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01-歪な種は白く咲く-

代行者のスキルは3つ。

世界の均衡を保つために必須となるスキル「世界状況」。これは生物のバランスを確認することができる。試しに使ってみれば、神様が言っていたように魔族の数は基準値を遥かに上回り、逆に人間の数は基準値をやや下回っていることが確認できた。


次に「天誅」。これは生物からスキルを奪取するスキル。神様に代わって、増えすぎた生物に罰を与えるための戦闘手段。罪人になるとスキルが消失するように、私が罰を与えるその時もスキルを消失、いや奪うことができるわけだ。

ただし、このスキルの問題点が2つ。初期段階。つまり今の私は何のスキルも持っていない。天誅を下す前に自身の弱さをどうにかしないといけない。そして、一度に複数の対象に使用することはできない。


そして「洗脳」。これは生物の記憶を操作するスキル。このスキルは使い勝手がよさそうに見えて、一番使いにくい。スキルの詳細を確認し、表示された2つの注意点。天誅と同じく、一度に複数の対象を選択することはできない。そして「洗脳された対象が違和感を認識した時、洗脳は解除される。」という点。

たとえば両親に「私という存在はいなかった」と洗脳をかけたところで、違和感を感じる要素は家中に残されている。その要素に触れた瞬間、洗脳は解けてしまうのだ。


自身のスキルを確認し、リビングへと向かえば沈んだ雰囲気の両親が私を出迎えた。


「おはよう」


「おはよう、お父さん。お母さん。」


妹の死がよっぽど辛いのだろう。

目の下にはクマが広がり、声色にも元気はなく、まるで()()()()()表情だった。


死にそう?あぁ、スキルを試すのにも奪うのにもちょうどいいじゃない。

まずは母に洗脳を使用した。妹を失った後悔と悲しみを極限まで増加させ。そして、自殺願望を刺激してあげれば完成。

次に父。同じく後悔と悲しみを。そして、自殺願望と放火衝動を刺激すれば完璧だろう。

洗脳によって記憶を塗り替えるのではなく、既存の意識を刺激してあげる。そのほうが違和感を認識するのが難しいと思うから。


母は泣き出し、泣き崩れ。過呼吸のように床に倒れこんだ。

そして父は涙を流したまま夢遊病患者のようにおぼつかない足取りで歩きだし、アルコールを床にばらまき始めた。


そんな二人に対して2つ目のスキル「天誅」を試した。微かに、自分の体内で何かが目覚めるような感覚。たしかにスキルが成功した手ごたえがあった。


「ステータスオープン」


――――――――――――

名前:ライラ

年齢:10

役職:代行者(バランサー)

スキル:

・世界状況

・天誅(医療術)

・洗脳

――――――――――――


たしかに天誅の横に「医療術」のスキルが追記されているのが確認できた。


「別にいらないけど、試運転だったし仕方ないか」


どうせなら治癒魔法がよかったけど。


そういえば今、入院している人がいたな。一昨日、魔物との戦闘で足を負傷して入院した冒険者がひとり。

静かに狂ったリビングを後に病室へと向かった。


両親のいつ使うか分からないスキルより、よっぽど有用なスキルを所持しているだろう。

だって冒険者なのだから。戦闘系のスキルをもっていなければ仕事にならない。

今も寝たままの冒険者の元に歩み寄って、天誅を発動する。


「ステータスオープン」


――――――――――――

名前:ライラ

年齢:10

役職:代行者(バランサー)

スキル:

・世界状況

・天誅(医療術、火魔法)

・洗脳

――――――――――――


思わず口元に笑みが零れてしまう。

――予想通り。


この町の冒険者は「火魔法」か「剣技」。どちらかのスキルを持つ人が大半。

剣技だったら今は使えないけど、いくらでも使いどころはある。

火魔法ならこの人を処理するのが楽になるし、これも使いどころは多い。

どっちでもよかったけど、まぁよりいい方。楽しい方を引いた。


だってこの人からはスキルを奪取してしまった。生き残ったら役職はあるのにスキルが消失した人が生まれてしまう。そんなことができる人が、方法があるかもしれないと世間に知られるのは非常に面倒くさい。だから、ね。


自らの魔法で焼かれる気分はどうかな?


魔法の使用にはイメージが大切になってくる。イメージが不完全なら不完全な魔法が発動し、大規模なイメージをしたならそれを実現させるための膨大な魔力が必要になる。

適量の魔力で扱える魔法規模で明瞭なイメージを。


「火魔法」


イメージしたのは火だるま。その人に絡みつくように燃え盛り、全身を包む火だるま。

そのイメージは現実となり、私の体から魔力が減った感覚を感じた。


火だるまの男はうめき声をあげながら暴れ、リビングの方からはパチパチと燃える音が聞こえてくる。


「ふふっ。」


笑いの零れる口を自分の手で塞ぎながら家から、町から逃げ出す。人の目を避けながら。

ここで誰かに見つかったらわざわざ放火という手を使った意味がなくなっちゃうから。


ライラの家は燃え上がった。


煙しか見えないけど。きっとあの煙が出ている場所は私の家だった場所だろう。町の外へ抜け出し、離れた場所から煙を眺めて思う。


まだ多くの人が寝ていた早朝の時間だった。助けが来るのはきっと遅いだろう。まだ煙が見えるのがその証明でもある。


アルコールが撒かれた場所につけられた火は、どれだけ勢いよく燃え盛ったんだろうね。

きっと家は炎に包まれて、私の部屋も燃えただろう。

そして、そんな場所で生存者なんているわけがない。

両親も、冒険者のあの人も。そして、他の者から見れば。私も。


私を知っている人には私が死んだと思っていてもらった方が動きやすい。だって、私は見習い医師のはずなんだから。


この緊張感が。緊迫感が。私の胸を高鳴らせる。

先ほどまでの緊張感が再び全身に駆け巡って鳥肌が立つ。

その快感がおかしくて、楽しくて。口元を抑えずに笑い声を出した。


「さあ!神様。私はここから始まります…!あなたの代わりになりましょう!こんなに楽しいのだから!」

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