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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
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#51 空が裂け、時が迫る


 

 のるん達が「星蝕の祭壇」へと足を踏み入れたのは、確認した。

 茶々丸が持っている端末は遠隔で監視されており、なしろ達に位置情報を随時発信し続けている。

 最寄りの端末から歩いて数十分という場所にある祭壇は、昔は儀式用に使われていたらしいが、今は人が立ち寄る理由も無くなり、過去の遺物と化している。


 (にしても、暑い……スティアってこんな場所なんだ)


 なしろは、盞華、鈴、凪織、紫亜の四人と共にのるん達を追い掛けて此処まで辿り着いた。

 うだるような暑さに、あちこちからマグマが吹き出している溶岩地帯。

 黒曜石や冷えたマグマが足場となっており、他の区域と違って道路補整などもされていない。

 各々が暑さを凌ぐために薄着になっている中、なしろだけはいつもどおりの格好をしていた。

 

 「姫宮嬢、その格好はスティアでは暑いと思うので、着替えられては?」

 「んーん。これで良いの。この格好じゃなきゃダメなの」


 なしろが着ていたのは、のるんから初めて貰った服の一着。

 デニム素材のジャケットに白いシャツ。ブルーのロングスカート。

 おしゃれだねって、言ってくれた。今でもお気に入りのコーデの一着だ。

 鞄は「焼鳥くん」を使い、中にはレスタサインや化粧品などを入れている。


 「端から見れば、どう考えても道に迷った一般人ですよね」

 「で、でも。おしゃれですっ、弘法筆を選ばずといいますし、気合が入ればおっけー……です。わふぅ」

 「うんうんっ。ボクもそう思いますっ。街でも野外でも着られる辺り、センスありです!」

 

 三者三様と言った様子だが、なしろはコレだけは譲らなかった。

 どれだけ汗をかこうとも、この格好のせいで敗北したと言われようとも。


 (わたしは、勝ちに行くんじゃない。取り戻しに行くんだから)


 収納してある愛用の軽鈍器(ウォンド)を握り締め、なしろは方向を確認する。

 スティア地方は目印になるものが非常に少なく、道に迷いやすいのだ。

 目印で言うのであれば、真北に進んだ先に、今回の目的地である祭壇があるくらい。

 

 「今、茶々丸さんはどの辺りに居るの?」

 「「星蝕の祭壇」の少し前あたりですね。ただ、気になるのが……」


 端末をカタカタと叩きながら、鈴は浮かない表情で画面を見つめる。


 「この人、動いてないんですよね。端末を置いて行ったのか、そこで待ち構えているのか」

 「不届き嬢を迂回するルートはあるのでしょうか?」


 鈴は首を横に振る。

 盞華はふむ、と顎を撫でながら、考え込む。


 「無いことは無いですが、大きく迂回する事になりますね。必ず通るべき場所になります」

 「要するに時間稼ぎをするつもりなのでしょう。臨戦状態にしておくべきですね」

 「りょ、了解ですっ。わふっ、誰が来たって負けるものですか……!」


 凪織が鼻息を荒らげながら、得物である軽鈍器を手入れをしている。

 紫亜もそれに倣って、刀の手入れをしながら、ふとなしろに尋ねた。


 「そういえば、姫宮様。あちらの戦力の詳細な情報を再確認できればと思うのですが……大丈夫でしょうか?」

 「そうだね、歩きながらそうしよっか」


 なしろは、頭の中で相手の面々の情報を思い浮かべながら、一人ずつ話し始める。


 「まずは……シルヴィア・ラスフォルトさん。主職業(メインクラス)は「傭兵(バウンサー)」。使う武器は基本的に飛翔剣(デュアルブレード)だけど、テクニックで補佐もしながら戦える器用な人だね」

 「私は存じ上げない方ですが、純粋な戦闘職というよりかは、補助兼補佐といった感じでしょうか?」


 鈴の言葉に、なしろは首を横に振る。


 「んーん。純粋な戦闘力がずば抜けてるから敢えて補佐に回ってるだけで、相手が一人の時は、相当強敵だと思う。きっと、茶々丸さんの補助がメインで、あまり表立って活躍するのを避けてる感じじゃないかな」

 「能ある鷹は爪を隠す……って感じの方なんですね。おーのー!」


 盞華の言葉に、周囲の空気が凍りつく。

 自信満々げだった盞華の表情もみるみるうちに萎んでいく。


 「気にしないでください……。姫宮嬢、話を続けて下さい……。後生ですから」

 「あはは……じゃあ次は茶々丸さん。主職業は「闘迅者(ファイター)」。シルヴィアさんとは違った二刀流の武器、「双刃(ダブルセイバー)」を主に使ってる武闘派です。周囲に鎌鼬を発生させ、近接戦には無類の強さを誇る相手だね。相手を選ぶだけで、遠距離職であれば、比較的有利に立ち回ることが出来るんじゃないかな」

 「なら、戦うなら弓を扱える夜刀神さんか、私が適任。と言った所でしょうか」


 なしろは、うーむ、と腕を組んで考え込む。


 「一対一で戦っている所をあんまり見たこと無いんだけど、茶々丸さん側もそれを警戒して、極力は相性のいい人を選ぶんじゃないかな。日頃は莫迦みたいな立ち回りするけど、本気の時は違った対応をするかも知れない」

 「元、同郷の好で言うのであれば、彼女は普段はやる気がないだけで、やる気を出した時の変わり様は凄いですよ。同じ職業であそこまで立ち回りが違うのかと、昔は感心していたものです」


 盞華の言葉に、全員が頭に疑問符を浮かべる。


 「なんで、そんな皆さん不思議そうな顔をするんです?」

 「いや、だって。違うじゃないですか?拳野郎と闘迅者ですよね?」


 盞華はぎょっとした表情で紫亜の方を見る。


 「しあさん!違いませんよね?同じ職業ですよね!?」

 「ええっ!?ええと……」


 盞華の言葉に、紫亜はまごまごとした様子で指をこねる。

 視線をあちこちに動かしながら、頬を赤らめた紫亜はそのぉ、と声を小さく漏らす。


 「一般的には同じと思うんですけどぉ……、盞華さん達は別かなって」

 「そんな……、誰にそんな思考を植え付けられたんですか……」


 紫亜の肩を掴み、強引に揺らす盞華を横目に、なしろは地図と進行報告を確認する。

 何が楽しくて、こんな場所でまで盞華劇場を見なきゃならないのだと、半ば呆れながら。


 「白さんです……、『我々ナックルフォーは闘迅者にあらず、拳野郎也!!」と……」

 「おのれしろぉぉぉぉぉっぉお!!!」


 恐らく、この場の人間は頭の中に、ドヤ顔でサムズアップした白の姿が浮かんでいるだろう。

 必死に盞華が殴り飛ばそうとしても、瞬時に回避する白は、ドヤ顔のまま何処かへと消えていった。

 去り際に『|Arrivederciアリーヴェデルチ!!』と聞こえたような気がしたのだが、なしろは気にせず先に進む。

 なしろが鈴と先に進む中、突如、紫亜が小声で「姫宮様、止まって下さいっ」と服の袖を引く。


 「なに、どうかした?」

 「この先、少し離れた場所から人の気配がします。数は1。動きから察するに、待ち伏せです」


 斥候が得意な紫亜が言うのだから間違いないだろう。

 茶々丸が居ると指している場所からは少し離れているのを見るに、彼女以外の誰かだろうか。


 「どんな人?特徴とか教えて」

 「えーと……黒いスーツを着崩したような方ですね。両目の色が違うのでデューマン種でしょうか」


 消去法で考えれば、シルヴィアで確定だろう。

 のるんはヒューマン、茶々丸はキャスト、リアはニューマンと、全員の種族が違う。

 目の色が違うデューマンといえばシルヴィアでしかない。


 (一人で待ち伏せってどういう事……?一対五をするつもり……?)


 彼女達の意図を考え込んでいると、いきなり空が黒く染まり始める。

 なしろが空に目を奪われていると、少し離れた場所から、声が鳴り響く。


 「姫宮様!そこに居られるのは分かっています!!姿を表して下さい!!」

 「……バレてるみたいですけど、どうします?姫宮様」


 シルヴィアのブラフかもしれないが、どちらにせよ、あの場所を通らねば先には進めない。

 他の面々にも目配せし、なしろは姿を表す。

 シルヴィアはなしろ達が見えると、恭しく礼をし、真っ直ぐなしろ達を見据える。


 「先程ぶりですね。……空が裂け始め、もう間もなく姫宮のるん様の目的は成就されます」

 「そんな事させない。のるんが何をしようとしてるのかは分からないけど、絶対に止める」


 なしろの言葉を聞いたシルヴィアは、悲痛な笑みを浮かべる。


 「お優しいんですね。姫宮様は」

 「そんなわたしの、邪魔をするの?」


 シルヴィアの表情が元に戻り、何を考えているのか分からない鉄面皮に戻る。

 

 「残念ながら、今の私はのるん様に雇われた身。任務は必ず遂行します」

 「……分かった。じゃあ容赦はしないから」


 なしろが武器を出そうとすると、なしろの手が誰かに掴まれる。


 「なしろさんっ。此処はボクに任せて行って下さいっ。此処で五人で戦ってしまっては相手の思う壺ですっ、わふぅ」

 「僕も尽力しましょう。きっとワンコさんだけではかなり厳しいでしょうから」


 凪織と紫亜が名乗り出、武器を構えて、シルヴィアの前に立つ。

 何故か僕が、ボクが、といがみ合ってるのだが、なしろはキョトンとした表情で立っている。


 「行きましょう、姫宮さん。彼女達の言う通り、時間が無い中で各個撃破は愚策です」

 「……分かった。シルヴィアさん!半殺しくらいでゆるしてあげて!」


 なしろの言葉に、シルヴィアは恭しく礼をする。

 なんで相手にお願いするんですか!と二人が声を合わせているが、相手の強さを知っているからだ。


 「かしこまりました。姫宮様もご武運を」


 その言葉を聞いたなしろは盞華、鈴と共にシルヴィアの隣を駆け抜けていく。

 空が裂け、黒くなりゆく中で、一体、のるんが何をしているのかを考えながら。



 

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