14-慈雨-
「くそっ!」
聖剣が空を斬る。
これで何度目だろうか。
確かに魔族を斬ったはずなのに、その斬撃は空を切り裂くだけで魔族を仕留めるに至らない。
そして魔族の姿は景色に同化するように消えてしまう。
そして、岩魔法によって作られた石の礫が、不規則に僕を襲う。
だからこそ攻撃を避けることに意識を集中して、直感で察知する。
すぐさま発射先を確認すれば、たしかに魔族がそこにいるのだ。
攻撃を避けながら斬りこんで、聖剣は空を斬るのだ。
視認できる魔族の姿は毎回同じ。だから岩魔法を繰り出しているのはきっとあいつで間違いない。
ならあいつが消えるのは?もうひとりの魔族の魔法によるものだろう。
その魔族はどこにいる?
そこに意識を割こうとすると石の礫が僕を襲い、ループが続いていく。
ならば、今回はより早く。今までよりも早く斬りこむ。
少しでも変化を持たせなければ、この状況を変えられない予感がするから。
さっきまでの斬りこみよりワンテンポ早い斬撃。
それが、ついに届いた。
けれど直撃ではない。
確実に両断した軌道だったというのに、片腕を斬り落とすに留まった。
何が起きてる?
次の攻撃も先ほどと同じ速度でカウンターできた自信がある。だというのに、また空振った。
だが。岩魔法の魔族の片腕は斬り落とされていた。
これで微かに予想していた岩魔法使いが複数いる可能性は低くなった。
攻撃の頻度は一撃を与えて、明確に遅くなった。
なら探せ。この不可解な現象を作り出している魔法の主を。
その思考を邪魔する攻撃をカウンターしながら。もしかしたらまた当たるかもしれないのだから。
そして直感の辿りついたひとつの道。
岩魔法が一回も飛んできていない、唯一の方向。
飛来する石の礫も姿を見せた魔族も無視して、何もない場所へ刺突の形で走りだす。
ひとりの魔族の姿が現れ。
――そして、僕の足が止まった。
足が、指先が、全身が。何かに縛られたように動けない。
眼前の空間が歪み、魔族の姿が露わになった。
二人の魔族。何度も岩魔法を使っていた魔族じゃない。最初に見た4人の魔族のうちのひとりと、全く知らない魔族がそこにいた。
「ようやく捕らえた。あと少し幻惑魔法を見破るのが早ければ、私の拘束魔法は完成していなかった。」
4人目の魔族が額に零れる汗を拭いながらそう言った。
拘束、魔法…?
僕の身体強化でも振り払えない、完全に身動きを封じるほどの魔法を展開した?
絶体絶命の状況だというのに、訳が分からない。その感情が上回った。
「訳が分からない、といった顔ですね。お前はきっと直感のスキルを持っているのだろう?でなければ説明できない反応速度だったからな。
なら、瞬時に強力な拘束魔法を展開すれば直感に察知されてしまうだろう。
だからこそ、ゆっくりと、弱い魔力を注いで拘束魔法を展開していたのだ。」
「よくも俺の腕を斬ってくれやがったな、てめぇ。」
動かない体の側面から声が聞こえ、視界に岩魔法の男が入ってくる。彼の片腕からは今も血液が滴り、地面を赤く染めていく。
彼の表情は怒りに満ちていて。
殺されるのだと、ようやく悟った。
岩魔法使いの表情が。あいつと重なる。僕の両親を殺した、あの魔族と。
恐怖と魔族への怒りが再熱し、僕の感情を2色が支配する。
魔族の手が僕の頭部へと向けられ…
「糞魔族があああああああああああああああああああ」
拘束魔法に抵抗して、僕は咆哮した。
拘束の抑圧と僕の気合で板挟みになった肉体は血液を吹き出しながらゆっくりと動き始めた。
ただ、間に合わない。回避も。差し違えることも。
血涙によって視界がほのかに赤く染まった瞬間。
――まばゆいほどの赤が岩魔法の魔族を飲み込んだ。




