04-花落ち種が落つ-
いやぁ…正直に言えば舐めてた。
各冒険者ギルドのトップ冒険者が集まり、その中で最強を決めるだけだと。
どうせ勝つのは私だと。退屈な催しだと。
――なにこれ。めちゃくちゃ楽しいじゃん。
私の眼前を剣先が通りすぎる。
それは第一回戦の対戦相手が開始と共に私に放った斬撃。
私が相手のことを注視してなければ。相手が視界から消えたことに気づけなかった。
回避行動が一瞬でも遅れていれば。きっとこの斬撃は私の目を潰していた。
緩む口元を気にも留めず、イメージしていた火魔法を発動させる。
イメージは高火力、高収束の熱線。それを目の前の男に向けて射出した。
熱線の輝きによって閃光があたりを包み、熱量によって周囲の空気は熱をもった。
当たれば炭化すらも通り過ぎて消失するほどの熱量。
――外した。
回避行動を見越して狙いを定めたというのに。私の「直感」が、まだ仕留めきれていないと告げてくる。
熱線によって発生した煙で視界は悪い。
相手は剣士。距離を詰められてしまえば私のとれる択は圧倒的に少なくなってしまう。
だからこそ即座に魔法を展開する。
視認することも難しい微弱な火の糸。触れたところで火傷になるかすら微妙なそれを、蜘蛛の巣のように私の周囲に張り巡らせる。
1秒、2秒、3秒…と。
何も起きない。何の音もしない時間が流れていく。
――静寂。
ただ、それは永遠に続くことはない。
私が張り巡らした火の糸。それに、何かが触れた。
それが静寂を引き裂くトリガーとなり、時が動き始める。
熱線を再び。反応のあった場所に打ち込む。
触れたものを消失させる輝きは煙すらも消し去って破壊していく。
警鐘は再び。
その警鐘は彼をやりきれていない証明だった。
反射的に炎剣を発動する。
冒険者を初めた当初から愛用している魔法を。
火の糸に反応はない。
だというのに警鐘は強さを増して。
――上!?
見上げれば剣を振り下ろす彼の姿。彼と目が合った。
お互いに口角は上がりきり。相手を仕留めんとする獰猛な視線が交差する。
斬らせまいと振るった私の炎剣。
斬り飛ばそうと振るわれた彼の直剣。
その二振りが触れ合い――勝敗は決した。
私の炎剣が彼の剣を焼き切り、そのまま彼の首を焼こうと振りぬいたとき。
彼の姿が消えた。
「俺の負けだ。強ぇな、嬢さん」
煙で姿は見えないけど、敗北を認める彼の声だけが響いた。
即座に風魔法で煙は払われ、彼と対面する。
「嬢さん、すまねぇな。女だと侮って名前聞いてなかったんだわ。教えてはくれねぇか?」
「私はテミスです。それに、そのセリフは私も同じです。お名前をお聞きしても?」
「俺はダンテだ。いつか再戦させてくれや」
「受けて立ちましょう。」
ダンテと握手を交わして一回戦の幕は閉じた。
ここに集まった冒険者はトップの名に恥じない強者ばかり。
私は火魔法使いの冒険者として、使用しても違和感のないスキルだけしか使用していない。
とはいえここにいる人たちの数倍は多いスキル数。
だというのに、気を抜けば私に届く牙を持った人しかいない。
それが、楽しくない訳がない。
楽しい。心地いい。生きていると感じる。気持ちいい。面白い。
笑い声を我慢しても口元が緩むのまでは抑えきれない。
ああ。最高。
集った誰もが高め抜いたスキルを所持し、珍しいスキルを披露していく。
一回戦の相手だったダンテだって珍しいスキルのひとり。
彼は「転移」のスキル。他にも「空間魔法」に「毒魔法」。あげればキリがないほど。
どれもが強力なスキルだというのに。「欲しい」という感情が湧いてこない。
その答えはすぐに見つかった。
奪ったら彼らと戦えない。
強力なスキルに振り回されることなく、自分のものとして昇華させ、ひとつの高みに至った彼らと戦いたい。
その想いが、そのスキルが欲しいという想いよりも強いだけだった。
楽しい時間がずっと続くことはない。
だからこそ楽しいと思えるのだけど。
決勝戦も時間が経てば終わってしまう。
目の前の男と視線を交わせば、彼もそれを嘆いているようで。
今ここは決勝の舞台で、最後の戦いだった。
「テミスさん。最後は全力でいきませんか。その全力を、俺は全力で止めてみせる。」
「いいでしょう。私は熱線を使いますが、今までの熱線と同じだと見くびらないでくださいね?――死んじゃいますから。」
目の前の男、ハンスは魔法使い。障壁魔法の魔法使い。
本来は攻撃を防ぐだけの魔法。その強度を使って敵を圧し潰し。意図しないところに障壁を展開して動揺を誘い。障壁に反射効果を付与して戦い。練り上げられたその魔法で、決勝の舞台まで駒を進めた。
そんな彼が防御という本来の役割に徹したらどうなるのか。それは決して崩れない堅牢な壁となるだろう。
だからこそ。その信頼があるからこそ。私も全力で壊しにいける。
右手をハンスに突き出し、イメージを確立させる。
込める魔力は今までの比にならないほどに膨大。
漏れ出る炎は赤から橙色へと。そして白色へと変わり、青に染まる。
再び白が顔を出し、ほのかに青を纏った青白色。冷たさと存在感を感じるその色は熱量が高まりきったことを宣言するように輝いた。
対するハンスの障壁も完成していた。視認するだけで、本能的にこれを壊すことは出来ないと感じる。
本来は無色透明で視認することのできない障壁。それが視認できるほど魔力が込められ、灰色でありながら輝きを放つ大盾となって顕現していた。
「受け止めてみなさい、私の最高の一撃を!!」
「来い!!!俺は…倒れない!!!!!」
そして射出される青白色の熱線。そこから迸る熱量だけで生物は致命傷となる。
私自身も例外ではなく、防御魔法を全力展開する。でなければ溶け落ちてしまう。
加えて、熱線の影響で起こる無粋な結末を避けるため、風魔法で酸素を生み出す。
今この瞬間だけは、火魔法の縛りを撤廃し、次々と魔法を繰り出す。もちろん、他の誰にも気づかれない範囲で。
私が見たいのはこの一撃をハンスが受け止めることができるか否かだけ。
それ以外の要素で手にした勝利に、意味なんてないから。
即座に決勝の舞台に雨が降り、鎮火され。風が吹き、煙が飛ばされ。勝敗が露わになっていく。
地面は熱線が通った道を描くように抉れ、溶け落ち、炭化し、ガラス化して。
雨の降り続く今も赤みを帯びてくすぶって。
その熱線が直撃した先では――ハンスが、原型を保ってそこにいた。
盾を構えていたであろう両腕は炭化し黒くぼろぼろに。
ただ。その腕以外は無傷で、そこに立っていた。
「……嘘でしょう。」
自然と声が漏れた。
盾を壊せる自信があった。私はしっかり全力だった。
だというのに止められた。
ハンスへと駆け寄る治癒魔法使い。
治癒を受けてもその両腕が元に戻ることはないだろう。
そんな奇跡のような治癒ができるのは聖女だけなのだから。
「私の、負けです。」
私の鼻からこぼれる鼻血は何が原因だろう。
大規模な魔法を使用した影響?いいや、違うだろう。純粋に私は今、興奮している。
この想いを形容する言葉を私は思いつかない。知らない。
「テミスさん。」
確かな視線でハンスは私を見ていた。
「ハンス。あなたは…最高ですね。」
「ははっ。その言葉が聞けただけで、この両腕の代償の価値はあった。
受け止めたぞ。キミの全力。」
2人の視線は交差し、お互いの健闘を称えた。そこに言葉は必要なかった。
「ただ、俺は両腕を失った。この状況で旅なんてとてもじゃないができない。
だから、魔族領に行く切符はキミに譲るよ。受け取ってくれるかい?テミス。」
「私はあなたの代行者にもなりましょう。その切符、受け取りましたよ、ハンス。」




