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11-慈雨-

「緊張してる?」


少し小高い丘の上、私はマーリンに話しかけた。

軍事エリアへの奇襲開始まで残り5分。

深呼吸を繰り返すマーリンが鬱陶しくて声をかけてしまった。


「テミス姉様…。正直なところ、緊張しています。」


「緊張する必要なんてない。マーリンは絶対上手くできる。()()()()()()。」


マーリンは目を見開いて私を見た。

これから眼下に広がる町の命を散らせるのだ。ワクワクする以外の感情がどうして湧くのか。

緊張している時点で戦いに向いていないのだと思うけど。別にそれでもいい。

だって、彼女は研究者になりたいらしいから。考え方から私と交わることはない。


「テミス姉様。火魔法を、見せてくれませんか?」


ほら。訳がわからない。でも、それで緊張が解けるなら安いものだ。

私は手のひらの上にこぶし大の火を生み出した。


揺らめく炎に顔を近づけて眺めるマーリンからは緊張がたしかに消えていた。

どんな生態をしていれば火を見て緊張が解けるんだろうか。


「あたたかい…。お爺様の火のようで、きれい……。」


呟きは小さく、私には聞き取れなかった。


「テミス姉様。ありがとうございます。私、やれます!」


「任せましたよ、マーリン。」


彼女の目はやる気に満ちていて、これ以上気に掛ける必要はなさそうだった。

緊張のせいで失敗なんてされたらたまらないからね。


私は丘から離れて、もしもの時のバックアップとして位置取った。


奇襲の作戦はこうだ。

丘の上にはマーリンとゲイル。正門から少し離れた場所にアーサー。そして私は遊撃として2か所の中間に位置している。

指定時間になったらマーリンが水魔法で雨を降らせ、軍事エリア全体が水に濡れたタイミングで雷魔法を放つ。

これがマーリンの放てる最高火力の広範囲魔法。難点としては水が残ってしまうところ。そのままではアーサーの機動力が低下する。

だから次に私が魔法を放つ。熱量に比重を置いた熱線によって正門の破壊、周辺の水分の蒸発。

熱量に比重を、とは言ったもののある程度で十分水分は蒸発するのだから手を抜いた熱線で事足りる。

そこから先はアーサー次第。私の予想だと十数人は生き残ると思うから、頑張ってね?


軍事エリアの頭上に曇天が立ち込め始める。

当事者なら面倒くさいが勝つけど、傍観者視点だといいね。わくわくする。

これからこのエリアは消え去る。突然の暴力に、魔族はどう思うかな?

直撃によって何が起きたか気が付く間もなく消えるのと、生き延びた先に待ち受ける追撃で消えるの。どっちが嫌?

神様ならその表情を間近で確認できるのかなぁ。


曇天からは雨が降り始めた。ぽつぽつと。

穏かな雨の勢いは瞬間的に切り替わり豪雨となる。白いカーテンが空に広がるように。


そして感じる魔力の波動。

軍事エリアの中で、この魔力を感じ取れた人はどれだけいるかな?


雷魔法の展開のため、マーリンは魔力を込めていく。

まだ制御の甘さが目立つ。

漏れ出た雷がバチバチと轟き、丘が白く輝く。


――そして、開戦を告げる稲妻が空間を切り裂いた。


今、この瞬間。影は存在できない。

その輝きをもって稲妻は轟く。雷鳴が空気を振動させ、鼓膜を揺らす。


一瞬の閃光は一瞬で世界を塗り替えた。

軍事エリアからは黒煙が立ち上り、悲鳴がここまで聞こえてくる。


その景色は正門のせいで見ることが叶わない。

見えない景色を妄想するのも嫌いじゃないけど、どうせならこの目でみたいよね。


火魔法。


私の熱線は邪魔な正門を消失させ、焼き進んでいく。

水分が蒸発した白煙と未だに燃え盛る炎からたつ黒煙がグラデーションを作り出す。


揺らめく煙の隙間からは崩壊した町並みが顔を覗かせる。

今も悲鳴は、絶叫は響きわたり、微かに聞こえる統率の声をかき消している。


――そこに歩み入るひとりの少年。

少年が手にする白い剣は淡く輝いていた。

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