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06-勇者-

僕は武器職人の両親から生まれた一人息子だった。


記憶の中のお父さんはまさに職人で、寡黙に武器を作るその後ろ姿に憧れていた。

お父さんが丹精込めて作りあげた一振りは町の冒険者たちに人気で、彼らが武器を受け取り笑顔になるのをお父さんも喜んでいて、その光景が好きだった。

人を笑顔にするお父さんを誇りに思っていたし、僕に見せる緩んだ笑顔も、ごつごつした手で撫でられる感触も好きだった。


お母さんは結婚してから武器職人を引退していたけど、それでもお母さんに仕事を頼む人がいたことを覚えてる。武器職人に分類されるものの、お母さんは武器装飾人と呼んだ方が正しくて、剣の握りや鍔をその人にあった形に、装飾に。

繊細で優しく、時には力強い装飾はお母さんを体現しているようで。完成した作品には温かさが満ちていた。

お母さんはいつも優しくて。でも、僕が間違ったことをしたらしっかりと叱って。

「他人には優しく、自分には厳しく。」それがお母さんの口癖だった。

今でも目を閉じれば思い出せる、お母さんの作るおいしいご飯、安心する笑顔。


――同時に、あの日のことも思い出してしまうけれど。


あれは、僕が7歳の時。

食事を終えてトイレに行った僕が戻った時には崩壊が始まっていた。


両親のいるはずのリビング。

そこからは怒声が響いて、その声がお父さんの声だと気が付くのは時間がかかった。

だって。お父さんが怒鳴るところなんて今まで聞いたことがなかったから。


リビングへの入口を覗いて、僕は固まった。


辺りに広がった赤。その赤は鮮やかな色なのに濁っているようで。

見るほどに吐き気を込み上げさせるのに、視線を外すことができない。


逆に、その赤の発生源を探すように。視線が彷徨う。


(いやだ…見たくない!いやだ!)


突然の緊張で喉が渇いて声がでない。心の中で叫ぶが、その思いを無視して視線は動き続ける。

そして、発生源を見つけてしまう。


さっきまで家族で囲んでいた食卓。

お母さんの座っていた場所で、力なく机に突っ伏す()()

――それには頭部がついていなかった。


首から先は存在せず。

今も流れ続ける赤い、血液。ドクドクと脈打つように流れるソレは。まるで命が零れ落ちているようで。


どうして、首のないあの人は。

お母さんと同じ服を着ているのか。

どうして。

お母さんのいた場所に座っているのか。

……お母さんはどこに行ったの。


視界の淵が暗くなっていき、その暗さは広がりを増していく。

その闇を切り裂いたのはお父さんの声だった。


言葉ではなく、声。怒声でもない。その声を指す言葉は、叫び声が正しかったはず。


戻った視界が再び映したのは見たくもない光景。

頭に角が生えた男が魔法でお父さんの腕を吹き飛ばす光景だった。


今の一撃で、僕が好きだったお父さんの右腕はどこかに消えていった。

すでに左腕もなくなっていたお父さんの顔は痛みと怒りで赤く染まり、角の男を睨みつける眼光の焦点はあっていなかった。


そんな光景の中心にいる角の男は、笑った。

嘲るように。笑っていた。


そして、角の男がお父さんの頭に向けて魔法を構え。


――僕は、耐えきれずに気を失った。


目が覚めれば、僕は病院にいて。

誰も両親がどうなったかを答えてはくれなかった。

それが答えだと分かっていたけど、否定が欲しくて皆に聞き続けた。

でも、否定なんて一度もされず。僕は事実を受け入れるしかなかった。


許すことなんてできない。


僕の家の他にも合計9つの家が襲われ、多くの家が不幸になった。


こんなことは2度と起きちゃいけない。


そのために、僕は。戦う技術を身に着け始めた。

お父さんの作り上げた剣を何度も振り。

腕が疲れれば走り。足が疲れれば腕を鍛えた。


10歳になって、僕は勇者に選ばれた。

神様も魔族の存在を許していない。だから僕に戦う力をくれたのだと思った。


勇者と判明した僕は王都へと呼ばれ、戦うための技術を騎士から教えてもらった。

大人向けの訓練でさえ、辛さも弱音も飲み込んで僕は頑張った。

「他人に優しく、自分には厳しく。」その思いを胸に。


そして14歳の日、僕は騎士の先生から合格を貰った。

魔族討伐に足る実力を得たと。


同い年はおろか、騎士のうちの数人には勝利出来るだけの実力を身に着けていた。

僕は強くなった。魔族を倒せるだけの力を。


そう思っていた僕の前に師匠は現れた。

魔族領に同行する冒険者を決定する戦い。各地のトップ冒険者が集まり、頂上を決める戦い。

正直、賢者と僕だけで十分だと思っていた。そう思うほどには僕らは強かったから。


そんな驕りは初戦を見ただけで砕けた。

理解の及ばない高水準の魔法の、剣技のぶつかり合い。


中でも目を引いたのは、参加者の中で唯一、僕と歳の近い、少しだけ年上であろうお姉さん。

だというのに他の参加者を倒し続け、決勝まで駒を進めた。


あの日から、力を求め続けた僕。

そしてその積み上げの結果生まれた今の僕。

その僕が手を伸ばしても届く気配すらない高みにいるあの人は、一体どれだけの修行をしてきたのだろう。


だから、師匠と話した瞬間。

僕の口を飛び出したのは「弟子にしてください」という言葉だった。


師匠となら魔族を殲滅することもきっと出来る。

僕が受けた悲劇を、繰り返さないために。

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