第8話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
残った大男の表情は険しくなり胸元からナイフを出し右手に握った。
それを見たスタンは警戒しながらゆっくりとファイティングポーズを取った。
フリーダはスタンを今の所見守っているようだ。
大男はナイフを器用に回し果敢にスタンを攻めている。それをスタンは機敏に避けてはいるのだがキリがない。
筋力的には大男に軍配が上がってしまうため、ボディを責めるよりは頭部を攻めることで勝負が付くことになるだろうと思ったようだ。
スタンは何故か通りに面している大きな窓がある家に意図的に後退りしていたのだった。
それを見た大男は『あいつ!怯んで後退りしてやがるぜ! 俺が有利に進めているぜ!』と思ったようである。
家のそばに押されて来た時点で、スタンは腰の位置にある窓枠の縁に咄嗟に飛び乗り、そこを踏み台にし思いっきりジャンプしたのであった。
そして宙を舞いながら強烈なキックを大男の顎にかました。
それをまともに喰らった大男は呼吸困難に陥り、呻きながらその場にバタンと大きな音を立てて倒れたのだった。
スタンは大男の上に跨ると、「本来ならここでいつもはトドメを指すんだが、あまり店に迷惑をかけたくないからな。お前、ついてるな!今後は2度と彼女にちょっかいを出すなよ!! 次は命はないぞ!!」と冷静かつ太い声で脅すと、何事もなかったようにフリーダと消えて行ったのだった。
「スタン!すごかったわ!あんな大男と素手で戦って倒しちゃうなんて!さすが私のボディーガード!!」と嬉しそうに労っている。
「魔獣や魔物相手だと良心の呵責はないんだけど・・・人間相手だとどうしても・・・」
「まあ、普通そうよ、でも、あなたがそういう人でよかったわ。」とフリーダがスタンに寄り添い腕を絡ませてきた。スタンは一瞬驚いたのであるが、酔った勢いであろうか?と彼女の好意を素直に受けることにしてそのまま2人で寄り添いながら夜道を歩いていった。
「ねえ、今のこと忘れたいから他の場所で飲み直しましょうよ!」というと、フリーダは小洒落たバーに入って行った。
「大丈夫よ!ここは私が払うから。心配しないで!」と言ってワインを2つ頼んだのだった。
「こんな少しのお金に心配しないような境遇になりたいな・・・」
「きっと、私たちならなれるわよ!お互い頑張りましょう! しかし、今夜は本当にありがとう!お陰であなたの私に対する忠誠心が確認できたわ!命を張ってくれるなんて。」
「まあ、護衛が仕事だからね。」
「でも、今回のことで私決めたわ! 無事王都の魔法科学院大学に入学ができたら、あなたを使い魔枠で申請することにしたわ。そうすれば使い魔も学生同様一緒に私の隣で学ぶことができるのよ。」
「使い魔!?それって人間でも可能なのか?」
この場面からは2人の距離はいきなり縮まり、すでに仲が良い男女の会話となっていた。
「ええ、契約の儀式を行えばね。魔法で正式な主従関係を結ぶの。でも私はあなたの主人になるから私の命令は絶対になるんだけどね。」と少し意地悪そうな表情で笑っている。
「そうなんだ。それは永遠に?それとも期間があるのかな?」と少し警戒した表情に変わった。
「期間は決められるわよ。でも解消したいときは解消できるわ。私は悪魔じゃないから安心して!」
「なるほど・・・」
「あなたもさらに剣術を磨いて、魔法も身につけたいんでしょ!? それにこんな美貌の私と同じ部屋で一緒に生活できるのよ!」と笑いながらもさらに驚くほど積極的になっていた。
『確かに。こんな綺麗なご主人様ならいいのかな・・・それで俺にも人生のチャンスも出てくるだろうし、孤児の俺にしてはまあ上出来と言ってもいいのかも知れないな』と思っていた。
「わかった!俺、君の使い魔になるよ!その代わり魔法は教えてくれよ!!」
「わかったわ!それじゃ契約成立ね!!」と嬉しそうな表情に変わった。
その時ちょうどその時頼んだグラスワインが運ばれてきたため、
「じゃ、せっかくだから私たちのお近づきのお祝いってことで乾杯しましょう!」と言い乾杯したのだった。
そして気分転換ができた2人は宿屋に戻って行った。
すでにフリーダは今夜スタンと契約の儀式をすることに決めていた。
「あなた、じゃ早速契約の儀式をするわ。その上に立って!」
「今? 本当に俺と契約を交わしていいの?」
「ええ、さっき決めたでしょ!」
「わかった。」と答えると言われたとおりにフリーダが床に描いた魔法陣の真ん中に立った。
フリーダはウォンドゥ(小さな魔法の杖)を手に持つと呪文を唱えながらそのウォンドゥで自分とスタンをなぞると魔法陣の中心を指した。
すると、フリーダとスタンの身体の輪郭を青白い光が覆い、光をまとったかと思うとスタンの胸に集中しあたかも心臓部分に染み込んでいったような幻影が見えた。
「はい、これで契約成立よ! 今からあなたは私の使い魔よ!」
「何も変わった感じはしないけど・・・」
「まずは私の言葉に対して従順になるのよ。あなたは私に対して逆らえなくなるの。」
「まあ、それはそもそも執事で護衛だからそうなんだろうけど・・・」
「一緒にいればそのうちわかってくるわよ!」
そして、2人は何故か無言でダブルベッドを前に立っていた。
「俺は床で寝てもいいんだよ。」
「いや、今日も戦ってくれたし疲れてるんだから可哀想よ!
もう私の使い魔だし、あなたを信じてるから絶対に変なことはしようと思わないでね!!」
「ああ、俺はこう見えて紳士だぜ!安心しなよ! 君はこっち 俺はこっち側でねればいいだろ?」
ということで、無事一つのベッドで寝ることになったのだった。
そしてスタンは気を使いベッドの端でフリーダとは逆向きに横になった。
すると美人の隣で興奮している自分がいるのを実感すると今日の出来事が色々と頭を巡って来たのだった。
『しかし、俺って本当に運がいいな・・・あのダンジョンでは何者かわからないけど知らぬ間に助けられていたしな。おまけに魔剣の双剣もらったし、そしておまけに冒険者ギルドでは俺を思ってくれたエルザさんに特別枠のクエストを世話してもらって、それで今こうしてここにいるってわけだ。』
同じブランケットを被って隣で寝ているフリーダの温もりを感じながらドキドキしながらも『それに・・・こんな美人の執事兼護衛になれるとは・・・俺の守護神なのか?神様なのか?わかないけど感謝しないとな!』と思うと不思議と安らいだ気分になり疲労のためいつの間にか寝てしまったのだった。




