第11話
魔法世界に冒険者として生きる孤児であり主人公スタンリー・ケンプ。
そこに生きる人々の様々な些細な行動がまるでバタフライ・イフェクトのように世界を変えていく。
この物語のテーマとなる『ストレンジアトラクター』とは、難しくいうと・・・
カオス理論の研究の中で発見された奇妙な挙動を示す微分方程式の状態の総称のこと。
つまり動的システムが時間とともに発展する際に、予測不可能 で複雑なパターンを形成する現象を指すのです。
そんな泡沫の世界で生きるスタンリー・ケンプ
彼の目を通してその冒険譚を進めていきたいと思います。
また本編である『光と陰ー織りなす夢の形』のスピン・オフとして、本編シーズン4の最後と繋がる物語となりますのでお楽しみに!
「ごめんごめん! 俺、君の護衛だからさ、時間がある時に剣の鍛錬をしてたんだ。」
「そうだったの!? 早速女の子ナンパでもしに行ったのかと思ったわ!」とフリーダがボソッと言うと、
「えー 心外だな〜 俺のことそう言う風に思っていたのか・・・」とガッカリとした表情に変わった。
「ごめん!冗談よ! 私はあなたを見込んで使い魔契約したんだから! さあ、温泉に行きましょうよ! 私、待ってたのよ!!」
「わかった。ありがとう。でも、男女別だろう?」
「もちろんでしょ!あなた何考えてるの??」
スタンは頭の中の考えを読まれてしまったのか?と思い頭を掻いていた。
既に入浴のピーク時は過ぎており、自然の石造りの風呂の中でお互い1人っきりになった。
「夜の露天風呂って風情があっていいわね〜 月の光が湯船に映って湯煙と相まってなんか神秘的よね!」
とフリーダは隣の男風呂にわざと聞こえるように言った。
「俺はこの露天風呂って初めて入るんだ。1人だといいもんだね! 俺、金持ちになったら、こんな風呂が家にも欲しいな。」
「それはいいわね! そうなりましょうよ!!」
「えっ、まるで俺たちずっと一緒って感じじゃない!?」
「だって、そうでしょ!使い魔なんだから!」
「えっ、契約を破棄することもできるって言ってたよね?」
「お互いの承認があればね!」
「お互い・・・ってことは・・・フリーダが承認しないと俺は一生使い魔なのか??」
「あら、知らなかったの?そう言うことよ!」
「えー 騙された!!」
「でも、大丈夫! 私はちゃんとあなたのことも考えてるから、絶対私の使い魔になったことは後悔させないわよ!」
「・・・そう願うよ・・・じゃ、俺、そろそろ出るからね!」
スタンは今日の出来事で、山小屋からこの世に戻ってきて、初めて自分の境遇を冷静に理解し棚卸しができたような気がしたのだった。
その夜はなぜか久々にぐっすりと眠れた。
そして、リアルな夢を見たのだった。
「スタン、スタンてば!起きなさいよ!!」と騒いているフリーダの声で目を覚ました。
「えっ ここはどこ?」
「あなた、何言っているの?もうそろそろ出発しくちゃいけない時間よ!」
フリーダは既に身支度が終わっているのだ。
「疲れてるからと思って起こさなかったんだけど、全く起きる気配がないから起こしてあげたのよ!」
「えっ、あっ、もうそんな時間なんだね! ごめんごめん!久々に熟睡しちゃったようだね!」と言いいながらすぐに身支度を終わらせた。
「さあ、行こう!!」
「今日はあの峠を無事過ぎれば王都ブリンデンブルクよ!! 気を引き締めて行きましょう!」
修理済みの馬車はご機嫌に走り出していった。
ローベックの町を離れて行くに従いカッセル山脈を登る険しい山道へと変わり、道幅は馬車がやっと通れる程度の古道となり路面も凸凹が目立つ峠道となっていった。
「なるほど! やっぱりこの馬車の大きさが限界なんだね。それも路面が荒いから壊さないように注意しながらゆっくり進まないといけないし、これじゃ山賊に襲ってくれと言っているようなもんだよね!」
「周囲に気をつけましょう!油断しないようにね!」
「はい、わかりました、ご主人様!」と言いながらスタンは笑った。
彼は周囲に注意を払いながら峠道を進んでいくと、曲がりくねった崖の道が見えてきた。
「ここからは危険だな。踏み外すと谷底に真っ逆さまか・・・でも流石にここでは襲っては来ないだろう。」
馬も恐れを感じているようであり動揺しているため、スタンは馬の顔にブリンカーを装着し谷底が見えないようにしてあげた。
「さあ、ゆっくり行くぞ!」と馬に話しかけながら1歩づつ登っている。
しかしながら、この整備されていない山道は油断すると車輪が落ちそうになるため、彼は御者台を降りて馬を先導することにした。谷底の横方向を確認しながら冷や汗を垂らしながら馬を引いていった。
「フリーダ、ここ帰りも通るのかい?」
「私がめでたく奨学生になれれば学院の寄宿舎にすぐに住めることになるから、そうなれば帰らなくて済むわよ。」
「そうだったのか!よかった〜 これはさすがにエグいぜ!!」と言いながら珍しく必死な表情である。
「スタン、この先で一旦終わるみたいよ!踊り場があるわ。もう少しよ!」
この先の踊り場からは今度は山の中に向かって進む峠道になっていた。
「えっ ほんとだ! よかった〜!!」と額の汗を拭いている。
ついに、踊り場に到着し、一安心と思った矢先に、踊り場の先に数人の人影があった。
「フリーダ!向こうに見えるのは多分山賊だぜ! ついにお出ましかい! 俺が戦うから、ヤバそうだったら馬車の上から支援魔法をかけてくれ!」
「わかったわ!気をつけてね!」
スタンは踊り場半ばまでゆっくりと進み馬車を安定させてから、
そして「おい!そこの人たち!俺たちそこを通るから開けてくれないか!」と叫んだ。
山賊らしき5人の男たちはスタンの方をじっと睨んでいたのだが、
「ここを通るには通行料がかかるんだよ!知らねえのか?!」との答えが返ってきた。
「アホらしいな!ここは公道だぜ!なんでお前らに払う必要があるんだよ!?」
「俺たちがここの安全を守ってるんだ。命の保証はしてやるから金と荷物は全て置いていけ!」
すると、もう1人が付け足して、「馬車の中に女がいれば、女もな!!可愛がってやるからよ!!」と狂人のように笑っている。
5人の男は筋骨隆々の薄黒い肌に髪が伸び放題な不潔なイデタチで斧やサーベル・鎖鎌などを持っていた。
スタンは意識的に馬車から奴らの意識を離そうと奴らの方にゆっくり歩いて進んでいくと、5人は大きく彼を取り囲んできた。
「さて、と言うことは、お前、俺たちに通行量は払わず押し通ろうってことなんだな!?若いのに度胸あるじゃねえか?」
「そういうお前らこそ後悔するなよ! 言っておくがやめるなら今だぜ!」
「お前、小僧のくせに生意気だな!安心しな、お前を殺して馬車ごと頂くぜ!!」とリーダー格の男が言うと、鎖鎌の男が鎌をグルグルと回しだした。
スタンはしょうがないな!という表情を見せると、背中の右手剣を抜き新たに入手した長鞭を振るった途端、男の鎌がスタン目掛けて飛んできたのだった。
彼はそれを咄嗟に右手剣で受けたのだが巻かれてしまった。そしてスタンは巻かれたまま鎌男目がけて長鞭を振るい始めたのだが、鞭の先がナイフとなっているため男を切り刻み始め鮮血が飛び散っている。
そして、強烈な鞭の連打に耐えきれず気絶し倒れたところで「次はどいつだ?」と叫んだ。
「てめえ!よくも!!」と言うと、今度は斧の男とサーベルの男2人づつが同時にスタン目掛けて襲ってきたのだった。
スタンは瞬時に長鞭で2人をはらいながら怯んだ隙に右手の剣で急所は外しながら切り裂いていった。
口ほどにもなく、あっけなく5人の山賊はやられてしまったのだった。
スタンの予想通りにミスリル製の長鞭は大活躍であった。
「だから、言ったろ! 命だけは取らなかったから感謝しろよ!!」と言い残し馬車に戻った。
スタンはフリーダに無事排除したことを告げて馬車を山道に進めて行った。
「山賊って言っても、全然弱い奴らだったよ!」と声高々に自慢げに話している。
「よかったわ!私、人が斬られるのは嫌だから見ないようにしていたの・・・」
「その方がよかったよ! でも殺しはしなかったよ!これでとりあえず俺たち難所は抜けたのかな?」




