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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
最終章『彼女達は何を見たのか』
52/53

#49 最期の約束

 時系列は#19付近です。

 なしろが『Noise』と契約し、ウルを退け、ごーすてらへと帰ってきた日の夜です。


 


 なしろが自分の隣で、すぅすぅと寝息を立てている頃、寝かしつけるためにのるんは、一緒にベッドで横になっていた。

 なしろが寝たのを確認すると、誰も居ないはずの場所を睨みつけて、部屋を後にする。

 目的の人物が自分と一緒に移動したのを確認すると、のるんは1階で、小さな声で呼びかける。

 

 「姿、顕しなよ。別に隠れたって意味無いし」

 「随分と懐かしい顔だな。まさか、《削除済み》がまだ生きてたとはね?」


 のるんの言葉に呼応して、黒い靄を発しながら、何処からか若い女性の姿をした何かが顕れる。

 些か気怠げな雰囲気を漂わせている彼女は、表情を歪ませ、宙に浮きながら頬杖を立てている。

 彼女は『Noise』……、なしろに憑依しているまつろわぬ外神。見ての通り人間ではない。


 「久しいな。時間の流れを理解してないからアレだが、オマエとはどれくらい振りになる?」

 「さぁ。ボクも時間の流れをそこまで把握してる訳じゃないから。それでも()()()は経ってないんじゃないかな?」

 

 あっけらかんと答えるのるんに『Noise』は快活に笑う。

 それなりに大きい声で笑う『Noise』にのるんは眉を顰め、己の唇に人差し指を添える。


 「なしろが寝てんだから、もう少し声量抑えなよ。今夜中だよ?」

 「あー。人間ってのは昏い時間を「夜」って呼称するんだったか。眠らないアタシからしたら、難儀でしか無いな」


 どうも、人間に理解のない人外というのは、自分のことしか考えないらしい。

 顕現したばかりだからだろうか。昔はそれなりの良識を持ち合わせていた筈なのに。

 宙を漂い、退屈そうにあくびをする『Noise』は、目を細めてのるんを見据える。


 「それで、なんでまた現世に顕現してるの?もう出てこれないと思ったのに」

 「アタシも大人しくするつもりだったんだけどね。「呼び起こされた」って感じか?」


 彼女が嘘を言ってるようには見えない。原因はなしろだと言わんばかりの態度だ。

 『Noise』はこの世界に居てはならない。今すぐにでも消し去らねばならない。

 少し考えてから気づいた。嫌な予感を胸に抱きながら、のるんは気になったことを尋ねる。


 「アンタ、もしかしてなしろと『契約』したの?」

 「うむ。アイツがアタシを望んだんだ。それに呼応して『契約』は履行したって訳だ」


 『Noise』の言葉に、最悪のケースだ、とのるんは頭を抱える。

 何も知らないなしろを契約者に選んだ彼女にも非はあるが、なしろもなしろだ。


 (記憶喪失の影響もあるか……、ボクの知らない所で力を欲したんだろうな……)


 原因が自分にあることを預かり知らぬのるんは、突然襲われた頭痛に悩まされる。

 顕現したばかりの『Noise』は興味津々といった様子で、店内を物色しながら、あ、と声を出す。

 

 「オマエの事だ、どうせアタシが悪いって思ってるんだろうが、壱百、アタシが悪い訳じゃない」

 「……勿論、契約したなしろにも非はあるけど。今まで若い女の子と契約したことなんて無かったでしょ」


 『Noise』はのるんの言葉に自慢げな表情で人差し指を数回、横に振る。


 「ちげーんだよなぁ、アイツ。オマエと近い存在だ。純じゃないが、それなりに「混ざって」やがる」

 

 のるんは『Noise』の言葉に、信じられないといった様子で、目を丸くさせる。

 彼女の言葉を信じ、混ざっているということは、親がその類(遺伝)なのだろうか。

 可能性を潰すべく、のるんは続けて『Noise』に質問を続ける。


 「それって、先天性?後天性?」

 「恐らく、後天性。混ざり方が、今までの奴と違う。無理矢理混ぜられた……みたいな感じだな」


 ならば、誰かしらがなしろに契約者にさせるべく、手を加えたという事になる。

 記憶喪失だと言っていたのも、何者かに記憶を奪われた可能性が途端に跳ね上がる。


 (一体、誰が何の目的で……?)


 物凄く嫌な予感がする。自分の居ない所で、一手ずつ駒を進められていくような、そんな感覚。

 外神である『Noise』や、何の罪もない幼子であるなしろを使ってまで、何をしたいのだろうか。

 考えても分からない物は分からない。今は眼の前の外神をどうするかを考えなければならない。


 (もしかして、こいつを消さねばならない、というボクの考えを……?)


 流石に考え過ぎか。そこまで計算してたとして、自分を消す方法など他にいくらでもある。

 それこそ、この世界の猛者や暗殺者に依頼をし、さっさと殺してしまえばいいだけの話だ。

 色々考えたのるんは、はっと思い出す。彼女を使用すると、凄まじい副作用が身体を襲うことを。

 

 「ボクが知らない間に、あの子は何回オマエを使った?」

 「ん?一回だけだが。そんな事を聞いて、何の意味がある?」


 『Noise』の言葉に、のるんは内心、そっと胸を撫で下ろす。

 人にもよるが、彼女の力を引き出した際に、意識が混濁したり、心身に負荷が掛ることが多々ある。

 最悪の場合、身体が耐えきれずに死に至る者だって居た程なのだ。

 そんな危険なものを、まだ拾代の彼女に使わせるわけにはいかない。

 

 「ねぇ。『多重契約』、貴方は出来る?」


 のるんの言葉に、『Noise』は、はっと鼻で笑い飛ばす。


 「可能か不可能かで言えば、可能だが、オマエに何のメリットが有る?」

 「あるさ。あの子がオマエを使った時の副作用を、全部こっちに流せ」


 『Noise』は訝しげな表情を見せる。本気で言っているのか?そういう顔をしている。

 こちらは怪しまれるのを壱百も承知だ。真っ直ぐと彼女を視界に収め、言葉を続ける。


 「そうすれば、仮にあの子が使っても、デメリットは無い。心身の負担もない。そうすれば、ボクは安心出来る。オマエは何不自由無く、この世界に顕現でき、契約者の力になれる。お互いWin-Winだと思わないか?」

 「お前……、見ない間に、何処か壊れたか?利己主義の塊だったオマエらしくもない」


 人間、時間が流れれば、少しずつ変わっていくものだ。

 付き合う人、過ごす時間、周りの環境や、人間関係はその人間を少なからず変えるものだ。

 それこそ、不変だと思われる者は、孤独に苛まれ、誰とも深く知り合えなかった愚か者でしかない。

 現に、眼の前の外神ですら、少し変わったな、と思わせるくらいだ。

  

 「ボクだって、守りたいって思うものが出来たって良いでしょ?」

 「はっ、殊勝なことだね。それが奇しくもアタシの契約者だったという訳か。災難だなオマエも」


 ふん、とのるんはそっぽを向く。

 腐っていても、感情くらいある。慕ってくれている子を無下にする程、人として終わってもいない。

 慕ってくれている者を無碍にし、自分勝手に振る舞う人間など、相手にする価値はない。

 のるんはそういう人を良く知っている。だからこそ、そうはなりたくないと思っているのだ。


 「そういうアンタは?」

 「あん?アタシがなんだって?」


 昔の自分であれば、有無を言わさずに消し去るべく、動いていただろう。

 だが、今は違う。全ての事情を鑑みたうえで対処を考える。


 「さっき言ってたじゃない。大人しくするつもりだったって。現世に未練とか、ある?」

 「いや、無いね。強いて言うなら、今回の契約者を可能なら傷つけたくない、ってことくらいか。だから、オマエの提案は面白いなって思った。『多重契約』って手段。乗った、やってやんよ」


 『Noise』の手を取り、のるんは彼女と契約を交わし、『Noise』と契約関係になることが出来た。

 これで、なしろが力を使ったとしても、副作用がこちらに来るようになった。


 「だが……、本当に良いのか?別にアタシは構わないが、昔の《削除済み》ならいの一番に殺しにかかっただろうに」

 「ボクだって変わるさ。あと、その名前は捨てたんだ。のるんって呼べ。それに、お前を送り返す方法も考えはある」


 『Noise』はふよふよと浮いたまま、へ〜?と興味津々といった様子で立て肘をつく。

 基本的には何事にも興味がない、と言った表情で居た昔とは大違いである。

 契約者の力になるフリをして、心身共に蝕み、縊り殺す外神とは思えない程、殊勝な態度だ。


 「また()みたいに、大量虐殺した血と怨念、後はオマエの全てを捨てて、アタシを追い返すつもりか?」

 「残念ながら、ボクはもう何も持ってないから、それは出来ない。それに、このご時世で大量殺戮なんて出来ないからね……。他人を殺して良いって免罪符は、今はそう簡単には手に入らないから」


 かつて、のるんが『Noise』を現世から追放した時は、人が人を殺すのがそうおかしくもない時代だった。

 殺し合いや、生存競争が激しく、人間を襲う謎の生命体が人類を脅かしていた時代だ。

 生物が死ぬのがありふれていた時代だったから、人を定期的に殺したってバレることもなかった。

 時には、何をどれだけ殺すかを誇る者だって居たのだ。そうしないと死ぬと思う者だって居た。

 大量の人間を殺して回り、血と其の者達の怨念を持って、『Noise』を契約者から引き剥がした。

 

 「じゃあ。どうするつもりだ?アタシをなしろから、引き剥がす方法あるのか?」

 「あるさ。人を多く殺せないなら、効率を上げれば良い。ボクが全てを失ったと言うなら……」


 久方振りに、のるんは悲しそうに、それでいて歪な表情で小さく笑う。

 覚悟を決めた彼女は、少しずつ少しずつ準備を進めるべく、夜の間に行動を続ける事としよう。


 「斬り殺しても死なない武器と、残ったボクの全て。この二つがあれば、問題ないでしょう?」

 「ハハッ!オマエ、やっぱ狂ってんな。そんなもん、用意できるのか?」


 のるんは『Noise』の言葉に、首を縦に振る。


 「作れる奴に心当たりがある。龍の頸の玉だろうと、取ってきてやるさ」

 



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