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#6 死人に口なし、変態共に人権なし


 もう間もなく、日が落ちるという頃合い。

 トキヤは喫茶店以外の仕事を終えて、帰路につく。今日は気まぐれで数人分の食料を抱えている。

 今日のシフトは確か、ノルンとなしろの二人だけ。しかし、忙しいという連絡が来ていないのなら、自分の出る幕はない。

 久方振りにいい酒を買ったトキヤの足取りはいつもより軽い。酒を飲めば、ある程度の疲れなど吹っ飛ぶ。


 (ん?この気配は……師範と師匠が同じ場所に?師範がこっちに来ているなんて珍しいな)


 トキヤの師範は、トキヤとノルンの故郷に残っている妙齢の女性だ。

 未だ壮健な身体に、黒髪の長髪を動きやすいように後ろに纏め上げている彼女は、今でこそ一線を退いているが、かつては多くの人を率いて、探索者を導いていた。

 現役時代は、威力重視、精度度外視の双機銃(ツインマシンガン)を担ぎ、悪鬼羅刹と呼ばれていた程の猛者だ。

 トキヤやノルンがこちらに来た時には、既にご隠居として故郷でゆっくりと過ごすと聞いていたのだが、どうして此処で彼女の気配を感じたのだろうか。


 (しかも、師匠も同じ場所に……?まずい、|変態は惹かれ合うというのにっ……!)


 あくまでトキヤ自身の考えだが、射撃職は習得難易度が高いため、数ある職種の中でも常用している者が少ない。

 そのため、数を減らさぬよう、互いを互いで監視するためにネットワークが構築されているという。

 なんだか、嫌な予感がしたその矢先だった。けたたましい銃声が街中に鳴り響く。


 (方角は南……狙撃ポイントは1km先……ごーすてらか!?銃声的に撃ったのは師匠……!?)


 周囲の人間は長銃の発砲音など、気にも介さない。この街では日常茶飯事なのだ。

 近くには狙撃場だってある。戦闘から離れた一般市民には銃声の聞き分けなど出来るわけもない。

 涼しい季節ではあるが、冷や汗が止まらないトキヤは急いで狙撃者のいるであろう方角へと走り出す。

 どうして、ごーすてらを撃ったのか、事情を知らなければ、彼女らを許すことも出来ない。

 最悪のケースを想像して、愛用しているFAに弾丸を装填する。


 (師匠のことだ。きっと何らかの事情はあるだろうが、嫌な予感は大抵当たるものだ)


 脚力を瞬発的に増加させる魔術を詠唱し、彼女らの位置をマーキングして、街を駆け抜ける。

 間に合え、無事でいろと、そこから離れるな、と複雑な感情を織り交ぜながら。

 


_____________________


 場面は変わって、ごーすてらを狙撃した者たちが居るビルの屋上。

 硝煙の煙が未だに燻る中、己に生やした角をつんつん尖らせながら、依頼者(クライアント)はぷんすかしている。

 ごーすてらに所属していないのに、なしろが大好き過ぎるが故に同じ制服をハンドメイドで拵えて、プライベートでもメイド服を着用している女性──フカ・ネコザメだ。

 

 「あーあ。撃ってしまって良かったんですの?店主、絶対怒ってますわよ?」

 「…………(ノ∀`)」


 狙撃手である金髪の長髪をそのままにしている機械の身体の女性──この街きっての狙撃手であり、盗撮魔であるコードネーム『AmA』は、言葉を何も発さずに、顔を手で覆っている。

 『AmA』の反応を見たフカは、顔を真っ赤にして『AmA』のボディに拳でノックする。


 「たはー!じゃありませんのよ!どーするんですの!多分ですけど、店主こちらに気づいてますわよね?完全にこっち見てましたわよね?」

 「まぁまぁ、良いではありませんか。『AmA』氏は仲間のユキ殿を護るために狙撃したのでしょう?正当防衛ですよ。ははは」

 「(゜д゜)(。_。)(゜д゜)(。_。)」


 フカを嗜めるのは、同じく機械の身体に金髪の長髪を動きやすいように括っている妙齢の女性。

 名前はフィクス。かつては一線級の狙撃手だったが、年齢もあり、後進の育成などに注力している、かつては全国に名前を轟かせた変態だ。

 三人とも照準器や双眼鏡を用いて、大分離れた純喫茶ごーすてらを眺めていたが、店主であるノルンは的確にこちらを窓の中から睨みつけている。

 頭を抱えているフカを尻目に、『AmA』は己の撮った写真を現像する。そして、その写真をおもむろにフカに手渡すと、フカは目を輝かせ、写真に口づけをした後に、その場でくるくると踊るように回り始める。


 「っはーーー!^^堪りませんわっ!なんですの、この何処からか分からない視線に少し怯えたような表情をしたうえで、懸命に接客をしていたのにも関わらず、殺人ボイスのユキさんの声から逃れるために、耳を塞いできゅっと固く目を瞑って耐え忍ぶこのなし姫の表情……!!幸薄そうな元来の顔を相まってフカ的母性(ママ味)ポイントが爆上がりですわーっ!!はっ、それにこの写真……、ユキさんの声がうるさすぎて若干の殺意が軽鈍器(ウォンド)と表情に宿るこの一枚……、貴重ですわ!貴重過ぎますわ!!普段は笑顔と困り顔でしか構成できていないなし姫から、この表情を引き出せる彼女にはチップ30万ですわ!!オメガグッジョブですわーっ!!!!」

 「☆.。.:*(嬉´Д`嬉).。.:*☆」


 無言無表情でくねくねと奇妙な動きをしている『AmA』にその場で一生くるくるしながら写真を眺めているフカ、なんだか嬉しそうな表情で双眼鏡を覗いているフィクス。

 この三人が織りなしている異様な光景を目の当たりにしたトキヤは、屋上の扉を開くか相当に悩んだ。

 此処を出てしまうと、なんだか非常に面倒くさい状況に巻き込まれる気がする。


 (会話の内容を聞くに、恐らく師匠の依頼主はネコザメだな。依頼内容はなしろの写真の盗撮。だけど、先生は一体何故ごーすてらを覗いているんだ……?シンプルな興味なのか、誰かの依頼なのか……)


 トキヤが扉の反対側で思案していると、照準器から目を離したフィクスがトキヤの居る扉の方を向く。


 「おやおや、覗き見は感心しませんよ、アルフェルド。紳士ならば正々堂々覗かないと」

 「アスファルトが此処に居るんですの?……ちっ、流石、変態達は惹かれ合うというのですか……」

 「┐(´∀`)┌」


 三者三様の反応を見せる彼女達は全員、こちらを見ている。今更尻尾を巻いて逃げることは出来ない。

 ツッコミ不在のこの場から今すぐにでも逃げ出したい感情に襲われたトキヤだったが、戦闘準備だけはしておいて、扉を開く。

 案の定そこには、変態(レンジャー)が二人と異常者(フカ)が居た。此処からごーすてらまでは相当な距離が離れているが、師匠や師範レベルの狙撃の腕前があれば、動く的程度なら簡単に射止めることが出来るだろう。

 

 (彼らを相手取って、オレが勝てる可能性は万に一つもない。戦闘したとて意味はない)


 あくまで弾丸だけは装填しているが、格納して戦闘の意思がないことだけは示しておく。

 いつでも戦える状態にしているのは、最低限の防衛だけして即座に離脱するためだ。

 どういう状況下を聞くために来た。その事は、この場における不変の事実にしなければならない。

 トキヤは息を大きく吐いて、三人の変態に対峙する。大丈夫、彼は()()殺すべき敵じゃない。

 

 「お久し振りです、師範。まさか、貴女がこちらに来ているとは思いませんでした」

 「息災でしたか?久しく顔を出していなかったので、老婆心ながら私がこちらに来ましたが」


 周囲の空気は穏やかながらも、トキヤの内心はヒヤヒヤしていた。

 如何せん、何の情報もないのだ。唯一あるのはフカが師匠から受け取った写真にキスしながらくるくる回って、長文お気持ち発言していたことだけ。

 師範が、何故此処に居るのかは、本当に謎だ。いや、本当はある程度の想像はついている。


 (恐らくはノルンの事を見に来たんだろう。だがそれが単独か依頼なのか……)


 情報を得たい。探りたいのは山々だが、彼女は歳故に、様々な感覚が鋭い。

 こういう時は単刀直入に聞くのが一番だ。女には手を出さないのがポリシーなトキヤは例え、老婆であろうと銃を向けるつもりはない。そこのくるくる回っている変態は例外だが。

 ゴクリと生唾を飲んだ後に、トキヤはまっすぐにフィクスを見据える。

 

 「師範はノル……ウルを見に来られたのですか?」

 「えぇ。随分と様変わりしたようですね、彼女は。昔は我々と同じ狙撃職だったのに」


 割とあっさり目的がノルンだと分かって、内心ホッとするが、引き出さないといけない情報は、他にも沢山ある。

 フィクスは言ってしまえば、出不精だ。故郷の中ですら特定の場所でしか行動しないのに、こんな離れた場所にまで気まぐれで出向くとはとても思えない。

 誰か、何かしらの意思が彼女を此処まで運んできたとしか思えない。

 暗殺か、観察か。どちらにせよ、トキヤはトキヤで彼女の返事次第では取るべき行動が変わってくる。


 「単刀直入にお聞きします。師範は、ウルをどうされるおつもりですか?」

 「別に何もしませんよ。物騒な思考で動こうとするのは悪い癖ですね」

 「┐(´∀`)┌」


 フィクスの隣で呆れたと身体で精一杯表現している師匠はひとまず置いておいて、トキヤは思考をフル回転させる。

 どう言葉を紡げば、彼女から欲しい情報が得られるのか。こういうのはいつもノルンがしていた。

 交渉術や対人能力に長けた彼女は、いつだってトキヤの助けになっていたのだ。

 どうにも自分は、交渉や折衝が得意じゃないらしい。こうなれば猪突猛進に行こう。


 「では、師範は一体何しにセントラルシティにまで足を運ばれ、ウルを監視しているのですか?」

 「簡単な話ではありませんか、()()()()()()()()()()()()()()。これを調べる必要がないと、アルフェルドは本当に思いますか?」

 「ェ━驚━ヾ(゜Д゜*)ノ━驚━エ!!」


 本当に音を立てないのに喧しいなこの人、とトキヤは横目で師匠を見ながらそう思った。

 頬を撫でるそよ風が、嫌に生暖かい気がする。フカはフカで複雑そうな表情で、そっぽを向く。

 


 

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