第6話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
スタンは明日出発のため、冒険者ギルドに出向き契約証をもらわなければならないのだだった。
『そうか、エルザさんにどういう顔で会えばいいんだろうか・・・』と昨晩の出来事を思い出していた。
日も傾き始めていたためスタンは急いでギルドに向かった。
ドアを開けて、中に入ると正面受付にエルザの姿が見えた。
スタンはエルザを見つめると、顔を赤ながら緊張した面持ちで前に立ったのだった。
「あら、スタンさんじゃないですか!?防具を揃えたんですね!!」と昨晩の出来事はまるでなかったかのように、いつものように振る舞っているエルザがいた。そして、冒険者を相手するようにいつもの眼差しでスタンを見ていた。
『あれ?やっぱりあれは夢だったのかな・・・』とも思ってしまった。
「あっ、エルザさん、明日からの護衛の契約書を受け取りに来ました。」
「はい、ご用意してありますよ。少々お待ちください。」というと裏に消えていった。
暫くしてギルドマスターと一緒に戻ってきて契約書を渡した。
「スタン君、準備万端のようだな?」
「あっ マスター、武器屋でこの長鞭を購入したんですが、所持金が足りなくてツケにしてもらいました。ギルド経由でそれがきますので僕の報酬から相殺しておいてください。」
「お、そうか!? 鞭だと??」
「はい、これです! ミスリル製とか?」と言いながらマスターに見せた。
マスターは何やら思うところがあるようで手を顎にやりながら考え込んでいるようである。
「ちょっとこの鞭見せてもらえるかな?」というとその柄を持って柄の先を覗き込んだ。付着物があり布でそれを除去するとガラのようなものが現れたのだった。
「やっぱりな!」
そこにはなんとロマン文字のMが刻印されていたのである。
スタンは驚いた表情をしたのだが、同じ紋章が双剣にもあることはマスターには言わなかった。
「昔の話なんだが、この紋章を使っていた者がいたんだ。強力な魔術を使う魔導師だったとかで、確かマーリンとか言っていたと思う。彼が持っていた強力な双剣とこの鞭も魔道具の一つで逸話によると魔族を狩るとか・・・そんな話を聞いたことがあるな。」
「魔族を狩る?? 魔族なんかいるんですか? じゃこれも魔道具なんですね?」
『双剣って、俺が持ってる奴だよな。これもマーリンとかいう伝説の魔導師のものなのか!?』
「多分な。単なる逸話かもしれん。」
「でも、そのマーリンとかいう人は?」
「伝承の中では、すでに人間の生きる年齢は過ぎているんだが神出鬼没なんだとか!?謎の人物なんだ。エルフという噂もあるが・・・
まあ、とにかく、その鞭を使うときは気をつけてくれよ!不適合者は魔道具に吸い込まれるとかいう話もあるからな。」
その話を聞いたスタンはヤバいものを手にしてしまったのか?とも思ったが、その物自体を触っている時点では不気味な何かを感じ取ることはなかった。とりあえず偶然双剣とセットだということなので所持することにしたのだった。
そして、ついにクエストの日が来た。
スタンは早朝男爵の城に向かい、例の門番に挨拶をすると門の中にはすでに小型の馬車が用意されていた。
1頭立てで車輪が左右2つのみ付いた馬車であり、2人乗り、そしてその前には御者が座る場所があるものの、屋根は蛇腹の幌のようなもので半分覆われているだけであった。
『男爵は裕福ではないとは聞いていたがここまでなのか・・・』と実感する粗末な代物であった。
スタンが御者台に乗って待っていると、まさに貴族の令嬢のような豪奢なドレスを着たフリーダ嬢が姿を現した。
「おはようございます! ではレーゲンブルクを出発しましょう! ではスタンさん、宜しくお願いいたします!」と意気揚々として見えた。
そして彼女は革製の旅行用の大きなバッグを馬車後部の外側のフックに引っ掛けると馬車に入ってきたのだが、2人乗りとはいうものの彼女のドレスが広がり実質1人乗りのサイズとなっていた。
「天気が良くて良かったですね。では出発してもよろしいですか?」とスタンが言うと、
「お父様は出てこられないので出発しましょう!」と言い、門番に挨拶してから馬車は動き出した。
王都までは2晩かかるのだが、すでに途中の宿場2ヶ所には宿の手配が済んでおり、スタンとしてはこの小振りな馬車を制御して例の噂の峠道を無事通過すれば仕事が終わるようなものであった。
まずは気持ちよく晴れた青空の下、緑の野原の真ん中の一本道を軽快に進んでいる。
2人は暫く黙ってその風景を眺めていたが、フリーダがその沈黙を破ったのだった。
「スタンさん、故郷はどちらで?」
「故郷ですか? 俺は孤児なので、片田舎のバール村と言われる修道院で育ちました。そこでは、孤児が社会で活躍できるようにという計らいで剣術や魔法も習っていたのです。」
「それで剣がたつのですね?」
「そうですね。他にやることがなかったので剣は好きで一日中振るっていましたね!」と言いながら昔を思い出しつい笑ってしまった。
「魔法の方は?」
「実は魔法があまり・・・使えるようになりたいとは思っているのですが・・・」
「多分、魔法の方は良い先生に出会えなかったのかしらね?」と考え込んでいるようである。
「では、スタンさん!私があなたに魔法をお教えしましょう!魔法は得意なんです。それで魔法科学院に行って鍛えたいと思っているんです。」
「えっ、教えていただけるんですか?」
「その代わり、私に剣術の稽古をつけてください!」
「交換条件ってことですね! いいですよ!」と2人は笑っている。
この気難しいと言われているご令嬢は何故か不思議とスタンには素のまま接してくれるのである。
「私は、父が病弱のため、その領主の娘ってこともあり、あまり町人を寄せ付けないようにしていたんですが、それが功を奏してと言ったらいいのでしょうか?『気難しい娘』という二つ名をもらっているのです。
そんな話聞いたことがあるのでは?」と彼女の方から聞いてきた。
「はい、ギルドで聞いたような気はしますが、僕はあまり人の噂は信じないようにしているので。」
「そうなんですね!それはありがたいですね!あなたとはこれが縁で長いお付き合いになることになるので・・・」
「なんか、俺が言うと失礼になるかもしれませんが、お互い似た物同士なんでしょうかね!?」
「やっぱり!!」フリーダが興奮してそう答えたのだった。
「私、あなたを初めて見てそう思ったんですよ。そして確認のためにお手合わせしてみたら、やっぱり思った通り剣筋が正直な方だったので、あなたに護衛をお任せすることにしたのです。」
「それはそれは、ありがとうございます!なかなか孤児ということだけで敬遠する人が多いので・・・」
というような、礼儀正しくも打ち解けた会話が続いていた。
そして、緑の丘が連なる牧歌的な風景から家が立ち並ぶ街の風景に変わってきていた。
そろそろ今日の目的地のマイハイムに着く頃なのだ。その後は彼らはローベックでも泊まり、ガッセルを抜けると王都ブリンデンブルクが終着点となるのだが、ガッセル山を抜ける際にその悪名高き峠を通過しなければならないのだった。
「そろそろですね!」
「ええ、マイハイムね!」




