゃう。

「あ、ありがとうございます」

 先客の女性が萌亜さんにスマホを手渡した。

「インスタとかに使うんですか?」

 女性がはいと頷いたので、萌亜さんがスマホを構えながら女性に話しかけた。

「じゃあ、何枚か取りますね!まずはこっち側は、女性が男性の背中に手を回すポーズで、あ、もうちょっと手を下げて、そんな感じです!」

 カシャカシャとしゃがんだり立ったりしながら何枚も写真を撮っている。

「じゃあ、反対を向いて、せっかくなので顏も映る写真も撮っておきます」

 とまた写真を撮ってから背後に回る。

「こっち側は男性が女性の腰に手を回して。はい、撮りまーす」

 とまた何枚もシャッターを押した。

 それからスマホを女性に戻すと、萌亜さんが声をかける。

「結構いい感じに撮れていると思うんですけど、確認してください。使えそうな物ありそうですか?」

 女性がスマホの写真を確認していく。

「はい、ありがとうございます!すごく素敵に撮れています!」

 恐縮しながらお礼を言う女性に、萌亜さんがスマホを差し出した。

「あの、私たちも撮ってもらってもいいですか?」

「もちろんです!」

 うん。僕もそうだけど、女性の彼氏も放置され、ことは順調に進んでいく。

「もっとよってくださーい。あ、すごくいい感じですぅ」

 と女性に言われ、操り人形のようにポーズを決め写真を撮られて行く。萌亜さんとイチャイチャできるなんてそんな生易しいものじゃなかった。自分のために時間を使ってくれている人のために、よこしまな気持ちで失敗するわけにはいかないと、緊張感しかない。

「せっかくなのでお顔の写真も撮りますね~」

 と、像と同じポーズになる背後からだけでなく、表からも写真を撮ってもらう。この流れは萌亜さんがしたのと同じだ。

 っていうか、萌亜さんも手馴れていたが、女性もかなり手馴れている。インスタをしている人というのはこれがデフォルトなのだろうか。

 そういえば、ぬいやアクスタ持つ友達も、こんな感じだな。食事が冷めるまで写真をあーでもないこーでもないと撮ってる。背後に移るからそのカップどけてくれとか言われるままにお手伝いすることもある。

 なんて思ってたら、なぜか人が集まってきていた。

 しまった。ここは人気スポットで、順番を待っている人がいっぱいいるんだね。と思って慌てて立ち上がろうとしたら、周りに集まっている人は遠巻きに興味深げにひそひそと噂をしている。

「なんかの撮影会?」

「アイドルとかかな?」

「雑誌の撮影?」

 そうだろう、そうだろう、萌亜さんはモデルのように美しかろう。

「写真確認してください」

 撮影が終わった女性が萌亜さんにスマホを返すとすぐに写真の確認をしている。

「ありがとう、とっても素敵!」

 にこりと萌亜さんが微笑むと、女性がスマホを取り出した。

「あの、私もお二人を撮影させてもらっていいですか?」

「え?」

「あと、インスタに写真も載せても大丈夫ですか?このお二人に写真を撮ってもらいまし~って載せたりとか……」

 なるほど。そういうこともあるのか。

「えーっと、かずっちは大丈夫?」

 別に後姿の写真なら誰か分からないし全然かまわないので、うんと頷く。

「どうぞ載せてください。あ、できれば、とっても仲がいいカップルがいたとか、すごく仲良しでうらやましいとか書いてください。彼は私の彼なんで」

 ぎゅっと、萌亜さんが僕の腕に腕を絡ませた。

「ふふ、はい」

 そして、また操り人形のように言われるままにポーズを取り、何枚か写真を撮られて終了。

 終わったころには、10人ほどがこちらを見ていた。

 すいません、ベンチ使う人、お待たせいたしましたと急いでどいたものの、誰も使わない。あれ?れ?

 


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