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00-退屈な世界に彩りを-

初投稿です。毎週月曜19:00投稿予定。

少女は窓から朝日を眺めていた。

――酷く退屈。つまらない。


その少女、ライラは、10歳の誕生日を翌日に控えていた。この世界では10歳になると、その者の性格や環境に応じた「役職」が与えられる。そして、その役職を遂行するのに有用な「スキル」を獲得する。


商家の子供なら「見習い商人」、武家の子供なら「見習い騎士」のように。役職は成長とともに熟練度を増し、見習いが外れ、上位の役職へと昇格していく。その昇格は昇格元に類するものしか選ばれない。つまり、見習い商人が騎士になることはない。

しかし、例外は存在する。罪を犯した者は役職が「罪人」となり、それまでに得たスキルはすべて消失するという。


私の家は町医者。だから私の役職はきっと見習い医師。

嫌だなぁ。だってつまらない。

毎日毎日、病人や怪我人の相手をするだけ。魔法を使って癒すような派手さもない。

治癒魔法使いの家系に生まれていたら、こんな悩みはなかったのかな?いや。もしそうだったとしても私は退屈に思っていただろうな。他人を治すことに面白さなんて感じないんだから。


ライラはふと思いついた。それは、一つの疑問。

――もし10歳になる前に罪を犯したら、役職は罪人になるのだろうか


医師になるのも罪人になるのも私にとっては同じようなもの。

むしろ、結果がどうなるか分からない罪人の道の方が魅力的にすら思える。今だって考えるだけでワクワクするのだから。


これまでの約10年間、本当に退屈だった。

だって、なにをしても将来は医師になるのが確定していた。だから他のことをするやる気なんて起きないし、どうせなるのだから医学にも興味すら湧かなかった。


いつぶりか分からないワクワク感を胸に抱いて、私は自室から出る。

どんな罪を犯そう。窃盗?果たしてその程度で罪人になれるのだろうか。だけど、大きな犯罪をするには私は子供すぎて力が足りない。

そもそも10歳になる前の罪は罪人にならないかもしれない。となるとバレないように罪を犯さなければいけない。


「おねぇちゃん、おはよー!」


自室から出た私に声が掛けられた。

それは2つ下の妹から発せられたもので、妹はリビングに向かうために階段を降り始めるところだった。


「おはよう、よく眠れた?」


「うん!」と元気よく返事した妹の背後に近づいて。

――その背中を、()()()()()()()()


だってちょうどよかった。

ちょうど罪を犯そうとしていたときに。大きな罪を犯すには力が足りないと嘆いていた時に。私の力でも大きな罪を為せる弱い相手が見つかったのだから。


「わっ!」と声をあげて妹は階段から落ちていく。

鈍い音を立てて階下に落ちて、動かない。


「大丈夫!?」


大声をだして駆け寄る。

あれだけ鈍い音が響いたのだ。両親や入院している人が様子を見に出てきてしまうだろう。

そうしたら妹の近くにいる私は怪しいじゃないか。


妹の傍に座り込んで、妹の様子を観察する。

やれてなかったらトドメを刺さなければ妹から私が犯人だと判明してしまう。

そのためにも私が一番先に駆け寄らなければいけなかった。


だけど、そんな心配は必要なかった。

妹の頭からは血が流れはじめ、呼吸をしている様子もない。なにより首の骨が、きっと折れている。

よかった。ちゃんとやれてた。


妹だったものに、妹の名前を呼んで揺すっていると、すぐに両親が駆けつけてきた。

両親の顔は必死そのもので、その瞳の奥には微かな諦めの色さえ見ることができた。医師である両親がそんな表情をするのだから私の観察は裏付けされたも同然だった。

母は、今も妹にくっつく私にむけて部屋に戻っているように言った。


――あぁ、ありがたい。


私は言われた通りに自室に戻った。これ以上、あの現場にいるのは厳しかったから。

だってニヤニヤが止まらない。面白い。楽しい。この行動の結果はどうなるんだろう。ワクワクする。

自分の手のひらを見て思う。この手がやったんだ。まだ妹のぬくもりを覚えていて、押したときの感触も残るこの手が。


妹は昼になる少し前に亡くなったことが確定した。

沈んだ顔でそう私に告げた両親の前で泣くふりをした。無理やり涙をだすのは出来なかったから手のひらで顔を覆って指で自分の目を触った。正直これが一番大変で面倒だった。

大変だったし、面倒だったけど、それでも楽しいという気持ちはずっと私の胸の中で渦巻いていた。


この日の我が家はバタバタと慌ただしく、私は興奮冷めやらぬ一日を過ごして夜になった。

そして、奇妙な夢を見た。


そこは一面真っ白で、私と顔の見えない誰かしか存在しない不思議な空間だった。

その顔の見えない誰かは、自身を「神」と名乗った。そして、神は怒りを露わにしたまま私に告げた。


「あなたの妹は聖女となる存在だったのです。それを、あなたは……。

今、この世界では魔族が増加し、人が減少しているのです。その生物のバランスを正しい形にしようとしていたというのに、あなたは!

勇者、賢者に適応できる存在もようやく見つけ、一安心だと思っていたところでこれですか!

聖女が欠けた今、魔族の数を減らす計画の成功率は60%まで下回ってしまった。

このバランスを保つ作業が面倒だから人や魔族に役職を与えていたというのに!

それでもバランスは崩れるし、意図していないハプニングも起きる!

ああ!もう面倒くさい!!」


神はひどく荒れた様子で、その原因の一端が私にあると理解できた。理解できたけど、それがどうしたとも思う。だって、魔族が増えようがどうでもいい。


たしかに魔族はよく人をよく襲う。

魔族は魔法を扱うことに長けた人型の生物で、頭部に生えた角が特徴。

過去にその頭部の角が原因で人から迫害され、それ故に魔族は人を襲う。


「よくもまぁそんな興味なさげな顔ができますね。あなたのせいだというのに。

あぁそうですね。あなたは聖女にはなれない。()()()()()()()()ですもんね。」


「えっ、私は罪人じゃないんですか?」


神は大きなため息をついて言葉を続けた。


「役職が罪人となる条件は2パターン。ひとつは複数の他者から罪人だと認知されること。もうひとつは自身が罪の意識を強くもつこと。あなたはどちらにも当てはまらず、環境によって見習い医師となります。

あなたが罪の意識をもっていないことも腹立たしいのです。私の計画を邪魔しておいて、人の道を外れておいて。それでいて他者からもバレずに、罪の意識もない。

…私が直々に人を罰することができるなら真っ先にあなたを断罪するというのに!

神にも制約があることに対しても腹が立ってきました。

……あ。そうだ。そうじゃありませんか!」


神はいいことを思いついたのが分かる声色で、その見えない顔を近づけた。


「神は人に直接罰を与えることはできませんが、能力を与えることなら出来る。

役職を受け取る直前のあなたなら役職を与えることもできるわけです。

さぁ、あなたが私の代わりにバランスを保ちなさい。あなたのせいで狂ったのだから自分で尻拭いするのが筋でしょう?

あなたに与える役職は“代行者(バランサー)

これで私は面倒な作業から解放される…!

じゃあ、任せましたよライラさん。」


白い世界を蝕むように空間に黒が広がり、私の意識は落ちていった。

そして、次に目が覚めたときは見慣れた自室だった。


不思議と夢の記憶を覚えている。いつもならすぐに思い出せなくなるというのに。

夢であって夢ではない、そんな気がする。


「ステータスオープン」


――――――――――――

名前:ライラ

年齢:10

役職:代行者(バランサー)

スキル:

・世界状況

・天誅

・洗脳

――――――――――――


自身の能力を可視化する魔法を唱えれば、昨日までは存在していなかった役職が確かに記載されていた。

ただ、それは見習い医師ではなく、夢で聞いた代行者となっていた。


代行者なんて役職は昨日の夢の中以外では聞いたことがない。

より詳細なステータスを確認していく。


――――――――――――

役職:代行者(バランサー)

神の代行者としてバランスを保つ役職。

※この役職は最終成長役職であり、昇格先は存在しません。

――――――――――――


あれは夢じゃなかったんだ。


ふふっ、と微かに笑い声が漏れる。

神の代わりにバランスを保つ。神は言っていたじゃない、魔族が増えすぎているって。…なら、魔族を殺してもいいんだよね?

医師としての退屈な人生よりも遥かに刺激的な人生じゃない?

――面白そう。楽しみだよ、()()

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