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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
第五章『失いつつある物が』
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#41 最低な嘘つき



 なしろ達が出立の準備を整えている頃、のるんはリテムで賞金首狩りに勤しんでいた。

 此処に来たのは数日程前だが、粗方目ぼしい人物は片付けてしまった。

 今は最後の一人である、盗賊の首領とやらの根城にリアと二人で向かっている。

 目的地へと歩いている最中、隣を歩いているリアの足取りが少し遅いことに気づく。


 「大丈夫?気温でやられてない?」

 「……大丈夫よ。ウルの前でみっともない姿は見せられないもの」


 そうは言うが、リアの顔は明らかに紅く、熱が身体に籠もっているのが見ただけでも分かる。

 熱砂の大地は、生きとし生ける者達の水分を容易に奪う。無理は禁物だ。

 のるんはキョロキョロと辺りを見回し、近くにオアシスがある事を確認し、その方向へ誘導させる。

 

 「みっともない姿なんて飽きるほど見たから。ほら、近くで少し休もう?」

 

 砂漠地帯が広がるリテムではあるが、各地にオアシスや街があるため、比較的遭難しにくい。

 立ち寄ったオアシスも、澄んだ水が湧き出しており、周囲には少ないが、植物も生えている。

 足取りも少し怪しいリアを木陰が伸びる場所に座らせ、のるんは湧き水を煮沸消毒しておく。

 

 「ん……こんなもんでいいか。ちゃんとリテム用の格好で動いてるけど、長時間の移動は避けたほうが良いな。目的地のアジトまでは……、後一時間ちょいか。でも、日が落ちると却って動きにくいし……」


 太陽の位置から見て、日が落ちるまであと数時間と言った様子だ。

 日没付近で賞金首を根絶やしにすると仮定すれば、その日はアジトで夜を明かす必要がある。

 冷静に考えて、敵陣営で野営をするなど、信じられない愚行ではあるが、それでもやむを得ない。

 此処で一日休んでも良いのだが、リアの性格上、嫌がるだろうなぁと思いながら、リアの元へ。


 「お待たせ、体調は大丈夫?」

 「休んだら大分マシになったわ。心配かけてごめんなさい」


 しおらしい彼女の黒髪には、砂が被っている。横になっていた事は容易に想像がつく。

 慣れない環境で無理した影響だろう、、水を飲んで休んでも尚、具合は良くなさそうだ。


 (このまま一人にもしておけないしな……仕方ない)


 日も落ちかける中、のるんは再度、水を汲むべく立ち上がり、リアを見る。


 「今日は一晩、此処で過ごす。でも、リアは先に帰ってて」

 「やだ。ノルンが行く場所に、私も行くの」


 子供みたいなことを言い出すリアに、のるんは白い目を向ける。

 とことん我儘な彼女のこういう言葉は、正直もう聞き飽いている。

 

 「足手纏いになるくらいなら、大人しく帰りなさいって言ってるの。ちゃんと迎えも呼んであるから」

 「でも……私、あの人、苦手なの」

 

 指をこね、モノ悲しげな表情でそういうリアの言葉を、ノルンは溜息を吐き、一蹴する。


 「はいはい、そうですか〜。明日の朝には到着するみたいだし、彼女と一緒に帰っててね」

 「やだ」


 これから此処に来る人と、リアは殆ど会話をしているのを見たことがない。

 都合が悪くなると、なんとかしようと、あること無いこと嘘を付くのはリアの悪い癖だ。

 今までも、お腹が痛いと言って大切な依頼をすっぽかしたり、逃げ出したりは日常茶飯事。


 (いつまでも許してあげられるぐらい、ボクは優しくなんか無いんだ)


 ただ、それでも少し可哀想だと、思ってしまうのは恐らく消しされない甘さなのだろう。

 今日一晩、一緒にいることを条件に、なんとかリアに帰らせることを承諾させた。

 どうせ、此処から夜の時間に何処かに行ける訳も無く。

 家族のように親しげに話すリアの言葉を聞き流しながら、夜が更けていくのを待っていた。




 _____________________



 日が昇り、リアが寝息を立てている頃、のるんが呼び出した人物と思わしき足音が聞こえてくる。

 其の者の影が見えた時に、第一声を発する前に、己の唇に人差し指を添え、ウインクをした。


 「声は抑えめにね。やっと少し前に眠った所なんだ」

 「かしこまりました。……となると、姫宮様はまだ眠りにつかれていないのでしょうか」


 恭しい礼をこちらにした後に、こちらを心配する言葉をかけているのは、「BlackSmith.Rpas.」所属のシルヴィア・ラースフォルトだった。

 普段はぴっちりとしたスーツに身を包んでいる彼女も、砂漠地帯にあった服装に身を包んでいる。

 こんな場で、こんな自分にまで礼儀正しい彼女は、状況をのるんから聞くと、ふむ。と一拍置く。


 「姫宮様お一人で、この先を行かれるつもりですか?」

 「ん?……まぁ、そうなるね。シルヴィアさんにはそのおっきな子供を連れて行って貰わなきゃ」


 お腹の前で手を組み、こちらを見ているシルヴィアの瞳は、些か陰りを見せていた。

 いつもは表情一つ変えずに、茶々丸の全てを管理しながらも、店舗経営までしている彼女が。


 「差し出がましい提案かとは思いますが、このままフルール様の御回復を待たれては?」

 「どうして?そんな時間がないことは、キミも分かってる筈だけど」


 のるんの冷たく言い放すような言葉に、狼狽えること無く、シルヴィアは言葉を返す。

 その間も、彼女の姿勢は一切崩れることはない。砂漠であろうとも、何一つ普段と変わらない。


 「姫宮様の実力は重々承知しております。それこそ、「心刀羅刹」を下す程だと」

 「……面映ゆいね。そんなに持ち上げても、必要以上のメンテ費用は出さないよ?」 


 あっけなく返した軽口に反応すらせず、感情的に為りながら、彼女は喰らいつく。

 どうしてそこまで、彼女の肩を持つのだろうか。そんな事しても、もう意味など無いのに。

 

 「そうではないのです。姫宮様はどうしてそこまで、フルール様の好意を無下にするのですか」

 「……別にしてない。それに、彼女の撤退は、彼女の具合を鑑みての判断だよ」


 のるんの目が、少し泳いだのを見逃さなかったシルヴィアは、二の矢三の矢を放つ。

 徐々に徐々に、彼女の語気が強くなる。一体何を吹き込まれたのだろう。悲しいことだ。

 

 「いいえ、違うでしょう。本当に彼女のことを想うのであれば、無理してでも連れて行く筈です」

 「どうしてそう思うのさ?万全の体調でない人を庇える程、ボクには余裕なんて無いんだよ」 


 のるんの言葉に、シルヴィアは凄まじい速度で駆け寄った。

 砂漠用にあしらえたローブのような服を掴み上げ、瞳を覗き込むように睨みつける。


 「例えそれでも、死に往く者と可能な限り、傍に居たいという気持ちをどうして理解出来ない!?」

 「驚いた。キミ、感情あったんだ。でも、誰がなんと言おうと、考えは変わらない、よっと」


 シルヴィアの腕を掴み、腹部を蹴り上げ、弧を描くように己の後ろに投げ飛ばした。

 あまりに咄嗟の出来事だったのか、受け身も取れなかったシルヴィアは、熱砂の大地に打ち付けられる。


 「……結構強めに蹴っちゃったけど、大丈夫?」

 「私のことは良い。今はフルール様の話だ。最悪の場合、実力行使も厭わ……」


 シルヴィアの言葉に被せて、のるんは白銀の刀を喉元に突きつける。

 彼女の瞳に、自分はどう映っているのだろうか。悪人に見えていれば良いのだが。


 「ボクとキミ“達”は、雇用主(クライアント)受注者(ベンダー)だ。仲良しごっこをしてる訳じゃない。それとも、これ以上、ボクに意見するつもりかい?」

 「……いえ。差し出がましい事を申し上げてしまい、大変申し訳ございませんでした」


 身体中に纏わり付いた砂埃を払うこと無く、のるんに向け、恭しく頭を下げる。

 のるんは、白銀の刀を納刀し、ふぅっと息を吐き、にへらと眉を下げて弱く笑う。


 「じゃあ、ボクはもう行くね。リアの事、お願いね。シルヴィアさん」

 「……最後に一つだけ、お伺いしても宜しいでしょうか」


 普段は職務のこと以外、一切話さないだけあって、ここまで喰らいつく彼女は本当に珍しい。

 気になったのるんは、なぁに?と返すと一礼した後に、きっと睨みつける。


 「姫宮様にとっての、フルール様はどういった方なのですか。貴方にはどう映るのですか」

 「ん〜、そうだなぁ」


 のるんは、少し考え込んだ後に、ふと思いついたかのように、物寂しげに呟いた。


 「ボクの一番嫌いな人、かな?……じゃ、もう行くから。戻ったらメンテ、お願いね」

 「……承知しました。お帰りをお待ちしております」


 移動の準備を終えていたのるんは、鞄を背負い、足早に去っていた。

 未だに頬を赤らめている彼女を、シルヴィアは見る。確かに具合は良くなさそうだ。

 ただ、見る感じだと日射病の類で、少し休めば回復するもので、帰還させる程ではない。


 「…………」

 

 彼女が眠っているのを確認した後に、シルヴィアは、近くの木に己の拳を思い切り叩きつける。

 じんじんと痛む腕を厭わずに、一人で小さく、恨めしそうな声色で誰にも聞こえないように呟いた。


 「本当に嫌いなら……、どうして、あんなに泣きそうな顔で言うんだ……姫宮のるん……」





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