表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
第五章『失いつつある物が』
51/52

#48 「幸福な結末」


 『そうして、姫宮なしろ達は、姫宮のるんを追い掛け、「星蝕の祭壇」へと向かった』


 ネメシスは黙々と、筆を走らせ、一冊の本を書き進めていく。

 なしろの動向や、考えなどを一つの物語として認める。これが数少ない、彼の趣味だった。

 一頻り、現状の段階を書き終えたネメシスは、書いていた本をペラペラと捲り、考え込む。


 「ふむ……、この物語ももう終盤だ。この先の展開が、待ち遠しいね」

 「なぁに、悪趣味なこと言ってんの!この変態執筆野郎っ!」


 いきなり、こちらを罵りながら、ネメシスの後頭部にきっつい一撃が御見舞される。

 死角からの一撃に、顔を顰めながら、声のした方向を見る。

 

 「何するんだ……、痛いじゃないか。ニュクス」

 「ふんっ!ネメシスがキモくて、変態なせいだもんっ」


 酷い言われようだ。そこまで罵られるようなことをしただろうか。

 腕を組み、そっぽを向く、その仕草は本気で怒っているように見えないのが、本当に惜しい。

 どうせなら、思いっきり反抗してくれればいいのに、なんてネメシスは考える。


 (その方が面白いから。なんて、とても彼女には言えませんけどね)


 殴られた後頭部を擦りながら、ネメシスはニュクスに座るように促す。

 こういう時はだいたい、話し相手になって欲しい時だ。話したいことがあるのだろう。


 「それで?僕の知らない間に外で何を見てきたんだい?」

 「ネメシスのことだから、どーせお見通しでしょ?ボクが言うまでもないくせにっ」


 心当たりがありすぎて、どれか分からない。

 そういう方向で聞いたのだが、どうやら意図を勘違いされたらしい。

 未だに幼い部分が多い彼女は、舌戦が得意ではない。故にこういう齟齬が多々ある。

 小さく息を吐き、ネメシスはニュクスの隣に座り、手を取って甲に口づけをする。


 「残念ながら、僕も万物を見守れるわけじゃない。キミが見たものを教えてくれないかい?」

 「そ、そこまで言うのなら仕方ないなぁ!ボクの言葉を刮目して聞くんだぞっ!」


 間違った言い回しを指摘したい所だが、丁度良く煽てているタイミングなので、笑顔で聞き流す。

 下手に指摘すると、ニュクスのお怒りゲージが伸びに伸びて、手が付けられなくなるからだ。

 すっかり気を良くしたニュクスは、自尊心が満たされたのか、ぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。

 

 「少し前に、あの子に会ってきた。前と変わらないあの子のままだったのに、寂しそうだった」

 「「姫宮のるん」に会ったんだね。そこではどんな会話をしたのかな?」


 ネメシスは、にこやかに頷きながら、内心で舌打ちをしていた。

 想定外の事態だ。あれ程、彼女達には無闇に接触するなと言ったにも関わらずだ。 

 姫宮なしろに注視していたせいで、のるんの動向を注視していなかったタイミングを突かれた。

 恐らくは、ラ・フルールをラスフォルトに任せ、盗賊狩りをしていた時だろう。

 その時は、茶々丸達や、姫宮なしろの動向を見ていたせいで、姫宮のるんを見ていなかった。


 (多分無意識だろうけど、僕の見ていないタイミングだと解ってた可能性もある……)


 油断ならないな、と思ったが、ニュクスの表情を見て、溜飲を下げる。

 きっと、良い結果は持って帰ってこれなかった。そういう報告である可能性が高い。

 ニュクスの言葉を待ちながら、ネメシスは様々な返答を想定して、頭の中で言葉をいくつか用意する。

 

 「やっぱり、意志は固いみたい。それに、ボクがしたこともバレてた」

 「そりゃあそうさ。堕夢が同時期同場所で複数人も発症するモノじゃないからね」


 ネメシスの言葉に、ニュクスは頬を膨らませる。

 突付けば、すぐに破れてしまう程に膨らませた頬は、まるで小動物のようだった。


 「む〜。それ、あの子も言ってた。でも、ボクの力じゃ、()()()()事しか出来ないし……」

 「そうだね、だから下手に動いちゃいけないんだよ。僕達は」 


 怒りの次は、哀しみの表情。こうもコロコロ変わると、見ていて楽しい。

 自分の表情の変遷が少ない分、彼女の感情の起伏の激しさがより際立って見える。

 ネメシスは本を置き、何処かへと消し去る。今は彼女だけを見ていよう。


 (今、あちらは移動中だ。視界に入れなくても、然程問題はないだろう)


 チラリと、姫宮達を見たネメシスは、すぐさまニュクスへと視線を移す。

 よそ見していたことも気づいていなそうだ。内心、胸をそっと撫で下ろした。


 「でも、このままじゃ本当にあの子が死んじゃう。ねぇ、どうにかならないの?」

 「どうにかって?」


 ネメシスは、ニュクスに言葉の真意を尋ねる。

 解釈違いや、勘違いをしてはいけない場面では、蛇足じみた言葉も大切なのだ。


 「だから!あの子が死なないで済むハッピーエンド的な何かだよ!」

 「「姫宮なしろ」ごと、殺せば良いんじゃないかい?そうすれば、ハッピーエンドだ」


 ニュクスは立ち上がり、顔を真っ赤にして首を横に勢いよく振る。

 どうやら、自分の解答はお気に召さなかったらしい。言葉というのは本当に難しい。


 「そんな事!あの子は絶対にしない!しかも、それはハッピーエンドなんかじゃないっ!!」

 「……ハッピーエンドとやらの定義は人それぞれだろう?キミの言うハッピーエンドってのは、どういう物を指すのかな?」


 ネメシスは、眼鏡の位置を調整し、鋭い視線でニュクスを射抜く。

 奥歯を噛み締め、ぐぬぬとこちらを睨み返したのもつかの間、珍しくすぐに反論が返ってくる。


 「そんなの決まってるっ!二人で災禍を乗り越えて、「姫宮なしろ」とあの子が二人でお店を続ける!それ以上の幸せなんて無いでしょ!キミの書いてる趣味の悪い物語の中でも、一番のハッピーエンドだよっ!」


 己の理想を力説し、ネメシスに理解させようとするニュクスに、曖昧な笑顔を返した。

 

 「……そうだね、もし、仮にそんな物語の幕引きがあったのならば、それは間違いなく「幸福な結末(ハッピー・エンド)」だろうね。……でも」


 笑顔に陰りが生じる。それと同時に、収納していた本を数冊取り出し、ペラペラと捲る。


 「そんな「幸福な結末」は起こり得ない。今までだってそうだろう?「物語」は、往々にして「不幸な結末(バッド・エンド)」で締めくくられ、其の者の生涯を使い果たし、幕切れとする。そうだね、強いて言うならこういう結末なら、「幸福な結末」と呼んでも良いのかな?」


 ネメシスは一冊の本を、ニュクスに差し出す。

 彼女に渡した本は、似たような境遇に直面した、とある少女の物語だ。

 大切な仲間を想い、救う為に、自己犠牲を繰り返した彼女は、最終的に仲間に幽閉され、半ば自由を奪われながらも生きながらえる。

 そんなほろ苦くも少し甘い物語(人生)を綴った一冊の本だ。

 個人的には駄作の部類に当てはまると思っているのだが、これくらいしか「幸福な結末」と呼べるものがなかった。

 ニュクスは手渡された本の表紙を見ると、怒りを顕にし、本を虚空へと投げ捨てる。


 「こんなの!ちっとも幸せなんかじゃないっ!それに、この本をボクに見せるのはダメだって、そう言ったでしょ!?」

 「そうだった、かな。僕も長く物語を綴るせいで、すっかり忘れてしまったらしい」


 惚けるネメシスの胸倉を、ニュクスは掴み上げる。

 自分の背丈よりも大きな男を持ち上げることが出来るのは、流石だと言わざるを得ない。

 感心しながらも、絞まる首を庇いながら、ネメシスは微笑をたたえて言う。


 「止めないか。こうして、キミが僕を害そうとも、「姫宮のるん」の運命は変わらない」

 「……ふんっ」


 一応、言葉は理解できたのか、掴んでいた手をぱっと、離され、ネメシスは解放される。

 えづくフリをしながら、ネメシスはチラリと姫宮達の動向を見る。

 どうやら、移動が終わり、「姫宮のるん」達が、星蝕の祭壇へと辿り着いたらしい。

 

 「着いたらしいね、彼女の物語の終着点に。さて、どうなるんだろうね」

 「こうしちゃいられない!ボクはあの子を止める!!」


 ネメシスは普段着に似た格好から、武装付きの格好に瞬時に変わる。

 あちこちを鎖で縛られたようなその姿は、みるからに囚人と言った風体だ。


 (もう、物語の結末は決まっているというのに、どうするつもりなのだろうか……)

 

 すぐにでも出ていかんとするニュクスを今更、静止するつもりはない。

 だが、老爺心が少し残っていたネメシスは彼女達の動向を注視しながら、言葉を投げかける。


 「別にキミを気遣うつもりはないが、止めておいた方が良い。どうしても行くというのなら」

 

 ネメシスの言葉を怪訝に思ったのか、ニュクスは眉を顰めながら、言葉の続きを促す。


 「……どうしても行くなら、なに?」

 「いつもの行き方は止めておくべきだ。伏兵が居る可能性だってあるからね」


 ニュクスは、我慢しきれなかったのか、ぷっと吹き出して笑う。


 「伏兵なんて居るわけ無いじゃんっ!時間が惜しいんだから、最速ルートを通るに決まってるっ!」


 ネメシスの忠告を聞き入れなかったニュクスは、その場から姿を消してしまった。

 急に静かになった、白と黒が入り混じるバーの様な場所で、ネメシスは息を吐く。


 「この物語に、キミまで書き記さなきゃいけないのは、些か癪なんだが……」


 ネメシスは、仕方ないと言った様子で本を取り出し、ペンを走らせる。

 視線の先には、「姫宮なしろ」が他の仲間達とデバイスへ向かう場面が映っている。

 

 「僕は此処で見守るとしよう。最後の最期まで」


 

 





 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ