13-慈雨-
「舐めプでもしてるのかな?アーサーは。」
屍を踏み、燃える町を歩きながら、アーサーの戦いを眺める。
アーサーが最初に仕留めたのは対峙した5人の魔族の中で一番弱いのと次に弱いのだ。
そんなの相手に自身の速度も、聖剣の切れ味まで披露したのだから舐めプとしか思えない。
まぁ嫌いじゃないけどね。
アーサーのそれらは分かっていても避けるのが難しい。
その緊迫感に焦る表情は滑稽で、私もたまにやるもの。
残った3人の魔族は純粋な戦闘能力なら個人個人がアーサーと同等なのに。なにを警戒してるのか様子見の行動ばかり。
これは時間がかかりそうだなぁ。
さて。私は熱線で抉れた地面に沿って進んでいく。
本来なら軍事エリアに踏み入るつもりもなかったんだけど…ちょっと面白そうだったからね。
私の熱線を防いだ魔族がいる。
エリアの3分の1あたりのところで防がれたのだ。そんなところで防がれるなんて予想外も予想外。
だって、私の索敵スキルで把握した限り、軍事エリアの手前半分くらいまでが本当の意味で軍事エリアだったから。
町に入って補完した情報から、手前半分は軍人の住まう寮の建設場所。それに付随するように作られた修練場。
奥側は商店街のようで、食材を売る店。娯楽を提供する店。服や武器、防具を販売、製造する店しかない。
偶然買い物に来ていたとかだろうけど。私の熱線を防ぐだけの実力をもった魔族なのは間違いない。
彼がもっと手前にいたなら熱線の影響は小規模になっていただろう。
故に熱線が届かなかった先の地面は湿っていて、水はけの悪さで残った水たまりがそこにある。溶け落ちた建物もなく、燃えている建物もない。
被害は少なそうに見えるけど。生きている人は少ない。だって、ここにいたのは非戦闘員ばかりで感電を受け流す術などなかったのだから。
パキパキと地面の氷を踏みしめた。
熱線が辿りついた最終地点。そこには、私の炎を拒むようにそびえ立つ氷壁があった。
熱線を浴びた跡は深く残って、氷壁を抉り。それでも貫通することなくこちらの景色を反射している。
「これがあると涼しくていいね」
壊してもいいのだけど、あえて氷壁を回りこむ。そもそも氷壁は横幅が5m程度。回り込むのも壊すのも労力的にはそこまで変わらない。
なら涼めるという利点がある以上残す方に軍配があがるのは当然だろう。
「ご無事ですか?お二人さん。」
氷壁の向こうに顔を覗かせれば二人の魔族。男女の二人。
男の方は酷く疲れた様子で肩で息をしながら片膝をつけていて、女の方は男を心配するように寄り添っていた。
「ここは…危険だ。早く、逃げてくだ……」
男の魔族はゆっくりと顔をあげながら私を心配する言葉を投げて。私を視認して言葉を止めた。
服からして軍人だし、アーサーの元に向かった5人より上質な素材で出来てそうな軍服。上官かな?職務に従順で立派だね。
「貴様の魔法か。この惨状は!」
立ち上がって私に吠えてくる。それを彼女は心配してるけど、男の視線は私に向けられたまま動かない。
「水浸しなこと?雷のこと?それは私の魔法じゃないですよ。
私がしたのは水を乾かすために火魔法を使っただけ。」
「貴様っ!リリーは離れていろ!こいつは危険すぎる!!」
「でも!」なんていって狼狽える女の魔族。リリーと言っただろうか?それを必死に逃がそうとしている。
「この氷壁はあなたの魔法?これだけの力があるなら受け止めずに避けることもできたでしょうに。
それをしなかったのは、その女を守るため?」
「だったら、なんだというのだ。」
ちらちらと逃げるリリーを気にしながら男は答えた。
それは答えを言っているようなものじゃない。
「別に?そこまでして守りたい女が目の前でやられたら、あなたがどんな顔をするのか気になっただけ。」
言い終わるよりも早く、男は魔法を展開する。
それは私への攻撃ではなく、リリーを守る氷壁を彼女を囲うように展開した。
「俺は魔族軍総隊長、ガザだ!」
彼は覚悟を宿した視線で私を睨みつけた。
「貴様だけは、俺が仕留める!この命に代えても!」
リリーがガザを呼ぶ声が周囲に響き渡るが、それに耳を傾ける者などここにはいない。
ガザはそんな余裕がないし、私からしたらどうでもいい。
そして、氷の礫が私を襲う。
小さな。とても小さな氷の礫たち。光を反射してきらめきながら高速で私へとはじき出される。
当たれば確実にダメージとなる速度。小ささ故に大量で、それでいて視認しにくい。
けど、所詮は氷なんだよね。
火魔法で薙いでやれば全てが解けて消え去った。
「頑張ってみて?あなたの名前を覚えるかは努力次第で決めるから。」
私が話しているというのに私の上方に氷塊を作り出して自然落下させてくる。
それを避けた先の地面を凍らせて姿勢を崩そうとしてくる。そんな薄い氷じゃあ姿勢を崩せないよ?
崩れた姿勢に打ち込む予定だっただろう氷の礫を溶かして、私も攻撃に移る。
イメージするのは炎で作られた竜。イメージの規模が大きいため魔力消費は多い。その割に火力も低く、操らなければ置き物でしかない。
インパクトだけの魔法なのだけど。それでいい。
炎竜が顕現し、魔族の男を喰らおうと迫っていく。蛇のように空中を這いながら。炎の燃え盛る音を響かせながら。
同時に魔法を展開して眺めていれば、炎竜はあっけなく倒された。
氷の礫がいくつも直撃し、弾け。それによって低下した炎竜の熱量は氷壁を貫くことなく霧散した。
「この魔法は本当に見かけ倒しだと思わない?」
「だから何だ!」
「私が何をしようとしてるのか。それが分かったから彼女を氷の牢獄に閉じ込めたんでしょ?」
魔族の男はここにきて、ようやく攻撃の手を止めた。
――その顔、いいね。
言い表せないほどの不安が心を支配した時にだけ現れるその顔。
もう私のことを注視することさえ忘れて彼女を囲った氷壁へと視線を向けていて。背名ががら空き。
そこを狙うなんてつまらないことはしないけどね。
あれだけキミの…名前はなんだったっけ。この魔族の名前を呼んでいたというのに。
今は物音ひとつしないんだから。
「り、リリー……?嘘だ。嘘だと言ってくれ。」
男は震える手を伸ばして、氷壁を解除した。
――そして転がる黒い塊。
抵抗できる魔法を持っている可能性を踏まえて高めの火力で氷壁の中を燃やしたけど。
抵抗手段は持ってなかったみたい。レストランでこんな焼き具合で提供されたらクレーム間違いなしだね。
男はおぼつかない足取りで近づいて、黒いのに手を伸ばす。
触れた箇所はポロポロと綻びて、床に炭を広げるだけ。
「あ、ああ。ああああああああああああああああああああああああああああああ」
あーあ。発狂しちゃった。
そのまま男は床に倒れて、気絶したらしい。
「ずっと後ろを気にしながら戦って全力を出せないみたいだから理由を消してあげたんだけど。戦う理由も、生きる理由も消えちゃったかな?」
炎剣を展開して、気絶した男にトドメをさした。
熱線を防いだから期待してたんだけど。実力は微妙だった。
でも、まぁ。反応は面白かったし、及第点かな。
名前はもう忘れちゃったから、覚えることは出来ないけど。ごめんね?




