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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
第五章『失いつつある物が』
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#47 たった、一雫



 「居た!!のるん!!」

 「……来たんだね、なしろ」


 息を切らしながら、駆け抜けたなしろは、目前ののるんに向けて、声を上げた。

 どうやら、間に合ったらしい。見るからに出発直前と行った様子の、のるん達を見て、なしろは心底安心した。

 それと同時に、頭の中で、何かが割れる音がした。壊れる音がした。

 硝子を踏んだ時のような、越えてはいけない何かを越えてしまったような。

 そんな不安感がどっと押し寄せる感覚に襲われ、身を震わせる。


 (なんだか、のるんがのるんじゃないみたい。じゃあ眼の前ののるんは……?)


 いつもの優しいのるん。薄い微笑を称えながらも、少しだけ困った表情。

 こんな場所で出会っても、のるんはのるんのままだった。でも何かが違う。

 その違和感を言語化出来ないが為に、なしろは酷く、心をざわつかせる。


 「どうして、こんな所にいるの?店、なしろに任せたはずだけど?」

 「そんなの駄目。店主はお店で暇そうにしてないと、駄目なの」


 なしろの言葉に、のるんは複雑そうな顔で苦笑する。

 この反応だって、いつもの彼女だ。でも、違う。何か一つだけ、ズレている気がする。


 「んぅ……、まぁ、用事が終わったら帰るよ。ちゃんとね」

 「帰らないんでしょ。わたし、しってるよ」


 なしろの言葉に、のるんは目を白黒させる。

 どうして、知ってるの。そう言いたそうにしているのを、必死に抑えてる。

 そんな顔をしているのるんを見て、嘘じゃないと分かった。

 嘘、つかれてるって分かった。とても悲しい。許せない。信じられない。


 (でも、それでも。わたしがやることは一つだけ)


 「……そっか、知っちゃったんだ」

 「うん。だから、止めにきた。絶対にいかせない」


 なしろは真っ直ぐ、のるんを見据える。

 寂しげで、悲しげな彼女の顔を、誠実な瞳で射抜く。

 のるんは、なしろの言葉を聞いて、首を横に振る。


 「ごめん、いかなきゃいけないんだ。時間、もう無くてさ」

 「ダメ。そんなの、わたしがゆるさない。絶対にいかせない」

 

 どんどんと曇るのるんの表情に、なしろは胸が締め付けられる。

 本当に自分がしていることが正しいのか、のるんが一体何を成そうとしているのか。

 それを知らないのに、自分のわがままを貫き通しても良いのだろうか。


 (わからない。でも、ここでのるんを失ったら、絶対に後悔する!)


 なしろは軽鈍器を持ち出し、のるんの顔面へと突きつける。

 目を丸くさせたのるんは、両手を上げ、戦闘の意思がないことを伝える。


 「……何のつもり?なしろ、ボクはそんな暴力的な子に育てた覚えはないのに」

 「もう、これしかないもん。力尽くで止めないと、のるんが居なくなっちゃう」


 なしろがのるんに軽鈍器を振り下ろそうとした瞬間、何かに弾かれ、仰け反ってしまった。

 何事かと、のるんが居る方向を見ると、そこには双刃(ダブル・セイバー)を構えた茶々丸が立っている。

 

 「おっと、ダメだよ。「御令嬢(マイ・ディア)」、僕達はもう行かなくちゃいけないんだ」

 「……どいて。まだ話はおわってないの」


 自分でもこんな声が出るんだ、と驚く程冷たい声で、茶々丸を威嚇すると、何故か彼女は嬉しそうに身を捩らせる。

 良く見たら、身体のあちこちが既にボロボロだ。リンチにでもあったのだろうか。


 「そんな声や仕草も出来るなんて、最高じゃないか!「御令嬢」!……ふむ、やはり」


 茶々丸はいきなり、真剣そうな表情をして双刃を収納し、ふぅっと息を吐く。


 「キミの味方は出来そうにない。悪いが、この場は僕らに譲ってもらうよ。シル!!」


 茶々丸がシルヴィアの名前を呼ぶと、何処からかシルヴィアが現れる。

 手には見慣れない装置……、いや。見たことがある。あれは、盞華が持っていたものだ。

 

 「はい、仰せのままに。それでは、姫宮様。お先に失礼いたします」

 

 シルヴィアが持っていた、リューカーデバイスを起動する端末が、光を放ち、のるん、茶々丸、シルヴィア、リアの余人が光に包まれる。

 行かせまいと、必死に手を伸ばすも、リアのテクニックで軽鈍器での攻撃が防がれる。


 「だめっ!いっちゃだめ!!のるん!!」

 「ごめんね、でも、本当に止めたいなら……待ってるから。「星蝕の祭壇」で」


 のるんの言葉に、のるんにくっついていたリアが眉を顰める。

 

 「貴方まで余計なことを言わないの。此処で今生の別れで良いじゃない」

 「あはは、まぁ……少し寂しいじゃん?それに、きっと、来れないだろうしさ」


 頬を掻き、困った表情で笑う彼女は、本当にいつもの彼女だった。

 どうして……リアの前では、いつもののるんなのに、なしろの前では違うんだろう。

 心の中で、じくじくと癒えない傷が拡がっていく感覚に襲われる。


 (なんで、あいつの前で、そんな顔で笑うの。どうして、隣りにいるのがアイツなの) 


 なしろの視線に気づいたのるんが、転移直前になって、笑いかける。


 「ボクの代わりに、なしろが店主になってよ。ボクはもう、ダメそうだからさ」


 それだけを言い残したのるん達は、その場から瞬時に居なくなる。

 力が抜けたのか、なしろはその場でへたり込んでしまう。


 「そ、んな……どうして、どうしてそんなひどいことが言えるの……」

 

 涙がボロボロと溢れ、手で拭っても拭っても止まらないそれは、暫くの間続いた。

 それでも、泣いている暇すら無い。そう思ったなしろが立ち上がろうとするも、立てない。

 どうやら、相当の力を消耗していたらしい。

 それもそうだ、他の面々を置いて、一人で此処まで駆け抜けたのだから。


 「姫宮嬢!!ようやく追いついた……」


 先行していたなしろを、盞華が息を切らしながら、追い掛けてくれていたらしい。

 近接職を修めているだけあって、こういった長距離走も得意なのだろう。

 他の面々はまだ見えないが、盞華は、なしろを抱き寄せ、心配そうな表情で見ている。


 「大丈夫ですか?一体、この場で何が起きたんです?」

 「実は……」


 なしろは、のるん達に会うことが出来たこと、のるんが、ごーすてらに帰るつもりがないのは真実だったこと。そして、「リューカーデバイス」を使って、「星蝕の祭壇」という場所に向かったことを、弱々しい声で伝えた。


 「何ということを……」


 信じられない、といった形相で、なしろの話を聞いていた盞華は、奥歯を噛み締めている。

 

 「ねぇ……、「星蝕の祭壇」って何する所なの……?」


 なしろの言葉に、盞華は黙り込んでしまう。

 彼女が此処まで、言葉を考え込むような場所なのだろうか。返事を催促すると、盞華は悲しげな表情で言葉を紡ぎ始める。


 「……「星蝕の祭壇」は、生贄文化が未だに色濃く残されている「スティア」地方にある場所です。そこでは、大きな災いを鎮めるために、人の命を捧げ、平穏を保たせる。とされています。そこに行き、もう帰らない、と本人が宣言したということは……」

 

 盞華の言葉を聞いたなしろの顔は、血の気が引き、真っ青になる。


 「じゃ、じゃあ……のるんは……」


 なしろが恐る恐る放った言葉に、盞華は苦虫を噛み潰したような表情で、首を縦に振る。


 「恐らくは、姫宮殿が自ら、生贄に捧げられようとしているのでしょう……。災禍の為に」

 「のるんの命が必要な災いってなんなの!どうして、のるんが死ななきゃいけないの!!」

 

 自問自答のような、魂の叫びを放ってから、ふと気づいた。居るではないか、災いとされる者が。

 今の今まで、気づかなかった。ずっと何かが引っ掛かっていた物が、少しずつ紐解ける。


 (リアさんとの戦いの時、「Noise」が出せなかった。のるんは物凄く苦しそうだった)


 もっと、考えてみれば色々気になる部分は多かった。

 堕夢騒動の際、のるんだけ、身体の負担が凄まじかったのだ。

 他の面々は、多少の傷こそあれど、ほぼ無傷で帰ってきていたというのに、のるんだけが瀕死だった。

 その時は、さらとの戦いがそれほど苛烈だったのだと、思っていたが、違った。


 (あれは……やむを得ずに「Noise」の力を使った後遺症……、なんで……)


 なしろも最初に「Noise」を使った際には、強烈な副作用が身体を襲っていた。

 そこまで考えて、なしろは更に顔を真っ青にさせる。


 (最初の一回以降……、副作用がなかった……?)


 身体の倦怠感や、無理に動かした身体の痛みなどが、襲い掛かっていたのが、いつの間にか無くなっていた。

 それを自分の成長だと思いこんで、疑わなかった。でも、違ったのだ。


 (どうして、もっと早く気付けなかったの!わかっていれば!止められたはずなのに!)

 

 どうして、止められなかったのか、と。どうして、もっと強く抵抗しなかったんだ、と。

 後の祭りにも関わらず、なしろは地面に拳を打ち付ける。


 「止めましょう、姫宮嬢。今は後悔している場合では無いです。我々も追い掛けて、止める事が先決でしょう?他の面々が追いつき次第、追い掛けましょう」

 「……!うん!」


 なしろは涙を拭き、他の面々が追いつくのを待ってから、「リューカーデバイス」を起動し、のるん達を追い掛ける事にした。 


 

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