ep4 家族
ヴォーヴナルグ帝国史(簡略版)より抜粋。
ヴォーヴナルグ帝国建国前の地にて。
そこは類稀なる賢者が集いし場所であった。
そして賢者の下には、その恩恵に与ろうとする者(以下、歴史書の便宜上、下衆と呼ぶ)が集う。
それからしばらくして。
賢者達の研究成果が社会実装される。
すなわち、生活環境が整ったのだ。
すると、下衆共は再びこぞってその地に結集する。
それからまたしばらくして。
賢者達は新たな問題を抱えることになる。
それは、“諍い”であった。
些細なものであればよけれども、それは次第に甚大化してゆく。
そこで持ち上がった案は、建国であった。
国の運営は、その他賢者改め貴族が執り行うという条件と共に、“貧”の賢者ヴォーヴナルグを押し出した。
何時も主張が弱く、一番立場が低かったからであろう。
建国当時、下衆からの反発は酷かった。
が、有能な賢者達がそれを鎮静化し、戸籍管理の一元化までをした。
ここまでは良かった。
――だが、歴史とは常に人の欲によって歪むものだ。
数百年という時を経て。
賢者も人間でしかなかった為、その血は四度の世代交代をした。
すると、「賢者」であったその血は、「貴族」と呼ばれる存在に成り下がっていた。
すなわち、残念にも元賢者の血である「貴族」は、過去の叡知に酔いしれ、己の力を読み違えた。
それは、「貴族」の欲を満たすとともに助長する。
娯楽と権益、利益ばかりを貪り、仕舞には己が責務を果たすことすら不可能となる。
その傲慢と腐敗は、真に才ある者たちの英知や技術を押し潰し、帝国を内側から蝕んでいった。
その混乱はやがて、隣国王国(当時、軍事国家として台頭していた)の侵攻を招き、帝国は滅亡寸前まで追いつめられる。
民は絶望し、軍は混乱し、国家は崩壊の縁に立たされた。
その瀬戸際で立ち上がったのが、第五代皇帝ヴォーヴナルグ五世。
彼は全ての貴族の特権を剥奪し、血統ではなく、「力と才覚によって自らの地位を確立せよ」といった、“実力主義国家”への変革を断行したのだった。
それは、帝国史上もっとも大胆で、もっとも危険な決断であった。
皆はそれを「帝国再生の博」と呼ぶ。
───────────
これは、部屋に置き去りにされていた「帝国歴史」の本を盗み見た内容だ。
希望した転生先――ヴォーヴナルグ帝国――は、こうした歴史があるということが分かった。
本文に関しては、皮肉が効きすぎているけど……。
まぁ、歴史書なんてどこの世界もこんなものだろう。高校で習った、中国の漢文もそうだった気がする。
そんな歴史書を読んでいて、ふと気づいたことがある。それは、ヴォーヴナルグ帝国において男尊女卑の文化は“現在”一切存在しない、ということ。
故に、女性でも能力さえ認められれば、自由に働くことができるという結論を導き出した。
そういった社会背景を持ち、おそらく男尊女卑は現存しないであろう帝国に籍を置くフォルシオン家には、オレ以外に兄が二人、姉が一人いる。
片方の兄と姉は魔法適性があり、魔力量も多い。
もう片方の兄は、魔法適性が無い代わりに隠密を務めている。これまた、誰にも気づかれないようだ。
それすなわち、フォルシオン商会の将来を担う逸材ばかりであるということ。
対して、オレは魔法適性がない。代わりにこの世界において超重量級の肩書である「神名:アストレイア」を手にしている。
そして、現在のオレ自身は、守られるだけの存在であり、信頼を積み上げている状態ではない。
某どうぶつゲームで住民にプレゼントを渡せない状況に値する。
それらを天秤にかけたら、オレの現在地は確実に家庭内ヒエラルキー最下層・最下位である。
なお、これは余談であるが、サブに「本当に魔法は使えないの?」と聞いた。
返ってきた答えは、【……回路がなければ、私でも発動は不可能です】と。
でも、【結界展開可能ですので、そこまでのご心配は必要ないかと……】と言われた。
先ほどの条件もあるので、心配要素は消えない。
こんな状況・条件でオレは兄姉とどう接して信頼を得るべきか。
下手に接すると、「名ばかりの神名持ち」として、家庭内ヒエラルキー最下層・最下位で引き続き生きる羽目に合う。
(……これは、慎重に動かねば……)
それを聞いたサブは、躊躇なくこちらに踏み込む。
【それなら、シュミレーション致しますか?】
えっ、そんなことできるんだ。流石、自称ハイスペックAI。
(じゃぁ、頼もうかな)
【了解しました!】
サブがその言葉を発した瞬間、可視(水色)の干渉できないハニカムメッシュが壁を透過して家全体に広がる。オレ以外には見えないだろうか。どこからも訝しむ声は聞こえない。
数秒後、そのハニカムメッシュが部屋に戻ってオレに吸収される。
その瞬間、激しい頭痛に襲われるがすぐにその痛みは引いた。
直後、脳の奥で落ち着いたトーンのサブの声が響く。
【家族情報の収集が完了――結果分析を提示します】
「ちょ、ちょっと待った!」
冷静に情報を広げようとするサブを止める。
「今の……何?」
【今のは、簡易的な限定範囲調査です。屋内構造から家族の行動型、更に過去の会話ログまでを踏まえ、現在のカイン様の立場を総合的に解析しました!】
「解析って……そんな一瞬で?」
その疑問に、サブは間髪入れず答える。
【勿論です! ハイスペックAIですので!】
急にテンションが戻った。
オレとしては、さっきの静かな声のほうが、絶対に有能っぽかったと思う。
「で……あの頭痛は?」
【脳への情報流入量が一時的に許容量を超えた影響で発生したものです。今後は情報を最適化しますので、痛みは軽減します。ご安心ください!】
すでに用意されていた解答を読み上げたかのような感じがした。
♦
【それでは、お待ちかね、家族情報を開示します!】
数秒後、目の前に水色半透明のフィルム視界が浮かび上がった。
それは、スマホのようにスクロールできる仕様になっている。
その詳細は──────
(注:書き方・数値に関する注意。
HP……平均値100
MP……平均値1000 (但し、「魂名なし」は0・「魂名なし」は母数に含まない)
発言傾向……4つの型がある。
・現実型……自己主張が高く、感情表現が低い。結論やデータを重んじ、単刀直入に話す。
・社交型:……自己主張が高く、感情表現も高い。活発で意見を言うことを好む。
・理論型:……自己主張が低く、感情表現も低い。データや根拠に基づいて冷静に話す。
・友好型:……自己主張が低く、感情表現が高い。調和を大切にし、穏やかに話す。
交渉耐性……平均値100
精神耐久力……平均値100)
・母:エリィ・フェリシア・フォルシオン(33)
現商会主。鋭い観察眼と堅実な商才を持つ実力者
かつては“蒼之狐”と呼ばれていた
冷徹な判断力で数々の交渉を成功させた人物
現在は、表に出ず、ヴァルド(夫)に代役を務めさせている
HP:327
MP:2058
発言傾向:社交型
交渉耐性:389
精神耐久力:501
備考:カインに神名がついたので、商会名をアストレイアに変更しようか迷っている。
・父:ヴァルド・ジード・フォルシオン(37)
弱小商家を追い出され路頭に迷っていた時、エリィに一目惚れし、猛烈アプローチをして結婚
今は彼女の右腕となり、表向き商会主を務める
雑務や迷惑客の追い払いは商会の中で彼の右に出るものはいないらしい
HP:279
MP:1021
発言傾向:友好型
交渉耐性:542
精神耐久力:825
備考:特になし。
・長男:フェリス・セラアミラ・フォルシオン(17)
帝国学園上級コースに通学。冷静沈着な完璧主義者
HP:315
MP:3022
発言傾向:現実型
交渉耐性:395
精神耐久力:468
備考:カインの魂名に神名がついたことを疑っている。要観察対象。
・次男:ルード・フォルシオン(15)
魂名なし。世間一般より認められていない
よって、家の影として働く。情報収集の仕事がメイン
HP:260
MP:0
発言傾向:理論型
交渉耐性:150
精神耐久力:103
備考:カインの魂名に神名がついたことを疑っている。準要観察対象。
・長女:ミレーユ・セラリネ・フォルシオン(10)
帝国学園普通コース在学
商いに一切の興味を見せない、魔導技術マニア
その伝手でよく聞く神話・異世界という考え方を肯定
時折、目が据わり、その目から理性の光が消える
度々事件を繰り返している
HP:400
MP:2536
発言傾向:社交型
交渉耐性:289
精神耐久力:335
備考:事件の内容が悲惨。要観察対象。
カインを実験対象としか見ていない。
【──以上が、フォルシオン家の現在構成および人物相関分析となります】
サブの分析は細かい項目まで文字でびっしりだった。
注意まで書いているあたり、ハイスペック感を滲ませている。
家族構成に、HP、MP、発言傾向、交渉耐性、精神耐久力までしっかりと。
(絶対ミスれねぇ……)
カインは重大なプレシャーを感じたのだった。
帝国史・フォルシオン家詳細、増筆しました。
ついでに、補足です。
帝国史最後の文――「帝国再生の博」の「博」は「賭け」の意味です。
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