12-慈雨-
聖剣を持つ手に力が入る。
ここからは、僕の番だ。
マーリンの初撃は軍事エリアに甚大な被害を与えたのは間違いない。それを確信できるだけの轟音で、直撃地点から離れていたというのに地面の振動を感じられるほどの威力だったから。マーリンは自分の役目を十分こなした。
そして、師匠の追撃。僕たちに任せるといいつつ、僕の動きが水で鈍ることを心配してサポートしてくれた。あの一撃は、サポートだとは思えないほどに強力だったけど。射線から十分距離はとっていた。そのつもりだった。だというのに僕の皮膚は焼かれ、不屈によって回復中。
マーリンと師匠の魔法が直撃した軍事エリアの様相は酷いものだった。
熱線が侵攻したと思われる一直線上は地面が抉れ、煙でよく見えないけれど。きっと、この先にあった全てが焼失したんだろう。
周囲を見渡せば地面に倒れ伏す魔族が何人も。マーリンの雷によって感電したんだ。それを証明するように彼らの体には火傷の跡が残り、痙攣するように定期的に全身を震わせていた。
感電し、動けない魔族の首を刎ねていく。
「感電によって多くの魔族が戦闘不能になるでしょうね。ただし、上手く受け流した魔族は数十分で復帰する可能性がある。運で生き延びただけならいい
けど、実力で受け流せた魔族もいるでしょう。それが復帰したら面倒になる。
アーサーは侵入後、感電が軽度な魔族を集中的に処理すること。」
作戦前に師匠に言われたことに従って、軍事エリアを駆け回る。
煙のせいで視界は悪くても、聖剣による直感の強化でなんとなくの位置を把握して、視認して一体ずつ確実に。
師匠の言う通り、同じ場所に倒れているのに感電の影響はバラバラだった。
黒く焦げて湯気を放出する魔族の隣に、火傷すらなくうめき声をあげる程度で今にも動きだしそうな魔族がいる。
――この初期段階には制限時間がある。
今のうちに、可能な限りの無力化をしなくては。
聖剣が身体強化の恩恵をもたらし、引き上げられた肉体性能で燃え盛る町を駆け回る。
「感電を無効化する魔族もいるでしょうね。数は多くないと思うけど。でも、彼らは無効化できるだけの力をもった魔族。
つまり、少数だったとしても油断できる相手ではない。聖剣をもったアーサーと同等かそれに迫る実力をもっていると思いなさい。
彼らに見つかった状態で戦闘不能の魔族を処理することはできない。
彼らに勝つこと。それが第二段階。そして一番の難所。」
軍事エリアを見下ろした時の記憶に照らし合わせれば、きっと手前半分までの処理は完了した。
ようやく半分。まだ半分。
だというのに。僕の直感が警鐘を鳴らし、即座に回避行動をとる。
横を通りすぎる魔法を横目に、発射地点へと視線を向ければ。彼らと目が合った。
――4人の魔族。
彼らの姿に怪我はなく、確かな殺意がこもった視線が。僕を射抜いていた。
開戦の合図なんてない。
だってそれは既に鳴らされているのだから。
炎の槍が視界を埋め尽くし、僕に迫る。
辺りの空気が熱を帯び始め、ただでさえ熱い空間を更に灼熱へと変化させていく。
高速で迫ってくるそれを回避するのは針に糸を通すような作業で。
だというのに回避した先にも槍が降り注いてくる。
それでも直撃することはない。直感が回避ルートを導いてくれるから。
ただし、それは籠城戦のようなもので、時間が経てばこちらが不利になる。この熱さは長時間耐えられるようなものじゃないから。
直感が一段階上の警鐘を鳴らす。それは側面から迫ってきていて――
僕は、全力で駆け出した。
側面からの攻撃は無視する。今は上から放たれる火魔法の方が厄介だから。先にそれを仕留めるために。
「複数人との戦闘にアーサーは向いてない。これはセンスがって話じゃなくて、これまで積み上げてきたものがそうさせてる。
騎士との一対一の練習を繰り返して、単体の魔物しか討伐していない。
複数と戦うなら自分の土俵に相手を立たせること。方法は任せる。アーサーの速度なら選択肢はいくらでもあるから。」
そう。師匠の言ったように、僕は集団戦をしたことがない。したことがなかった。
この言葉がなかったら、僕はすぐ敵に突っ込んでいた。
炎の槍を回避して、時間をかけて。
そんなことをしていたのはこの時のため。
敵が回り込んで僕を包囲するのを待っていた。
全身にかけていた身体強化を脚力に集中させれば、速度は飛躍的に上昇する。今までの速度に慣れていたなら消えたと錯覚するほどに。
僕へと火魔法を撃ち続けていた魔族の姿を視認した。最初に僕を狙撃した位置から動かず、僕を見失って視線を彷徨わせる二人の魔族を。
聖剣を振りぬく。
その一閃は何にも拒まれることはなく。
剣線にあったものを両断する。
一刀に二人の魔族は両断され、崩れ落ちる。
――あと二人。




