第2話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
スタンはよろけながらも深い霧が立ち込める森を彷徨っていた。
空腹を満たすために狩りをしながら進み、焚き火で焼いた獣肉を食らって命を繋いでいた。
方向が全くわからない彼は時たま顔を出す太陽の方角を見ながらなんとなく南の方向に向かって無我夢中で進んで行ったのであった。
するとブナの大木が生い茂っていた深い暗い森から、木々がまばらな馴染みがある普通の森に変わっていった。
『この方向でいけば何かあるだろう!?』と信じて彼はさらに進んで行ったのだった。
2週間は放浪したであろうか?
やっと見たこともない町が丘の上から見えてきた。
そこは石造りの城壁で守られた小さな古い町であった。
小さいといえども、スタンが生まれ育った村よりは大きく、城壁の中には赤茶色の屋根瓦に覆われた家々が立ち並んでいた。
『よかった!諦めないでほんと良かった。助かったんだ!! この町、なんか、綺麗で可愛い町だな! 行ってみようか!』独り言を言いながらゆっくりと丘を下っていった。
スタンは野を下り平原を突っ切り城壁の城門前につくと、安心したのか?やっと服も体もボロボロになっているのに気がついた。
彼は門番の兵士に彼の身に起きた一部始終を話してとりあえず入場が許可されたのだが、身分証がない彼はまずは冒険者ギルドに再登録に行くということが条件となった。
そして、衛兵付きでギルドに行ったスタンは真っ先に身分確認のための身分証を再発行してもらい、他のパーティーメンバーの死亡も認証したのだった。
ギルドの受付嬢もその話に同情し悲しそうな表情でスタンの身になって手続きをしているように見えた。
受付嬢はやはりこの町のギルドの顔でもあるため綺麗な若い女性であり、他の冒険者からも羨望の眼差しが向けらているのがボロボロなスタンであっても感じることができたほどだ。
「私はエルザと申します。スタン様、色々とお困りでしょうから、クエストボードには貼られていない特別なクエストを紹介いたしましょうか?」
「えっ、そんなのがあるんですか?」
「スタン様はB級冒険者でいらっしゃいますし、今までの記録によると素行も素晴らしくまさに冒険者の鏡的な振る舞いをされていますね。そして今回の悲劇が起こったということでギルドとしてもスタン様が立ち上がれるためのサポートが必要であると思えます。ただ単なる受付嬢である私は判断をしかねますので、早速ギルドマスターに話を通してみようと思います。もしよければ暫くここでお待ちいただけますか?」
「わかりました、ありがとうございます。」とスタンは感謝しながらも力なく答えた。
すると受付嬢は書類を持って奥に消えていった。
暫くすると、彼女は戻ってきた。
「スタン様、ギルドマスターがお会いしたいということなので、こちらにいらしていただけますか?」と誘導し、2人は奥に消えていった。
誘導されるがままに、スタンはギルドマスターの応接室に入っていくと、
「マスター、では、私はこれで。」と言い残し彼女は持ち場に戻っていった。
「スタンくん、ここに座ってくれ」
「はい」
「話はわかった。君が入ったそのダンジョンは今では閉鎖されているんだ。その後A級冒険者達の2パーティーが捜索に入ったんだが・・・ラスボスに太刀打ちできないとの判断で、その時に君のパーティーメンバーの死亡も確認されたんだ。ただリーダーの亡骸がなかったため、食べられたのか?逃げたのか?という仮説で途中で捜査は中断されてしまっていたんだよ。」
「そうでしたか・・・」とまた涙が溢れてきた。
「彼らは俺の孤児院時代の親友だったんです。俺だけがなんで生きているのか・・・」
「まあ、気持ちはわかるが、それも何かの理由があるんだろう。亡くなった仲間のためにも君は世のために尽くして彼らの無念を晴らしてくれ! ただ、君が意識を戻した時までの経緯がいささか不明なのだが・・・」
「俺もわからないのです、気がついたら深い森の山小屋の中にいたんです・・・」
「なるほど・・・まあ、ギルドでは記憶が一時的に喪失されたという記録にしておくが、何かわかったら教えてくれ。」
「わかりました・・・」
「そこで、君のこれまでの経緯を判断して特別にクエストをお願いしたいと思う。」
「それはどんなクエストなんでしょうか?」
「実はこの町を司る男爵家があるんだが、そのお嬢様、いわば男爵令嬢という立場にある方が来週に王都にある魔法学院の学長に面談に行くことになっているのだ。馬車で行くのだが、道中危険な峠を通過するため腕が達つ御者を探していたところなんだ。その峠はかなり細い山道になるため小さな2人乗りの馬車で行かねば通行が不可能なのじゃ。君は経歴的には御者の経験もあるし、剣も達つのでうってつけな人材なのだがどうであろうか?ギャラも素晴らしいぞ!」
「なるほど・・・まあ、こうしていても親友の声が聞こえるだけなので引き受けましょう!で、いつの出発なのですか?」
「まずは、先方の面通しがある、早速だが、あまり時間もないので今夜男爵邸に連れて行くから6時の刻にまたここに来てくれ!」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」という会話でギルドを出た。
そして、ギルドの受付嬢からはクエスト分のお金を前借りし彼女お勧めの宿に向かうことにした。
「へえ、この町は小さいけど意外に栄えてるんだな〜 なんか楽しそうな雰囲気もあるし、森の中では迷ってしまって一体どうなるのかわからなかったけど命からがら運良く良い場所に着くことができたんだな!」とスタンは独り言を言いながら自分の幸運を喜んでいた。
マーケットには沢山の出店が立ち並び様々な物が売られていた。賑やかに行き交う人々は住民に混じって冒険者たちの姿もチラホラあった。
スタンがその宿屋に入っていくとカウンターに威勢がいいおばさんが立っていた。
「あのー ギルドのエルザさんの紹介で1部屋取ってもらっているスタンです。」
「ああ、聞いているよ! 前金での支払いよ!いいかい?」
「はい、これで。」
「毎度あり! この階段を登って2号室になるよ。夕食はこの隣の食堂で出るからね。すぐ食べるかい?」
「荷物を置いてきますので、すぐにいただきます。この居酒屋ですよね?」とスタンは目の前ですでに賑わっている食堂を指差した。
「そうそう!じゃ、あの奥に空いてるテーブルがあるだろ?そこに座っておくれ。」
空腹で死にそうになりながら、スタンは2階に上がり荷物を置いた。
「まあ簡素だけど、小綺麗でいい部屋だな。エルザさんのおすすめだから安心していたけど、今夜は久々に熟睡できそうだな。」と独り言を言いながら生き返った表情で階段を降りていった。
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