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05-花落ち種が落つ-

冒険者のトップを決める戦いは幕を閉じた。

結果はハンスの優勝、私は準優勝。ただし、魔族領へと行くのは私だ。


「そんで?勇者と賢者はどこにいんだ?」


私の第一回戦の相手だったダンテが声をあげれば、他の人たちもそれに続く。

彼らの心中は「勇者や賢者と戦ってみたい」それだけなのだろうけど。


そのワクワク感、いいなぁ。私も感じたかった。

私は既に勇者と賢者のどちらとも見つけちゃったんだよ。

しかも、両方とも期待外れ。ため息をこぼせば、横で同様にため息をつく声が聞こえた。

ため息の主は決勝で戦った相手、この集いの勝者であるハンスだった。


「テミスさんも、気付いてましたか。」


「当たり前じゃないですか。勇者と賢者の存在は他言無用。それを決定するこの戦いは、トップ冒険者以外の冒険者には知らされていない。なら、煙を晴らすために風魔法を使ったのは?私の炎を鎮火するために雨を降らしたのは?ハンスに治癒魔法を使ったのは?何者なんでしょうね。」


「まぁ間違いなく賢者でしょうね。そして、その賢者と思われる少女の横にいる少年。あれが勇者でしょう。」


「弱いですね。彼ら。」


正直な感想を私が零せばハンスは「ははっ」と笑い続けた。


「たしかにテミスさんと比べたら弱いでしょうけど、同年代の中ならトップレベルに強いと思いますよ。

それに、逸話通りなら勇者が持つスキルは規格外でしょうしね」


戦闘狂たちの勇者コールに対して、どうやって登場するべきか。そもそも登場しないべきか悩んで挙動不審な勇者を見て思う。

うーん。どうやっても勇者と賢者に興味をもてない。

先ほどまでの戦いが熱かったことと、二人が期待外れだったことが相まって。本当にどうでもいい。


ただ、神様の代行者としての仕事を果たすためには彼らと共に行動するのがいいと思う。そう、思うんだけどなぁ。


無理やりにでも理由を、目的を、楽しみを探して、何とか自分を奮い立たせる。

……神様のおかげで、さっきまでの楽しい時間を過ごせたんだから。恩返ししないとね。


「ダンテ。」


目的は定まった。その目的のために、面倒だけど頑張ろう。


「どうした、テミス嬢。」


「これだけ呼びかけて出てこないなら、きっと今は出てくる気がないんでしょう。

ダンテは今の勇者と旅を終えた後の勇者、どちらと戦いたい?」


「そりゃあ旅を終えた後だろうよ」


「なら今はやめておいたほうが賢明だと思うわ。しつこく呼びかけて嫌われてしまったら、旅を終えた後の勇者から戦いを断られてしまうかもしれないのだから。」


「はぁ……まぁそれもそうかぁ、楽しみだったんだけどなぁ」


そう呟いてダンテも、他の面々も帰路について行くのだから彼らの頭の中には戦闘のことしかないのかもしれない。きっとそうなのだろう。だって、私も同じなのだから。


数分も経てばその場に残ったのは私とハンス。そして、例の二人だけとなった。


「さて。私はどうすればいいんですかね、勇者と賢者さん?」


何も語り始めないことに痺れを切らして私が問いかければ二人は顔を見合わせて、ほぼ同時に口を開いた。


「「弟子にしてください!!」」


「弟子…ですか?」


私はどうすればいいか、と二人に聞いた。

それはいつ魔族領への向かうのか。今日は解散すればいいのか。その答えが知りたくて質問したのだけど。

予想すらしていなかった二人の言葉の意味が…意図が分からない。


「僕はアーサーといいます!勇者の役職に選ばれました!」


「私はローズ家の長女、マーリン・ローズと申します。賢者です」


少年の方が勇者で少女の方が賢者か。まぁ体つきからそうだろうとは思っていたけど。

それにしてもこの賢者は貴族か。家名を持つことを許されているのは国営に携わる貴族の家にしか許されていないのだから。


「私はテミスです。あなたたちと魔族領に行くこととなりました。よろしく。」


「よろしくお願いします!試合ずっと見てました!テミスさんと一緒なら心強いです!」


はぁ。嫌だなぁ。これまで私の周りは端的に話す人ばかりだった。

受付嬢とは業務以上の会話をすることはないし、ギルド長は私が長話が嫌いなことを知って要点をまとめることを心掛けているし。さっきまでのトップ冒険者たちに至っては会話よりも戦いで語る側の人間だったのだから。

まぁ、どうでもいい会話をしてくる人を排除してきた結果なのだけど。


「それで、弟子になりたいとはどういうことですか?」


なるべく早く話を終えるために私から話を切り出した。


「まずは僕から話します」


アーサーは口を開いて自身の身の上を話し始めた。

長々と。自身の生まれた家のことから、両親のことまで。


要約してしまえば、アーサーの両親は魔族に殺され、その恨みで魔族の殲滅を心に誓ったらしい。


どうでもいいよ。戦う理由なんて。

「自分はこんなことをされた。だからやり返す大義名分があります。」そんな言い訳は本当にどうでもいい。

「だから戦う力を私に教えてほしい」って。自分はこんな可哀そうな人間なんだから手を差し伸べてね?って言われているように聞こえてしまう。


私が協力したいと思える説明をするなら「僕は魔族を恨んでいる。だから魔族を苦しめながら討伐する方法を教えてほしい」とかだろうか。

うん。これなら協力したいかもしれない。

魔族が嫌がるのはどんなことか。人と違う反応をすることはあるのだろうか。それを考えるのは楽しいし、出来れば自分でそれをやりたいけど、誰かがやりたいというなら少しは譲ってもいい。


つまるところ、戦う力を得て何をどうしたいのか。それが聞きたいのだけど。

その重要な箇所を語ることなく、アーサーの語りは終わってしまった。


「では、次は私が話します。あ、私のことはマーリンとお呼びいただければと思います。

共に旅する仲間ですし、受け入れてくださるなら師匠なのですから。」


そしてマーリンの話が続いていく。本気?アーサーだけで20分は話していたというのに。ここからもう一人?


こっちも身の上の話から始まって、非常に長かった。まぁ力を得てどうしたいか、それを語っていた分アーサーよりはマシか。その話に共感できるかは別として。


マーリンは魔法が好きな人だった。それこそ人生の全てを賭けて魔法の研究をしたいと思っているほど。だが、彼女は貴族の長女。他家との繋がりのために嫁ぐ責任があるが、結婚することで研究の時間が減ることが許容できない。今回の魔族討伐の褒賞で結婚の免除を求めている。


まぁひとつも共感できないわけだけど。

私の魔法に感動したという話は特に長かったし、貴族のしがらみの話は微塵も興味がなかった。


師匠となって彼らに時間を取られるなんて嫌すぎる。

それは目的のためでも許容できないし、途中でどうでもよくなって排除する未来しか見えない。


「旅している間、二人の質問に答えるくらいならいいですよ。旅に出る前や帰った後は無理です。

そもそも私の技術は独学で教えられることなんて多くないですから。」


だからこれが私の出せる譲歩しきった上での答え。

弟子志望の取り下げを望んでいたけど、二人の返答は「ありがとうございます!お願いします!」で。


ああ。魔族討伐を早く終わらせないといけない理由が出来てしまった。

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