第3話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
宿屋のおばさんに言われた通りに食堂の奥にある小さいテーブルに座った。
すると今度はエプロンをつけた同じおばさんが来て、「料理は決まってるんだけど、飲み物はなんだい?エールかい?」と聞いてきた。
「はい、エールをジョッキでお願いします。」と言うと、「はいよー!」と言ってと行ってしまった。
暫くして若いウェイトレスの女性がジョッキとここの郷土料理のようなものを持って現れた。
雰囲気がいい女性であった。
『ここの町の女性ってレベル高いなー』とか思いながら、「ありがとうございます!」と言い受け取った。
そのウェイトレスはニッコリを微笑みまた他のテーブルに行ってしまった。
肉が入った煮込み料理のようである。
まずは、空きっ腹にエールをゴクゴクと流し込み、料理を恐る恐るつついてみた。
『えっ この郷土料理見た目のエグさと違ってうまいじゃん!!』
気が付くと無我夢中でがむしゃらに食べていたのだった。
そこに彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
「スタンさん!ねえ、スタンさんてば!!」と何度も呼んでいたようである。
気がついて振り返ると、そこには見たような顔が立っていた。
『えっ、どこかで見た顔なんだけど・・・』思い出そうとしている。
刺繍が入った綺麗なペザントドレスを着た女性が立っていた。
髪はブルーネットでセンターパーティング、色白でブラウンの瞳の若い女性であった。
「え!! もしかしてギルドのエルザさん??」
「そうですよ〜! もう忘れましたか??」と言いながら口を尖らせていた。
「いえいえ… 服が違ったんですぐにわからなかっただけです。しかし、受付嬢の制服もお似合いですが、こう言うドレスも凄く似合いますね!!」と褒めながら誤魔化そうとしている。
「あら、そうですか!? スタンさんはどっちがお好きですか?」
「… どっちも綺麗ですよ!」と少し顔を赤らめた。
「それはそうと、私がここに来た理由なんですが、スタンさんが受ける護衛のクエストの件なんです。」
「何か問題が??」
「その前に私もここで夕食をとってもいいですか?」
「えっ もちろんですよ!」と言って先程のウェイトレスを呼んだ。
エルザもエールのジョッキとスタンと同じものを頼んだ。
「実は、ここだけの話なので、ギルドでは話せなかったのですが…」
「そういう話ですか、わかりました。お願いいたします!」
「この話が決まると、スタンさんは男爵令嬢のフリーダ・フォン・アルデンヌ男爵令嬢の護衛となります。」
「はい、それはわかっています。」
「男爵は病気を患っていまして、この領地の細かいことは執事に代行させているんです。それが原因で男爵家はあまり貴族の中でも裕福ではなく、とはいっても、今回の学長面談で特待生入学が決まれば、ご令嬢は王都の寄宿学校に住む事になります。」
「はあ」
「そして、貴族社会のしきたりで、ご子息ご令嬢が大学に寄宿する際にはメイドもしくは執事などの世話役が必要になるんですが… フリーダ嬢は器量もいいのですが、男勝りの積極的な方でご自分が気に入らないとダメな方なんです。」
「つまり、今夜の面接の時にはその令嬢にうまく取り入れと言う事ですよね?」
「それもそうなんですが、そのクエストが決まった際には、多分スタンさんは御者や護衛だけではなく引き続きその執事候補となると思われます。」
「えっ、そうなんですか? 執事なんて俺ができるのかな??」
「まあ、執事という名称ではありますが、主な役割は令嬢と一緒に行動し世話役みたいなものなんだと思います。学園といってもいろいろあるようですから。」
「なるほど・・・」
「つまり、私が説明しておいた方がいいと思った事なんですが、」とエルザは本題に入った。
「王都の魔法科学院大学はこの世界屈指の魔法と戦術を学べるところなのです。通常は本人しか学べないのですが、実は、貴族の子弟においては執事やメイドなどの付き添い人もご主人の隣に座り一緒に学べるのです。」
「へえーそうなんですか? 俺も剣を磨くのもそうなんですが、魔法が学べれば助かると思っているんです。」
「やっぱりそうでしたか!? そうすればスタンさんのこれからの冒険者としての人生も幅が広くなるのかと思い、ぜひそれを実現してもらえたらというのが私の思いなのです。」
「なるほど!そういう事だったんですね!? ほんとうに有難うございます!! エルザさんって優しい方ですね!」とにっこり笑った。
「つまり、今夜の面接でうまく行けば、俺の人生はその令嬢の護衛として魔法学校で学べるって事ですね!?」
とスタンの疲れ切った表情にやっと笑顔が見えたのだった。
2人は食べ終わると席を立って、エルザは帰宅し、スタンは2階に戻り面接のためにシャワーを浴びることにした。『なんで、エルザさんはそこまで親切にしてくれるんだろう…』と思いながら。
そして、スタンは約束の時間前に再度ギルドに姿を現した。可能な限り小綺麗にして双剣を背中に背負っている。
「おー 定刻前に来たか! それじゃ行くぞ!エルザから説明は聞いたか? 頑張れよ!!」と、
スタンはマスターと一緒に暗闇の街を歩いて二の丸の城門まで来た。
マスターが城の衛兵に挨拶をすると、人間用の小さい城門が開いて衛兵が案内をし城の中に入っていった。
「アルデンヌ男爵!失礼致します。例の冒険者を連れて参りました。B級冒険者で腕は立つ若者です。」
「おーよく来てくれた。」と男爵本人が迎え入れてくれて2人を応接の間に案内した。
『確かに・・・普通、執事が俺たちを応接の間に案内して、そこでやっと城主の登場となるんだろうが・・・』とエルザが言ったことを思い出したのだった。
城内は夜であるからだろうか?大きな館は静まり返っており、先程の門番とこの男爵本人しか見当たらないのである。
そして、やはりエルザの話の通りに男爵は痩せほそり病にかかっているガウン姿であった。
質実剛健的なイメージの無骨な城であるが、この応接の間は歴史を感じる豪華な内装であり猫足のチェアが奥に2脚手前には3人掛けのソファの配置である。
男爵が奥の1人掛けに座り、スタン達は手前のソファに座った。この応接間には歴代の当主の鎧が展示してあった。
しばらくすると、反対側のドアにノックがあり、噂のご令嬢がドアを開けて入ってきた。
「失礼致します。夜分遅くお越し頂きまして有難うございます。フリーダと申します。」と礼儀正しく挨拶をすると男爵の隣の1人掛けチェアに座った。
肌の色が透き通るように白く赤毛の細身の綺麗な少女であった。学生のような白いブラウスとネイビーのフレアスカートを履き大きなグリーンの目が輝いているのが印象的である。
すると、半ば緊張した面持ちでスタンは立ち上がると自己紹介をしたのだった。
「お招きいただきまして有難うございます。ご紹介頂きました冒険者のスタンリー・ケンプと申します。よろしくお願いいたします。」
すると、今度は男爵が、「娘の護衛に相応しい者を探しておる。クラウスからの推薦ではあるが、一人娘を送り出す際に不手際があってはならぬので、儂のこの目で確かめないと納得がいかんのじゃ。その確認のために、今から道場に行き先程の衛兵とお手わせを願いたい。」と言った。
マスターのクラウスは、「承知いたしました。では、スタン用意はいいか?」と声を掛けると、
まさか剣の手合わせがあるとは思ってもいなかったため、エールもしこたま飲んでしまっていたのであるが断る術もないと思い、「はい、わかりました。」と覚悟を決めたのだった。




