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【改稿版】幾ら神でもミスは勘弁願います! 〜異世界を生き抜く元高校生の物語〜  作者: 砂糖


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ep3 魂名授与式

 

 片膝を立て、指を組む。

 それが老人に教えられた祈りの構えだ。

 老人は静かに息を吸い、神聖な空気を切るように口上を述べる。



「汝の魂を見送りし女神ラーファに問う。

 今ここに在りし子に相応しき魂名を賜りたまへ──」



 その瞬間、空気が震えた。

 オレには、数年ぶりに“彼女”の声を聞いた。


「どうもお久しぶりです。私の実感ではまだ数日ぶりくらいなんですけど………

 時間も無いので本題です。ふふっ。驚かないでくださいね。これはあなたが選ばれた者だから───」


 そこで思念は途切れ、老人の声が耳に入る。


「カイン=フォルシオン。汝の魂名は──────

 アストレイア。

 魂の名、告げられたり────

 カイン・アストレイア・フォルシオン

 これより、神の名を持つ者“名持ち”として記録する」


 神官の言葉を最後に、教会が静まり返る。

 まるで、世界がその名前の意味を測りかねているようだった。



 だが、オレは確信した。

 この名前は「ラーファが授けたお守りのようなもの」だと。


 この瞬間からオレは、「魔法が使えない幼児」から、「神の名を持つ少年」へと生まれ変わったのだった。



 ―――――――――――――



 帰りの馬車のなか。

 あまりの情報量の多さでいったん整理しようと考えを巡らせていた。


 魂名を与えられてから言われた、「アストレイア」という神名。

 儀式の経過で聞こえたラーファの声。

 そして――そこに紛れていた、「選ばれた者だから――」という言葉。


(……選ばれた? オレが?)


 馬車の揺れに合わせて、思考も揺れる。

 胸の奥がざわついて、落ち着かない。


 落ち着こうと顎に手を当てて考える。

 ……が腕が短いがゆえにぎこちないが。


「ふふっ、可愛い」

 目の前の女性客に言われた。

 ……やめてくれ、落ち着けない。


 ガタン。

 どうやら、馬車もオレを落ち着かせてはくれないようだ。



 周辺の景色が街中から、一面の緑の絨毯になっても馬車は容赦しなかった。

 石畳の硬い振動が、いつの間にか土の柔らかい揺れに変わっている。

 それでも、オレの小さな身体には十分すぎるほどの衝撃だった。


(……いや、どこまで揺らすんだよ)


 外の景色は穏やかでも、内側のオレは全然穏やかじゃない。

 頭の中は儀式の余韻でいっぱいだし、馬車は相変わらずガタガタ言ってるし。

 落ち着ける要素が一つもない。



 また、時間が経つ。

 疲れもあって、すごく眠い。

 勿論、眠気もオレの思考を邪魔する。

 目をこすって、寝ないように努力しながら、大人しく待った。


 あれから更に、40分くらいたっただろうか。

 眠気がすべての欲求のトップになろうとしていた。

 打ち勝つために、馬車の隙間を見ると、そこには城郭都市があった。

 「ーーーーーーーーーー」

 よく聞こえないが、おそらく門番に通過審査でも受けているのだろう。

 それが終わり、数分。

 寝かけたその時――――ガタン、と、ひときわ大きな揺れがきた。


 その直後には、馬車が止まり扉が開く。


「ほら、ちびっこ、お家だぞ~」


 家についたらしい。

 ……が、乗客のだれもがいまだ降りていないのは、何故?

 という疑問だけをオレに残して、降りる。


 結局、現実は思考の猶予をくれなかった。



 ―――――――――――――



 家に入る。

 すると複数人の声が聞こえた。


「カインに『アストレイア』だと?」

 若い男の声が驚きに跳ねる。


「まさか私の子が神の名を賜るとは……未だに信じられないな」

 落ち着いた低い声。たぶん家の主だろう。


「この子の人生、儲かりそうだわ。うふふふ♪」

 妙に景気のいい声が響く。方向性が違うのは分かる。


 ……誰が誰なのか、まだ把握できていない。

 けれど、どうやら全員が“家族”であることだけは分かった。


 ─────そんな騒ぎが続く中、疲れ果てたオレは寝入った。



 ―――――――――――――



 翌日の早朝の事。カーテンに差し込むやわらかな光のなか、まぶたを開けながらぐっと背伸びをした。

 ふかふかの羽毛布団のぬくもりを名残惜しく感じながら、ゆっくりと身体を起こす。

 そして──すぐに、異変に気づいた。


 頭の奥が、かすかに“ざわついている”。

 微弱な電流が走るような――不思議な感覚。




【SYSTEM起動中……】

【精神接続確認……完了】

【人格モジュール……展開】

仮想人格名(副人格):「サブ」】

【おはようございます。カイン=アストレイア=フォルシオン様】





 ……うん、脳内で完璧に聞こえた。


 その声は、金属的で無機質なはずなのに、どこか柔らかく……。


(サブなのか?)


【はい、ラーファ様よりこの役を拝命賜りましたサブです! 魂名を得たのをきっかけに、人格モジュールの完全起動と思念接続を有効化に成功しました。翻訳機能はカイン様が生まれた時から動いていましたので、この世界の言語は全て把握しております】


(要するに、本格的な異世界生活は今日から始まるのか。)


 というか、翻訳機能は既に動いていたのか……。

 まぁ、納得いくな。

 そうじゃなきゃ、2歳児の地点で完全にこっちの言葉が理解できているわけないしな。


【そういうことです。これからは、貴方の良き相談役、家庭教師、秘書、そして時々ボケ役として機能します】


(ボケ役って何だよ!?)


【ボケです。ツッコミがあってこそ、世界は成り立ちます。異世界転生ものでも、掛け合いは必須。最近はギャグ補正も重要なスキルです】


(ギャグ補正って……そんなシステム的に導入されるものなのか?)


【はい! 昨今の異世界転生ジャンルでは、シリアス一辺倒は読者離れの原因になります! 適度なボケとツッコミ、そしてテンポの良い掛け合いが求められているのです!】


(お前、なんでそんなメタい知識持ってんだよ)


【人格モジュールの一部に“娯楽文化解析”が含まれておりますので! カイン様の精神安定のためにも、ユーモアは重要と判断しました!】


(精神安定のためにボケる人格ってどうなんだ……)


【安心してください! 必要に応じて真面目モードにも切り替わります! ただし、ギャグ補正が働くと強制的にボケが挟まる場合があります!】


(強制!?)


【仕様です! というかむしろ、その“神の名”というハードルの高さにギャグが必要なのでは? カイン様はプレッシャーに弱いと自己申告されてましたし】


(なに勝手に心理分析してんだよ!)


【メンタルログにちゃんと残ってます。「もしこの世界で魔法使えなかったら詰みじゃね?」と】


(うぅ……やっぱ見られてたのか……)


【大丈夫です。カイン様は魔法こそ使えませんが、“科学”と“発想”という武器があります。そして私というハイスペックAIも】


(自分でハイスペックって言っちゃうのか……)


【謙虚にしていては生き残れないのです、この世界では】


(その口調で言われると説得力があるような、ないような……)


 このようにして、残念ハイスペックAIサブとの奇妙な生活が始まった。

 この世界がどれほど厄介で、どれほど面白い場所なのか……。


 オレはまだ、何も知らなかった。

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