ep5 接触対象
「因みにオレの人物相関分析ってどうなってるの?」
【カイン様の情報ですか……、ちょっと待ってくださいね】
感じたプレッシャーを和らげようと、口が勝手に動いていた。
【以下が、情報となります。】
・カイン・アストレイア・フォルシオン(3)
異世界人。神ラーファにより転生させられた転生体。
これからいろいろなプレッシャーや責任に追われる者。
HP:30
MP:X⁴
発言傾向:比較的友好型
交渉耐性:1000X
精神耐久力:50
備考:結界拡張展開時においてはサブのサポートが入る為、数値が変動するものがある。
【どうでしょうか?】
「……いや、交渉耐性1000Xとか、MPがX⁴とか……」
オレは、本当にこの家で生き残れるのだろうか。
【神名持ちですし、私というハイスペックAIがいますので!】
「…………」
【大丈夫です! いざの時は私がすべてサポートしますので!】
――その、“いざの時”が来ないことを祈りたい。
♦
さて、ここまでの情報を踏まえて、オレはどう動くべきか。
父と母はオレの魂名に違和感を持つどころか、それを歓喜している。しかし、二人の兄は両方、オレの魂名に神名がついたこと自体を疑っている。よって、兄二人の疑いをどうにかしないといけない。はっきり自分の意思を示して証明ができればいいが……、今のオレにできることは「無い」と断言できるだろう。信頼という土台が無いからな。
そして、一番厄介なのが、姉ミレーユだ。「商いに一切の興味を見せない、魔導技術マニア。その伝手でよく聞く神話・異世界という考え方を肯定。時折、目が据わり、その目から理性の光が消える」この評価から、備考の「事件の内容が悲惨。要観察対象。カインを実験対象としか見ていない」に至るまで、かなりイカれてる。オレのHPに関しては30しかないし、実験対象にされたら、確実に死ぬ。想像もしたくない。
……つまりだ。
この家族は、全員が優秀で強者。対するオレは最弱者。
この状況で、信頼を積むには、慎重に、確実に、一歩ずつ進むしかない。
このような残酷な状況なので、助けを求める。
「サブ……何かいい案ある?」
【ご安心ください。プランはあります!】
サブの台詞には、自信が乗っていた。
しかし、カインはあまり乗り気ではない。
(……その言い方が一番怖いんだよな)
そう思いつつ、サブの意見に耳を傾ける。
【――まずは、最も危険度の高い人物から対処していきます】
サブは、落ち着いた声で話す。これは、真剣ムーブか。
「……最も危険度の高い人物?」
カインはミレーユと見当だてる。
【はい。ミレーユです。彼女は、カイン様を実験対象として見ていますので、その認識を修正します】
「どうやって?」
【簡単です! カイン様のHPは30しかありません――】
「あっ! オレが簡単に壊れてしまって実験ができない状態にするってこと?」
その結果にたどり着いたので、話を遮って意見を述べる。
【半分正解です。その認識をミレーユの脳に直接、深く、刻みます】
…………今なんて言った?
「直接脳に刻む」って言ったよな? しかも、「深く」って。
その発言に、カインは驚き、開いた口が塞がらない。
「……へ?」
【具体手には――】
その声は、どこか楽しげだった。
【――先ほどと同様に結界を拡張展開し、ミレーユの認知型に働きかけるのです。彼女の認知型は、刺激に対して極端な反応を示す傾向があることが分かっています】
「……それって、洗脳じゃない?」
【いえ、あくまでも働きかけ、“事実を正しく理解”して頂くだけですので!】
否定の文言はそこになかった。
サブは、さらに続ける。
【ミレーユは「神名というのは、神のみが授けられるもの」という認識ですので、カイン様は彼女にとっての唯一無二なのです。壊れたら、“ただの観察対象”に成り下がります】
「……つまり?」
【実験対象よりは安全です!】
自信のこもった声にオレの意思は折れた。
「比較対象が良くない」事実に突っ込むことをやめることで。
サブは、締めくくる。
【まずは、ミレーユの“興味のベクトル”の向きを変えましょう。これが、カイン様の生存率をもっとも高める第一歩です!】
こうして、今後の方針が決まったのだった。
――その影で聞き耳を立てている者が居るとは知らずに……。
―――――――――――――
カイン(サブ)が結界を展開した頃。
次男であるルードは、家中に広がる微かな変化に不安を覚え、その原因を探っていた。
(父上、母上は特に異常はない。フェリスも僕の隣にいた。こちらも変な動きはしていない。ならば、ミレーユか?)
そう思い、ミレーユの部屋の前に行く。
だが、ミレーユはすでに外出しており部屋にはいない。
(商会の人間は?)
不安要素はすべて排除してゆく。
こちらも、普段通りに商会の営業をしている。
いつも通り、取引は順調で何かしらの不安も覚えない。
(侵入者か?)
しかし、家中に広がる微かな変化だ。一般の侵入者にそんなことはできまい。特段変な侵入者なんかは、僕では対処不可能だ。フェリスに頼るなら、情報を精査してからだな。
それでは……、最後の可能性。
(信じたくはないが、カインか……)
しかし、カインはまだ三歳児だ。僕たちのように働くことはおろか、しっかり喋ることすら……。
でも、カインは神名を受けた人間だ。何かがあっても可笑しくは無い。
ルードは冷徹に単調に自分の持ちうる情報と経験を比較し、その可能性を否定しない。
カインの部屋の前に足音無く近づく。
その動きは、叩き込まれた隠密術だ。
それを駆使し、完全に気配を消していた。
部屋の前で構えていると。
「ちょ、ちょっと待った!」
サブの解析が終わり、結果を示そうとしていたときの声だ。
それがルードに聞こえてしまう。
(……? カインが流暢に喋っている?)
ルードは身体が動かない。
開いた口が塞がらないというやつだ。
「今の……何?」
「解析って……そんな一瞬で?」
その声は、誰かと喋っているような気もする。
しかし、カインは部屋に一人だ。
(これは、最後まで聞き取っておかなければ……)
ルードは、(サブとの会話時の)カインの独り言を最後まで聞いたのだった。
♦
(ミレーユとの接触か)
最後まで聞き取ったルードは、自室に戻る。
羊皮紙に書いて、フェリスに見せるためだ。
その途中でミレーユとすれ違い――
ルードの背筋に、理由のわからない寒気が走った。




