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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
53/54

#50 戦えない理由

 時系列は#39付近です。

 のるんがごーすてらを足早に去り、リアに見つかる少し前の頃の話です。


 己の仕事をこなし、ごーすてらを出る前に、のるんはフカを店の裏に呼び出していた。

 今の店内は、徐々に堕夢から醒める面々を介抱するのに必死で、自分を探す者など居ない筈だ。

 夜通し、店内を警戒していたフカは目を擦りながら、のるんの前であくびをしていた。


 「なんですの。折角物事がいい方向に進んでいるこんな夜更けに呼び出して。まさか、親権の譲渡を!?」

 「うん。当たらずとも遠からず。って感じかな?ちょっと話があってさ」


 のるんの表情を見たフカは、一気に表情や態度を切り替える。

 真面目な話をしに、呼び出されたのだと気づいたのだろう。


 「へぇ、あれだけ頑なに譲ろうとしなかったものを、どうしてこのタイミングで?」

 「やらなきゃいけないことが出来ちゃってね。生きて帰れるとは限らないからさ」


 フカは目を細め、近くにあった木箱に腰掛け、足を組む。

 普段は吸わない葉巻に火を付け、煙を口からぷかぷかを遊ばせながら吐き出す。


 「帰って来る可能性はあるんですの?」

 「成功すれば、帰ってこない。失敗すれば……、まぁ。生きてはいるだろうね」


 フカは小さく鼻で笑う。お前らしくない、と言わんばかりの哀れみの表情も交えて。

 ジリジリと葉巻が短くなっていくのを見守りながら、のるんは言葉を続ける。


 「流石にあの歳で、一人で生きろ。とはボクも言えなくてさ。じゃあ誰に頼ろうかなって思った時に、年増ネコザメイドが適任かなって」

 「本っ当にいつも一言余計ですわね。あの子の為を想うなら、尚の事、生きて帰る選択肢を模索するべきではありませんの?……それとも」


 のるんは首を横に振る。

 何度も何度も葛藤しながらも、考えた末の結果だということは伝わった筈だ。 

 苦虫を噛み潰したような表情ののるんを、フカは冷ややかな目で見たまま、煙を遊ばせる。


 「そうですの。ですけど、わたくしは戦えませんわ。戦闘能力がからっきしですし、なし姫を守ることだって、ままらないかも知れませんの。戦える上に、あの子を守れる。という条件なら、盞華さんや、フルールさんだって適任だと思いますけど」

 「今日はいつにも増して回りくどいなぁ。歳食うと例え話が多くなるって言うけど、そういう事?」


 のるんの煽り文句に、青筋を浮かべたフカは長杖を取り出すも、すぐに収納する。

 わざと煽っていることに気づいたのだろう。挑発に乗るものかと、冷静さで怒りを抑え込んだのだ。


 「フカさんは戦えない訳じゃないでしょ。「失われた職業(ロスト・クラス)」の「幻影(ファントム)」の影響で、他の職業が使えないとかじゃないかな?」

 「……どうして、そう思うんですの?」


 低い声で、警戒心を最大限まで引き出しているその態度がもう答えだ、とはのるんも言わない。

 少し考えれば分かるはずだ。ヒントはコレまで一緒に居て沢山残されていた。

 のるんは、どう答えようかなぁと、少し考え込んでからポツポツと話し始める。

 

 「まず最初に、フカさんがボクと同じハガル出身だって事からかな」

 「でもそれだけなら……」


 指をこね、まごついているフカにのるんは困ったような表情で笑う。


 「誰も知らないんだけど、実はリアもボクも「失われた職業」、使えないことはないんだよね」

 「なっ……。同郷なのは聞いていましたけれど、今でも使えるのは本当に極一部ではありませんの?」


 のるんは頷きながら、刀を取り出し、いつもの構えとは変えて見せる。


 「「幻影」の構え方……。じゃあ貴方は本当に……」

 「一応は扱えるよ。そんなに得意じゃないし、セントラルで使うつもりは更々無いけど」


 刀を収納し、のるんはごーすてらの壁面に身体を預け、空を眺める。


 「まぁ、前から気づいてたんだよね。戦えないって言って長杖を出した時の動きとかが、今の「光導者(フォース)」と違って見えたこと。後は多分……、ハガルを出てから殆ど戦ってないから、「光導者」としての戦い方をそもそも知らないとか、そんな所じゃない?」

 「……本当、見てないように見えて、見ておくべき所は見てるんですのね。えぇ、そうですわ。わたくしは「幻影」であればそれなりに扱えますが、それでもセントラルでは「失われた職業」を使っての戦闘は基本的にご法度。つまり、戦う手段を持ち合わせていないので無力。と言うことですわ」


 フカの言葉を聞いたのるんは、うんうんと首を縦に振り、何故かご満悦と言った表情だ。


 「なんでそんなに嬉しそうなんですの?結局は無力で謙虚で瀟洒なネコザメイドなんですのよ?」

 「あはは、ごめんごめん。でもさ、本当に大切なものを守るのに、ルールなんて守る必要ある?」


 のるんの言葉に、フカは即座には言い返せずに、目を見開き、口をぱくぱくとさせる。

 少ししてから、ようやくフカの口から、言葉が聞こえてくるようになった。

 

 「いざって時はそうですわね、目撃者全部をぶっ殺してしまえば……問題はないでしょうけど」

 「そういう事!だからさ。ボクに万が一のことがあった時は、お願い」


 のるんは深々とフカに頭を下げる。

 これまで一度も下げられたことのない頭に、フカは更に驚く。


 「バカ店主である貴方が、わたくしに頭を下げる日が来るなんて……」

 「そりゃあお願いする時は頭くらい下げるよ。……なしろ一人にこの店を任せても、すぐに潰れるだろうしさ。年増ネコザメイドがバックに居れば、色々勉強になると思ってさ」


 やはり一言多いのるんに、フカは怒りを覚えながらも、深く息を吐いてから尋ねる。


 「仮に身元引受人になったとして、わたくしにメリットはありますの?」

 「……聞かずとも、メリットしか無いんじゃない?散々、ボクからなしろを簒おうとしていた癖に〜。合法的にキミの娘にでも、嫁にでもすればいいさ。勿論、なしろの許可を得たら、の話だけど」


 何かを妄想したのか、フカは徐ろにボトボトと鼻血を垂らし始める。

 持っていた葉巻の火も消えてしまい、恍惚とした表情のメイド服姿のフカは、うへへと声を漏らす。

 よだれを垂らしていたことに気づいたフカは、はっとし、急いで袖で拭って表情を戻した。


 「しょ、しょうがないですわね。最悪のケースの場合、わたくしが責任を持って引き取りましょう。でも、可能な限り、生きる選択肢を捨てるのはお止めなさいな。あの子には、貴方がまだ必要なんですの。きっと、貴方を失ったなし姫は、心に深い傷を負うことになりますわ。その傷は、流石のわたくしでもそう簡単には癒せないでしょうから」

 「うん。分かった、ありがとう。そのついでにもう一つお願いしても良い?」


 恐らく話を半分以上聞いていなかったであろう、フカは二つ返事で首を縦に振った。


 「ボクの作戦が進み、最終段階に移行した時、空が黒く染まると思うんだ。その時に、きっと邪魔しにくる人が居ると思う。それもかなり強い相手がね」

 「空が黒く……ねぇ。随分ド派手な事、しでかそうとしてるじゃありませんの」

 

 鼻にティッシュを詰め込み、葉巻に再び火をつけたフカは、真面目そうな表情で耳を傾けている。

 先程まで鼻血を垂れ流し、恍惚とした表情でトリップしていたとは、とても思えない変わり様だ。

 その絵面で、どうしてそんな顔ができるんだろうと思ったのるんは、何も言わずに言葉を続ける。


 「無いとは思うけど、もし邪魔が入った時は足止めだけしてて。その子は「星蝕の祭壇」へと至る「リューカーデバイス」を使う筈だから、その前で待っていて欲しいの」

 「……その子って、どんな子なんですの?貴方がそこまで言うなんて、気になるじゃありませんの」


 フカの言葉に、のるんは優しく笑う。

 我が子を慈しむような、その笑みにフカは同性ながらも少しドキッとしてしまった。


 「無邪気で、陽気で明るくて……、仲間を大切にするような。そんな優しい子だよ」



 

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